王宮にて⑩ ~陛下視点Ⅳ~
裁きをする側である陛下視点パート④です。
長くなってしまって申し訳ないです。陛下視点パートはこれで最後です。
次回からは場面が変わります。
「では、その合同再教育には愚女は不参加で、単独で再教育を施します」
合同再教育の提案があった段階でバウマン男爵から不参加表明が出てくる事は予想内だった。誰もが原因はアレにあるとは思ってはいるが、言動の変化が見られたのは令嬢が関係していると分かっているのだ。だから、男爵からの不参加表明は一考の余地はある。卑怯な事だが男爵からの提案に意味があるのだ。
「ちょっとよろしいかしら」
それまで黙って聞き役に徹していたロザンナが静かに声を挙げた。一斉にロザンナに耳を傾ける。この様な会議に出席し発言をする事が稀な女性であるロザンナからの発言だ。政には関われないが、主義主張はもちろんあり控えめではなく活発で意見はしっかりと主張する性格だ。そんな女性はまだ少ないがそこに惹かれたものだ。
「私は言葉を交わした事は少ないのですけれど、人の言動を捻じ曲げてしまう様な人物の印象はないのよ。本当に報告にある様な事がたったの数年で可能なのからしら?」
ふむ。学生全員に言える事だが印象には残っていないな。今日も発言はしていないから余計にだな。結論から言えば可能なのだろう。方法は分からないが疑いようがない程に結果が出ている。
「親の目から申し上げますと可能でございます。先ほど妄想の世界に生きていると表現させて頂きましたが、その世界に引き摺り込む様に言葉巧みに自尊心を擽るのです。それが成人していないとなると影響は受けやすいかと」
「そうなのね。ただ、ここにいるのは貴族の中でも高位で、権謀術数に日々晒されて警戒心は特に強いと思うのだけれども」
「そうですね。高位の方がより陥りやすいと思います」
「それは何故かしら?」
ロザンナの指摘は尤もだ。高位貴族は特権や利権は確かに大きい、反対に足の引っ張り合いや陥れる事も多い。その為に利用されない様に警戒心は人一倍あるし、各家の心得としても注意は怠っていない。
「相手の望むままに行動し否定的な事は一切排除します。そして相手よりも劣っていると見せ庇護欲を掻き立てる様にします」
「それだけで良いのかしら?」
「それが何よりも重要でございます。妄想の世界にとは申しましたが馬鹿では務まりません。高位貴族や後継者は肯定される事が少ないのです。ある時ふと思うのです、肯定されるのは自分ではなく後ろの存在ありきの自分なんだ、と」
思い当たる節があるのか、三人ともに苦い顔をしている。恐らく余もなんだろ。父上は決して賢王ではなかったが、民には親しまれていたし貴族からも否定的な意見は少なかった。そんな父上が誇らしい反面疎ましかった。
「そうですわね。確かに陛下もその様な時期がおありでしたわね」
「っ!!」
思わず声を張り上げそうになったが、何とか踏みとどまった。が、顔が熱いのは気のせいだと思いたい。だから、そんな優しい目で見るな。ロザンナもニヤッと笑うな。
「んんっ。その様な理由で再教育は一緒に出来ないという事なのね」
「はっ。仰る通りにございます」
「それでも一緒にするべきだと思うわ」
「それは如何様な理由でしょうか」
「先ほどからのお話でご令嬢が原因の一端であると皆さまも認識していらっしゃると思います。それであるならば、今後の対策の為にも一緒にすべきですわ。陛下も含めてどの程度危険なのか実感を持っていらっしゃる方は少ないと思いますの。それで一緒は危険だと判断したならば離せば良いだけの事ではないかしら?」
ふむ、駄目だと判断したら途中で離せば良いだけの事だな。その際の理由は考えるとしても。
「そうですな。王妃陛下のご提案の通りで宜しいかと。今後も起こるか不明ですが、対策は幾つあっても困らないですからな」
「ふむ、宰相が言った様に最初から別ける事は考えておらん。再教育とは言うが罰でもあるのだ、一緒にいた方が効率的且つ管理がしやすい。あと余も興味が湧いたからもちろん担当するぞ」
「陛下の参加は日程調整が難航致しますので、後半になると思います」
「うむ、日程は宰相に一任する。それで全員合同で良いか」
全員を見てそう告げると頷いた。これで最終確認が取れた。再教育についてはこれで問題なしだ。後は廃嫡をどの時期にするかだが、これは各家の判断に委ねる。王家としては布告と廃嫡の時期や婚姻をナターシャ嬢との婚姻をどうすべきかだな。
「この度の沙汰はいつどの様に行うのが最善か」
「今の時期、幸いにも多くの貴族が王都に集っていますので王宮で卒業パーティーを催しては如何でしょうか」
「既に学園で実施済だろう。再度やるのか?」
「愚息たちの行いで卒業パーティーが台無しになりましたので、今後の為に実施した方が良いかと。と言うのは名目です。その際に学生だけでなく親も参加可能にしましょう」
「ふむ。最後にアレたちの沙汰をするわけだな」
「左様です」
ふむ、良い案だな。多少の予算はいるが必要経費として目を瞑ってもらうか。王家から多めに出せば財務も黙るだろう。後は、他の貴族に関しては別室で会食させておこうか。社交会デビューの予行演習とでもしておけば参加しやすいだろう。最後に集まって貴族への布告としよう。
「細部はこれからだが、概ねはこれで良いと判断するが追加や修正はあるか?」
「ございません」
代表して宰相が応えるが、皆頷いてくれた。厳しい内容にならずに一安心したのか、夫人方は安堵の表情だ。だが、ある意味で厳しい沙汰だろう。罰の内容を自分たちで決めろと言うのだからな。
「うむ、これにて会議は終了とする。皆、此度の件、申し訳なかった。仔細が決まり次第、改めて使いを寄越す。後、男爵は残って欲しい」
「もちろんでございます。ですが、全て決まったと思いましたが」
夫婦ともに困惑顔だ。内容は決まって終わりを告げたのに、残って欲しいと。まだ何かあるのかと不安顔だ。だが、これを話さなければ本当の意味での決着とはならない。
「アレたちとの婚姻についてだ」
男爵だけでなく、全員目を見開いて驚き顔だ。その顔の意味も分かる。あれだけ危険だ何だと言っていたのに婚姻かと。それはそれ、これはこれだ。一応、アレがナターシャ嬢を選んだんだ。その決意に変わりはないのならば、気は進まないが認めても良いかと思っているのだ。
男爵の返答は如何に。
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