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5 苦行のドレスシューズと水ぶくれ


氷の様に冷え冷えとした空気がパーティ会場を漂った。


わたしも含めた周りの貴族達があっけに取られた表情で、立ち上がって令嬢に怒るわたし(ナイジェル様)をぼーっと見つめていた。


「あ…いや…おほほ…興奮して、すみません…ですわ」

愛想笑いをしたナイジェル様は、また何事も無かった様にぽすんと椅子へと座った。


令嬢二人組はわたしの姿のナイジェル様の怒りの勢いに気圧されたのか、わたし(ナイジェル様)をダンスに誘った事も忘れてその場をそそくさと立ち去っていった。


下も向き足をぷらぷらとさせて座るナイジェル様に、気になったわたしは尋ねた。


「あの、大丈夫ですか?ナイジェル様…彼女達に何か言われたのですか?」

「思い出すと腹立たしいから…ソフィアに言わない。…言いたくない」


プイと顔を背け子供っぽい言い方をしたナイジェル様は、まだ少し憤慨している様だった。


わたしは可笑しくなって少し笑いながら、ナイジェル様にとりなす様に言った。

「あの令嬢達の『ナイジェル様に釣り合わない』ならいつもの事ですわ。会う度に仰るので既にご挨拶なのかと思っております。ですからわたくしそんなに気にしておりませんわ」


それを聞いたナイジェル様は真っ青になってわたしを見つめてショックを受けたように呟いた。

「そんな…酷い。何て事だ。婚約者がそんな事を言われていた事に気づいていなかったとは…」

「ナイジェル様…」


そしてそのまま顔を強張らせてナイジェル様は俯き喋らなくなってしまった。


 +++++


舞踏会の会場はわたし達の気分を置いて行くように、盛り上がっている。

 

 その中でわたしが何度も練習したワルツの曲も聞こえていた。

(ああ…これはワルツを踊るのに何度も練習した曲だわ…)



わたしがぼうっとして曲に聞き入っていたが、ナイジェル様の様子は違っていた。

ナイジェル様は舞踏会に来ている貴族達を目で追いながらチェックする様にじいっと見つめていたのだ。


するといきなりナイジェル様が顔を上げて椅子から立ち上がった。

「あ…あれは…」

 

「待てっ…」

つまずきそうな勢いで歩こうとしたのと同時に『…痛ッ』とわたしの姿のナイジェル様が小さく叫んだ。


わたしは慌ててナイジェル様の足元に屈んだ。

「足をどうかしましたか?」

(立ち上がって勢いで足を挫いたのかしら)


ナイジェル様は小さく呟いて痛みに眉を寄せていた。

「…足が痛いんだ」

「まあ…少し失礼いたしますね。お靴の中を少々拝見させて頂きますわ」

「あっ…」


嫌な予感がしてわたしはナイジェル様が抵抗するのも構わず、ソフィアが履いていたドレスシューズを脱がせた。


(ああ、やっぱり…)

予想通り両方の足の小指は靴に当たってしっかりと大きな水ぶくれができており、踵は酷い靴擦れで皮がすでに剥がれていた。


真っ赤になっている傷がとても痛痛しい。

近年見た事が無いくらい酷い状況の靴擦れではあった。


わたしは小さくため息を吐いた。


「…だから言ってくださいねと言いましたのに…」

「悪い…こんなに酷くなっているとは思わなかった。でも…」


ナイジェル様はそうわたしへ言いつつも、目線は扉の方向へ向いている。

扉というか、扉の奥の廊下の方向だ。


こんな状態にも拘わらず、視線だけでも追いかけようとするナイジェル様にわたしは違和感を覚えた。


「ナイジェル様。向こうにどなたかお知り合いでもいらっしゃるのですか?」

「あ…いや。…どなたがと言えないのだが、追いかけたい人が歩いていた気がして――」

「追いかけたい?」

「う…む…ああ。まあ確認したいというか…」


ナイジェル様にしては歯切れの悪い物言いだった。

言っている事の要領が得ない。


けれど、ずっと扉の向こうに消えたであろう人の事を気にしている様だ。


ナイジェル様は足にできた靴擦れの痛みと、追いかけたい気持ちとが交錯してとてもやきもきしていた。


(…仕方がないわ)

「…ナイジェル様、少し失礼しますね」


わたしは、わたし(ナイジェル様)の足元に屈んだ。


 +++++



「わああっ!ソフィア!やっ、止めろっ…!」

パーティ会場の皆がその声でこちらを振り向いた。


わたしはナイジェル様をお姫様抱っこをして歩き始めた。

「ナイジェル様…あまり大声を出さないでください。また皆の注目になってしまうではありませんか」

「声なんか出さなくともこれで注目されるぞ――と…」


ふと周りを見渡せば、令嬢たちはひそひそと扇で隠しながら

「…見て。あのナイジェル様があんな事をするなんてなんて珍しい…」

「やっぱり婚約者の方には違うのね。抱き上げてもらうなんて羨ましいわ」

などと軽くざわついていた。


それを見たわたしの姿のナイジェル様はわたし(ナイジェル様の)の首にがっちりとしがみついた。

いきなりの接近と密着にわたしは驚いてしまった。


「え…?ナ、ナイジェル様?」

「…悪いな、ソフィア。このまま俺をホールの扉を抜けて、向こうの廊下の方まで連れて行ってくれ」

お待たせしました。


読んでいただきありがとうございます。

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