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王宮にて⑦ ~陛下視点Ⅰ~

ここからは裁きをする側である陛下視点です。

 「静かにしろ! 話は出揃ったと判断する。学生諸君は退出しなさい」

 

 息子たちが退出し空いた席に親たちが座った。出入りに合わせて別室に待機させていた侍従長が入室してきて紅茶の配膳をする。先ほどまでは配膳する為のテーブルが親たちにはなかったので一律配膳しなかったのだ。後で報告する事になるが、当事者のみしか入室は許可していないので一礼して退出させた。

 

 息子の余りにもな説明、いや稚拙な言い訳を聞いて呆れてしまった。初めての子供だがら甘くならない様に厳しく教育を施したつもりだ。教育係の評価は良く親の贔屓目で見ても中々だと思っていた。マルグリット嬢と婚約出来た事も盤石だと胸を撫で下ろした程だ。それがどうして。

 

 「ロザンナ、君はどう思った?」

 

 「そうですわね。計画がなくその時に思い付いた事をただ実行しているだけ。望む結果だけを見て影響を一顧だにしない唯々呆れるばかりですわ。マルグリットが娘になると喜んでいたのに残念ですわ」

 

 隣りを見ると静かに怒っているのが伝わってくる。相談をしない事を怒っているよりもマルグリット嬢を蔑ろにした事に怒っている様だ。同じ王妃教育をした身としては共感する部分もあり嫁ぎ先がなくなった事への憤りもあるのだろう。

 

 「そうだな。学園に入るまでと随分と変わってしまったな」

 

 思わず他人事みたいな事を天井を見上げて吐露してしまった。どこかで修正できたのだろうか。折に触れて行動を改める様に注意はした。しかし響かなかったか。自責の念に駆られて思考の沼に嵌りかけた所でロザンナから声が掛かった。

 

 「陛下、そろそろ前を向いて下さい。これからの事を話しませんと」

 

 「お、すまない。息子たちは退出したので、これからについて話し合いたい。何か意見はあるか?」

 

 こう切り出すと初めに声を上げるのは決まって現宰相のクライヴだ。爵位が高いのも理由の一つだが、他二家は弁舌家ではないから譲った感じだな。

 

 「婚約破棄は重大事ではありますが、学園内での事です。先ほどは継承権剥奪と申しましたが、学生のした事ですので不問で良いと愚考します」

 

 「考えないでもなかった。だが、数日とは言え婚約破棄の情報は駆け回っているだろ。しかも他国からのそれとなく話題にもなったと報告があった」

 

 「殿下は政務の一部を担っているとは言いましても国家の重大事の婚約破棄をするだけの権限はございません。妄言として処理しても良いかと思われますが」

 

 そう、この事件の問題はここなのだ。幾ら婚約破棄を叫ぼうが権限がないから実行には移せない。今回の事で言うと選定に関わった宮内省、内務省、王家、侯爵家と無視するには余りにも多すぎる。

 

 「そうだ。アレが何と言おうと決定は覆らない。だが、たった五年間で言動が変わってしまったのは看過できん。時間を掛ければ矯正できるだろうが労力に見合わない」

 

 「ですが、現在直系の王位継承者はお二人のみです。臣籍降下後も継承順位は残っている方々はいらっしゃいますが、混乱は避けられません。殿下を不問とする事が有益だと愚考致しますが」

 

 そこを突かれるのは分かっていたが痛い。全く宰相も加害側なのに責めるとは、両家痛み分けとはさせてくれないのか。宰相としての顔がそうさせているのだろう。

 

 「もちろん考慮しているがそれを踏まえても不問は出来ん。最大の理由は政務を任せている者が決定権者を無視して断行出来ると思っていた事だ。その他、細かい所は様々あるがこれだけでも十分だろ」

 

 政務を担っている者からすれば、決定を無視して断行するなんて考えの埒外だろう。覆すのなら手順が存在する、それをしないのならば法や手順が形骸化し無秩序になってしまい最終的に国民に負担が行く。決定を無視する事は絶対にないとは言い切れないが、最終的には折り合いが付けば良いのだ。今回はどうあっても折衷案はない。

 

 「たった一度の失敗で継承権剥奪は重すぎる罰です。失敗をしたのなら正すのが我ら大人の役目かと思います」

 

 確かに重い。だが、折に触れて注意し言動を改める様に促してきた。それを一顧だにせずに邁進したのはアレだ。ならばその結果を受け入れなければならない。例え覚悟がなくとも。

 

 「それはそうだ。だが、あの年齢で注意しても改善しないのなら諦めた方が賢明だ。それに先ほどのアレの説明を聞いていて将来安泰だと思えたか? 余は不安しかないぞ」

 

 「そのお考えには完全に同意致します。では、過程段階で何度も注意を促したのに改善がなかった故に一度の失敗で継承権剥奪のお考えに至ったと」

 

 「そういう事だ」

 

 「……分かりました。そこまで熟慮された上での判断であると」

 

 暫く見つめ合って決意は固いと分かったのか了承し紅茶に口をつけた。翻意を促していたのは政務でも同じ事をする宰相なりの確認作業だ。最初から同意なんて事はなく、反対意見や懸念事項を伝えて落とし穴がないか確認をするのだ。違う視点での意見は気付かなかった事を洗い出せるので有効だから続いている。それに他の二家の為でもある。実際は侍従長や宰相と事前に意見の擦り合わせはしてるから反対に回るなんて事はないのだがな。

 

 「アレについては継承権剥奪が妥当だと判断する。後で大臣級には承認手続きを取るが意見はあるか?」

 

 それまで黙って聞いていたバウマン男爵が声を挙げた。

 

 「殿下については納得致しました。その他はどうなりましょうか」

 

 男爵本人は覚悟を決めた表情であるが、夫人は俯き不安で押し潰されそうな表情だ。令嬢に原因の一端はあると判断しているが、責任を負わせるつもりは毛頭ない。


お読み頂きまして誠にありがとうございます。

『面白い』『つまらない』など評価を是非宜しくお願い致します。


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