王宮にて⑨ ~陛下視点Ⅲ~
裁きをする側である陛下視点パート③です。
長くなってしまって申し訳ない。
ドノバン近衛団長からの再教育を合同ではどうかとの提案。これは一考の余地はある。あるが、加害側がひと塊になると、余計な詮索がされないだろうか。廃嫡をしたが一緒に再教育をすると、言葉だけは非難をするが実際はとなりはしないだろうか。
「提案との事だが、計画などはあるか?」
ドノバンは近衛団長で歳も近い事から親しくナイトハルトと呼ぶ関係だ。子を持つ親としてもよい相談相手だった。だから、今回の件についてもある程度は共有していた。嫡男のマイクは言葉少ないが芯はしっかりしていて、武術に関してはまだ伸びしろがあり前線指揮官向きで将来が楽しみだと話していたな。
「学園に入る前や学園内での内容を最初からとは思っておりません。実施するのは学術の中でも交渉術を中心にすべきと思っております」
ふむ。確かに交渉術は重要だ。事前交渉などは本交渉をスムーズに進める為には必要な事だ。力を入れ過ぎると談合や賄賂の危険性が高くなるが。今回は事前交渉をすっ飛ばしていきなり本番だからな。しかもこれは交渉でも何でもない。言わば、謂れのない宣戦布告だ。
「合同にする事は我らの負担を減らす事になりますので良い案かとは思いますが、今回の発端になったのは愚女です。一緒にする事で改善するどころか再教育が終わらない可能性もあります」
バウマン男爵が待ったを掛けた。それは確かに懸念事項で、同じ轍を踏むのかと。今回関わった者たちは成績は落ちていない、寧ろ上位と言って良いだろう。アレの性格もあるのだろうが、バウマン男爵令嬢が深く関わっている事は否定できない。
「我が家は教育に力を入れており、嫁いでいった娘たちも賢妻として引く手あまたでした。しかし、アレだけはどうにも手を焼きました。頭が悪いのではなく、理想と言いましょうか妄想の中に生きております。学園に入ったなら価値観の違いから改善するのかと思ったら悪化してしまって」
男爵は真っ直ぐを見据えていたが、奥方は伏し目がちだ。それはそうだろう、原因の一旦があると自らが証明してしまったのだから。だからと言って国家として罰は下さないがな。
「その懸念は分かる。分かるが再教育を行えば改善するのではないか? 我らとて暇ではないのだ」
ナイトハルトが食い下がる。だが、その理由では弱いな。
「無理でしょうな。先ほどもお話致しましたが学園に入った事で悪化しました。同じ環境に置かれれば結果は火を見るよりも明らか。それに、タチが悪い事に要領が良いのでその場しのぎで難なく達成してしまうでしょう」
「我からも、そもそも再教育を行うのは本人たちへの罰であると同時に我らに対しての罰でもあるのだ。その負担を軽減しろとは何を考えての事だと諸侯から疑念が生じます」
「ぐっ。では、担当する者は我ら当主が担当するのでは如何か?」
「合同ではなく個別に行う場合は私が実施するつもりでした。合同であっても私が担当になりましょう。しかし、ドノバン卿は交渉術を得意とされていない。一体何を担当するおつもりなのでしょうか」
宰相の口撃は鋭い。弁舌を武器として戦争をするのに対し、ナイトハルトは剣だ。この場では宰相に分があるだろう。
「……中心は交渉術なるだろうが、それ以外の武術を指南するつもりなのだが」
「武術ですか。それは何の為にですか。ご自分の得意な事だから再教育の項目に加えてさも罰を受けたとの印象を与えたいが為ですかな」
「!! 口が過ぎますぞ宰相殿。邪推も邪推だ。私は廃嫡後の事を心配しているのだ」
部屋の温度が下がったと思う程にナイトハルトの声音が低く威圧している様だ。それを受けても平然としているのは宰相だ。余裕すら感じられる。宰相という立場で威圧を受ける事なんて日常だ。それに比べるとな。
「ドノバン近衛団長、ここには夫人もおられる。この場では相応しくない振る舞いだ」
「……申し訳ございません」
威圧を和らげ言葉では謝罪しているが、目つきは宰相を捉えているままだ。
「して、廃嫡後とは?」
「は。私に交渉術を指南する事は困難であると理解しております。従って武術を指南するのです。理由は廃嫡後にどこに活路を見出すのかと言えば、冒険者や隊商護衛などの荒事でしょう。まあ、愚息しか当て嵌まらない事ですがね。馬鹿な事を仕出かしましたが、憎くて責任逃れの為に廃嫡にするのではありません。野垂れ死にしない様にするのは親の最後の責任ですので」
そこまで一気に話し終えると紅茶に口をつけた。寂しい様な虚しい様な何とも言えない表情だった。最後は踏み止まると信じていたのがあの様な結果になってしまったのだ。心情は推して知るべしだ。ここ数日間は職務もどこか上の空で表情も硬かったからな。
「ドノバン近衛団長、試す様な事を申しまして謝罪いたします」
これまで口数が少なかったナイトハルトの本音を誘う為とは言え過剰だったと思っているのだろう、宰相からの謝罪が漏れた。このナイトハルトの発言が全てだろう。期待を掛けていた子供だ、愛情もあり心配だ。それを何の支援もしないで放り出す事は無責任の誹りを受けるだろう。罰は与えるが愛情もあるから厳しくしないとやはり甘いと捉えられるだろう。そこは痛し痒しで匙加減が難しい。何より夫人がたは己の腹を痛めたのだ、我らよりは愛情もあるだろう。
「では、その合同再教育には愚女は不参加で、単独で再教育を施します」
場面転換がなく、会話主体って退屈ですか?
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