十三話
数日後、いよいよ授業が始まる日になった。
この学園では授業は一つの科目につき1時間。1日に5科目やる。
「今日の最初の授業は・・・と。」
「薬草学だ。」
予定表も見ていると、後ろから声をかけられた。
後ろを振り向いて見ると、
「ん?あぁ、ヴォルク先輩ですか。」
「よぉ。」
彼は軽く手をあげ、小さな声で言った。
「この前は助かった。ありがとな。」
「いえいえ。」
「ところで気になってたんだが、隣にいつもいるやつ、誰だ?」
「私はアゼルナ。」
あれ?アゼルナ敬語じゃない。どうしたんだろ。いつも私や私の家族には敬語なのに。
「(ヴォルク・・・だったっけ。こんなやつ、敬うに値しない。敬語を使う必要もないし礼儀も最低限でいい。)新入生。よろしく。」
「おぉ、よろしく。」
「そこの女呼ばわりされたこと、忘れてないから。」
「っ、悪りぃ。」
アゼルナって意外と根に持つんだな〜。学園に入って知らない一面を見れた気がする。
そんなことを考えていたら、教室に誰かが入ってきた。
ルパートのようだ。
「あぁ?そういやぁ、王子サマもここのクラスなんだな。」
「彼もかなりの実力者よ。」
「ヘぇ〜、じゃあ後で喧嘩売ろうかな。」
「いいんじゃない、戦闘狂。」
「戦闘狂っていうんじゃねぇ、暗殺者。」
なんか、二人の気があってる気がする。仲良いな。
「調べたの?」
「歩き方とか見てっと、わかんだよ。」
「へぇ〜。」
はじめてだ。アゼルナが暗殺者ってこと気づいたの。
「安心して。最近はお仕事はしてないわ。」
「へぇー。ソイツハアンシンダ。」
「カタコトになってるわよ。」
「正直言って安心できねぇよ。」
「?どうして?」
アゼルナは心の底から不思議そうに、首を傾げた。
「お前たちってほんとそっくり。」
ヴォルクさんはなぜか肩を落としてそう言った。疲れてんのかな。まさか、解毒薬飲み忘れたとか?
そんなことを考えていたらヴォルクさんが顔をのぞいて話しかけてきた。
「おい、テメェなんか失礼なこと考えてねぇか?」
「なんのことですかぁ?失礼なことだなんてカンガエテマセンヨ〜。」
「うそクセー。」
「そんなことより、あなたまさか王太子殿下にまでそんな態度を取るんですか?」
流石に不敬罪とか言われそう。でもこの人敬語使えんのかな。
「へっ。俺もなぁ、一応貴族なんだよ。猫をかぶるくれぇできるっつの。」
思わず目を見開いてしまった。この人に猫をかぶる事ができたとは。
「あのなぁ、そんなに意外そうな顔するんじゃねぇよ。」
「いやぁ、もしもの時は私が代わりに王太子殿下にご挨拶しようかと考えていたもんですから。」
「お前、そんなことして大丈夫なのかよ。」
「バレないので問題ありません。」
「問題あるっつーの。つか、俺ん家商売してっから知り合いになっといた方がいいんだよ、王太子サマとは。」
そういえば商売をしている家だった気がする。じゃあ大丈夫か。
あ〜あ。つまんない。
私はどうにかして楽しめないかと画策した。そして名案を思いついた。
「あ、じゃあ、今挨拶しに行ってくださいよぉ。見守ってますから。」
「は?なんで今。」
「だってこの後じゃ混みますよぉ?人気ですから。主にご令嬢に。」
「あぁ・・・なるほど。」
「と、いうわけで、いってらっしゃ〜い。」
そう言って私は彼を風魔法で王太子のとこまでおした。
「ロウラン様・・・じゃなくてロウランさん。楽しんでますよね。」
「うん、当たり前じゃないか。」
「うまく猫をかぶっていたらどうするんです?」
「それはそれで面白いよ、うまくできてなかったら特訓してあげて、うまくいってたら爆笑する。面白そうじゃん?」
あぁいうふうに柄の悪い人が礼儀正しくしてるのはそれだけで面白い。
さ〜て、どんな様子かな〜。
私は風の魔法で音を拾った。
王太子がヴォルクさんに気がついたようだ。
「ん?どうかしましたか?」
さてさてどんな反応するのかな〜。
そう思ってヴォルクさんを見てみたら・・・
見事な営業スマイルだった。ひきつっても無いし胡散臭くもない。
予想以上だ。
「意外ですねロウランさん。」
「うん、予想外だよ。あんな表情できたんだ。」
そんなことを話しながら耳を傾けた。
「初めまして。私はヴォルク・マーキス・ヴァルノーです。」
「初めまして。ルパートです。」
「先日のスピーチ、お見事でした。」
「ありがとうございます。大勢の前で話すのははじめてで、緊張してたんですよ。」
「堂々とした立派な佇まいでしたよ。」
見事に貴族同士の会話だ。しかも王族相手の話し方じゃなくて貴族相手の話し方。この前のスピーチで言われたことを踏まえて話し方を考えてるみたいだ。ルパートに好印象を与えている。
「見事ですね。」
「あぁ、立派な貴族同士の会話だ。驚いたよ。」
「ところでヴァルノー家というとヴァルノー商会の?」
「えぇ、ご存じですか?」
「はい、あそこの商品は素晴らしいのでよく使わせてもらってるんですよ。」
「それはありがたいですね。」
「最近は何か新しく開発を?」
「えぇ、魔道具なのでもしかしたら殿下も使うかもしれませんね。」
「魔道具ですか。どんなものを?」
「魔力の使用量を減らせるような道具を開発中でして。もし世に出回るようになって使ったら感想をお聞かせ願えますか?」
「それくらいお安い御用です。」
「ありがとうございます。」
素晴らしい会話だ。相手に不快感を与えないし、宣伝してるわけでもなければ、贔屓を願ってるわけでもない。きっと王太子も好感を抱いただろう。
どうやらあちらの会話が終わったようだ。それでは、とヴォルクがこっちに戻ってくる。
「どうだ?うまくできていただろう?」
「えぇ、予想以上に素晴らしかったですよ。」
「すごいじゃない、戦闘狂。見直したわ。」
「そりゃどうも。」
楽しく話していた我々は気づいていなかった。
影から恨みのこもった目で見つめられていたことに。
ヴォルクさんは柄は悪いけど常識人です。
そして仲間思いで、クラスの人たちに好かれてます。




