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入学式でも死にやすい



 紅葉は冬子と共に入学式の行われる体育館に向かった。

 ティナにとっては初めての世界だが、紅葉の記憶には中学の校舎の記憶も刻まれている。

 

 校舎というのは大抵同じような作りになっているらしい。

 校門があり、校舎までは並木道がある。テニスコートがあり、グラウンドがある。

 校舎があり、体育館は別棟。校舎は三階建てで、私立高校とあってか外壁は綺麗に塗られていて新しい印象だ。


 紅葉の中学校はもっとボロボロだった。

 外壁にはヒビが入っていたし、エアコンからは水が垂れてきて、雑巾をエアコンの下に置いていた。

 机はガタガタしたし、椅子もガタガタした。

 それに比べれば、聖シャーロット学園はとても新しく綺麗である。


「冬子、なぜ腕にピッタリくっつくんだ?」


「だ、だだ、だって、さっきあんな怖いものを見たばかりななんだもん! 怖いのよ! 紅葉ちゃんにくっついてると落ち着く!」


 入学式を祝うために花輪の置かれている校門をくぐり、校舎前の掲示板で自分の教室を確認する。

 その間冬子はずっと紅葉の腕にぎゅっとしがみついていた。


「紅葉ちゃん、一年A組! 一緒だよ、よかったぁ」


「本当だ。心強い」


 それは紅葉の本心だった。

 ティナは魔物討伐の知識はあるが、それ以外のことにはまるで詳しくない。

 紅葉は敷かれたレールをまっすぐ歩くようにして生きてきたのだ。特別な力も持っていないし、特別強いわけでもなければ、特別弱いわけでもない。


 だから、入学初日で友人ができるのは心強い。

 それに冬子にはすでに紅葉のティナとしての力を見せてしまっている。

 秘密を共有しているという意味ではとても気安かった。


(エンジュ、何か情報はないのか?)


『欲しがりさんだね、紅葉は』


(お助けマスコットは私を助けるのが役割だろう)


『僕がアドバイスできるのは、即死イベントが起こるのを教えることぐらいだよ。あとは、攻略対象のステータスを教えることができるのと、紅葉のステータスを教えることができるね』


(私にステータスがあるのか……!)


 人間にステータスがあるのかと、紅葉は心の中で驚いた。

 頭の中でエンジュと会話をしているが、表面上は無表情である。

 冬子はニコニコしながら紅葉の腕にしがみついて、体育館への道を一緒に歩いている。


『柊紅葉、十五歳。誕生日は五月五日。筋力:まあまあ、知力:そこそこ、素早さ:うさぎぐらい、度胸:それなり、魔力:鬼、女子力:底辺。状態異常、追尾。装備品追加ステータス、中二病』


(ざっくりしすぎてないかそれは。女子力が底辺とか! 乙女ゲームのヒロインに対して失礼では!?)


 紅葉は既にこの状況を受け入れていた。もう受け入れるしかないのだ。

 すでに一度目の即死イベントに遭遇してしまったのだから。


『話し方を改善した方がいい』


(別にこのままでいい)


『ところで紅葉。もうすぐ校舎にたどり着くのだけれど、その前に男子生徒に話しかけられるよ。赤が好きかと聞かれて好きだと答えると、そのまま攫われて閉じ込められて最終的に殺されるから気をつけて』


(これは本当に恋愛ゲームなのか……?)


 非常に疑わしい。

 本来のルートなら紅葉が一人で訪れる体育館前に、今は冬子と一緒だ。

 そんな妙なイベントは起こらないのではないかなと思いながら歩いて行くと、エンジュの言ったとおり男子生徒がふらりと紅葉の前に姿を表した。


 艶やかな黒髪に、金色の瞳をしたどこか儚げな美貌の青年である。


(目の色はそれでいいのか……)


『紅葉。これは乙女ゲームの世界なんだよ。平気で青い髪とか、紫の髪の男が出てくる。安心して』


(なるほど)


 学園の制服を着ていて、青の校章をつけているので三年生だろう。

 校章は、三年生は金、二年生は赤、一年生は青という決まりがあるのだ。


「君……赤は好き?」


 紅葉は何の脈略もない質問をされた。

 冬子は訝しげな顔をして、紅葉の後ろに隠れている。人見知りなのだ。


 紅葉の頭の中に、三つの選択肢が浮かび上がる。


 赤は好きです。

 赤は嫌いです。

 何言ってるんだお前。


 流石に三番目の、何言っているんだお前は駄目だ。すごく言いたいけれど、駄目だ。

 ティナは魔物と戦うことには慣れているが、相手が人間となれば戦えない。

 人間は戦うべき相手ではなく、守るべき相手なのだ。


 それなので、紅葉が青年に攫われた場合、何の抵抗もできない可能性がとても高い。


「赤は嫌いです」


「そう……じゃあ、後ろの君は?」


「ああああ、赤、赤ですか? 嫌いじゃないですけども……」


 冬子がそう言った途端に、青年の目に喜色が滲んだ。


「そう、君は赤が……」


「私は赤が好きだ。この子よりもずっと赤が好きだ。大好きだ」


 紅葉は慌てて捲し立てる。冬子を犠牲にするわけにはいかない。自分だけ助かることなどできない。

 青年が何者かは知らないが、なんとかなるだろう、きっと。


『あっ、紅葉! さっき教えたばっかりなのにどうしてそう君は……』


「そう、君は赤が大好きなんだね。僕も大好きだよ。僕は三日月楓、三年生。それではね」


 にこやかに微笑むと、楓は去っていく。

 冬子が紅葉の腕をぐいぐい引っ張った。


「あれ、有名な三日月先輩だよ! 文武両道眉目秀麗清く優しく美しい、非の打ちどころのないイケメンだって評判の!」


 非の打ちどころのない人間は、人をさらって閉じ込めて殺したりしないのでは?

 そう、紅葉は思った。

 だが言わなかった。今のところ楓はその可能性があるというだけで無実なので。



三日月楓:生徒会長:17歳、黒髪、金の瞳。筋力:鬼、知力:鬼、素早さ:チーター級、魔力:魔王 特記事項:赤に執着する

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