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三日月楓の挨拶



 先ほど唐突に「歌は好きかい……?」みたいに話しかけてきたどう考えでも危険な匂いしかしない青年が、壇上で入学の祝いの言葉を述べている。


 にこやかで爽やかで美しい三日月の様子に、女生徒たちが感嘆のため息をついていて、何も知らない冬子も紅葉の隣で口元をニヤニヤさせている。


「聖シャーロット学園に入学してくれた皆を、生徒代表として歓迎します。これからきっとさまざまな困難が君たちに降りかかるでしょう。級友たちと力を合わせて、乗り越えっていってください。もちろん僕たちも力を貸します。いつでも、声をかけてください。皆さん、入学おめでとうございます」


 さまざまな困難が降り掛かりますのところで、紅葉は思わず(本当だよ……)とつぶやいた。

 お前を筆頭にな! と睨みたかったが、静かにしていた。

 命を大事に。


 吹奏楽部の演奏と共に、最後に校歌の斉唱がある。

 

〜〜〜〜〜〜〜


 聖シャーロット学園校歌


 輝く海辺を見下ろして

 双頭の天使が舞い降りる

 十字の光が目覚めを誘う

 あの日の約束果たすため

 あぁシャーロット学園 我らの母校


〜〜〜〜〜〜〜〜


(なんだこれ……)


『変な歌だよね』

 

 紅葉の肩の上で尻尾をパタパタ揺らしながら、エンジュが言う。

 流石に冬子も首を傾げている。けれど卒業式が終わると嬉しそうに「校歌、意味ありげで格好良かったよね……闇の力が校舎に封印されてるみたいで」と言っていた。


「冬子は闇の力が好きなんだね」


「そうなの。さっきのすごく怖かったけど、ああいう化け物がいるんだって興奮しちゃった。紅葉ちゃん、魔法みたいな力が使えるんだよね。すごい。格好いい」


「冬子、その話は秘密に……」


「不思議な力ってのはなんだ?」


 A組の教室に向かう途中でヒソヒソ話していると、紅葉と冬子の肩に腕を回して、間に入り込んでくる男子生徒がいる。

 耳にはじゃらじゃらとピアスがついていて、制服の前も開いている。

 中からはカラフルなシャツがのぞいていた。

 ハーフアップの茶色の髪に、目つきの悪い鳶色の三白眼。見るからに怖そうな青年である。

 

「ああああなた、誰ですか……?」


 冬子が聞いてくれて、紅葉はほっとした。不用意な発言はできれば控えたい。目立たないように生きたいのだ。できれば。


「俺は二兎神仁。で、不思議な力って? 化け物って?」


「……知らない」


「嘘だねぇ、聞こえたんだよ。俺は耳がいいんだ。今日の朝、異形が消された気配がしたんだが、あんたか」


「知らない」


「無理があるだろーなんだその包帯。そこに不思議な力を隠してんのか? え、中二病?」


「こ、これは、そうだ……ここに私は力を封印している。私に近づくな、この包帯を取ると世界が滅んでしまうぞ」


 紅葉は誤魔化した。全力で誤魔化した。

 冬子は仕方なかったが、この得体の知れない青年にまで紅葉の力のことを知られたくない。


「あはは……! 面白いな、あんた。なぁ、名前は? 何組?」


「柊紅葉。それでこちらが、夢原冬子。冬子は闇の力が好きなんだ。だから、私は闇の力を持っているという設定で……そうだね、冬子」


「う、うん、そう! そうそう!」


 仁を振り切ると、紅葉と冬子は教室に入った。

 仁も後を追いかけるようにして悠々とA組に入ってくる。

 同じクラスらしい。

 それぞれの椅子に着席すると、最低なことに仁は紅葉の後ろの席だった。

 冬子は紅葉と席が離れてすごく寂しそうにしていた。


 紅葉の隣の席も男子生徒である。

 窓際に座る男子生徒は、銀色の髪に涼しげな青い瞳をしている。

 紅葉のことを気にする様子もなく、窓の外を見ているので安心した。


 安心している間にも、仁は紅葉の背中を突き続けている。


「なー紅葉。その闇の力、見せてくれよ。包帯外してくれねぇか?」


「嫌だ」


「怪我でもしたのか」


「してない」


「今日、授業早く終わるんだよな。午前中だけなんだろ。一緒に帰ろうぜ、ラーメン食わねぇか?」


「……食べたい」


「やった」


 ティナだった頃は、ろくに食事もさせてもらえなかった。

 神殿ではいじめられていたので、ティナの分の食事は他の聖女たちが意地悪をして捨ててしまったのだ。

 流刑地には食糧など何もなかった。最後に齧ったのは雪だ。


 ラーメンが食べたい。なんだかすごく美味しい予感がする。

 紅葉はラーメンを食べたことがあるけれど、ティナは食べたことがないのだ。


(エンジュ、この男は安全なのか?)


『紅葉。男はみんな狼だよ』


(そんなことは聞いていない)


『今の所、即死フラグは立っていないね。ちなみに、二兎神仁も攻略対象だよ』


 ラーメンを食べに行く約束をするんじゃなかった。

 約束を後悔して思わず窓の外に視線を送ると、隣の男子生徒と目が合う。


 なぜか、優しく微笑まれた。





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