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さようならダニー様 ~ とっくの昔に解消した、元婚約者の結婚式に参列させられました ~

誤字報告くださった方!ありがとうございます!感謝です!!

日間異世界〔恋愛〕ランキング、2022年7月15日86位、7月16日29位、7月17日12位!7月18日10位!

週間異世界〔恋愛〕ランキング、2022年7月19日27位!

たくさんの方にお読みいただきましてありがとうございます!!


カランコロンと教会の鐘が鳴る。


これから、わたしの『元・婚約者』であるダニー・フォン・リーゲル伯爵令息とロッテ・フォン・ヘンケル男爵令嬢の結婚式が始まるのだ。


神父様による結婚式の開会の宣言。次いで新郎のダニー様が祭壇の前に進む。そして、新婦のロッテ様も入場し、バージンロードをしずしずと歩いていく……。その最中にわたしのほうをちらっと見て「ふふん」と小さく嗤ったロッテ様。優越感に浸った笑みに、流石のわたしも気分が悪い。


わたしはそんな結婚式に参列させられているのだ。本音を言えば、列席などしたくもないというのに。


婚約なんてとっくの昔に破棄したのだし、こんな結婚式になんて呼ぶなよっ!と、淑女らしからぬ口調で文句の一つや二つは言いたい。


勝手にしやがれ、わたしはもうとっくにアンタたちとは無関係だ。


そう、声を大にして言いたい。


ああ馬鹿々々しい。ホント時間の無駄。わたし、今、すんごおおおおおおおおく忙しいってのにっ!!


はあはあ。とりあえず、叫びは胸の中だけにしておく。


……えーと、落ち着きでも取り戻す間、何故、こんな結婚式に参加させられているのかということでも振り返っておきましょうか。でも余計にムカつくかしら……って、あら、嫌だ。淑女らしからぬ言葉遣いだわね。それもこれもあのダニ、じゃなかった、ダニー様が悪い。



発端は、わたしとダニー様の婚約破棄だ。



貴族子弟の通う学園。その卒業パーティで、いきなりダニー様が言い出したのだ。


「アニカ・フォン・ベルクマンっ!俺はお前との婚約を破棄するっ!」


……まあ、よくある『悪役令嬢物語』に登場するヒロインのように、ロッテ様がうるうるした瞳で、「ぐす……っ、アニカ様。どうかダニー様との婚約破棄を承諾してください。あ、あたしに対するいじめには謝罪なんてしてくれなんて言いませんから……。どうか、ダニー様を解放して……」などと泣きまねをしていたけれど、こっちもそんなバカげた芝居に付き合ってなんかいられない。



なのでサクッとわたしは言った。



「わたしとダニー様の婚約など、この学園に入学する以前に、つまり、約三年前に円満解消となっておりますが、今さら何か?」


「へ?」という声と共に、きょとんとした顔のダニー様とロッテ様を放置して、わたしは友人と共に卒業パーティを堪能した。


『悪役令嬢の断罪ごっこ』もしくは『ダニー様とロッテ様の真実の愛ごっこ』に付き合って差し上げる優しさなどわたしにはない。



で、その時に、『悪役令嬢』を断罪する『ヒロイン』や『ヒロインを庇うヒーロー』役が出来なかったのが不満だったのか、ダニー様とロッテ様から、二人の結婚式に参列しろという手紙が来た。



当然断った。



でも、また来た。



無視していたら「アニカ様がダニー様のことを未だに思い続けていらっしゃるのは分かっております。だけど、あたしたちの結婚式に参列して、あたしたちを祝福し、アニカ様の未練を昇華し、アニカ様も幸せに向かって歩いて欲しいんですっ!だから、絶対にあたしたちの式に参加して」とか、


「お前が俺を未だに愛しているのは分かっている。だが、俺が愛しているのは可憐なロッテだけなのだ。すまない。お前のことを愛することは出来ない」などという鬱陶しい手紙まで来た。


そんな手紙は即座に暖炉に放り投げた。が、燃やして燃やしてもまた手紙はやってくる。


まるで一匹見つければ何十匹も湧いてくる、台所の隅にいる黒い虫のようだ。


ゴキブリ……じゃなかった、ロッテ様はどうしても、『ダニー様に未練たらたらのわたしに対して優越感を得たい』ようだし、ダニー様は『私がダニー様を愛していると勘違いしている』らしい。



鬱陶しい。

実に不快だ。



しかし、自己中心的かつ勘違いしまくりの、ヒーロー・ダニー様とヒロイン・ロッテ様のその手紙を読んで、大笑いした方がいらっしゃる。



ジーク・フォン・ファルケンシュタイン様だ。



「あははははははっ!ここまで自己中心的且つ視界が狭いと逆に笑ってしまうなっ!ダニーとやらはどうしてもアニカに好かれていると思いたいらしい」


控えめに述べても絶世の美男であるジーク様。そのお方が、優雅に微笑むのではなく、大口を開けて、お腹まで抱えて大笑いされていらっしゃいます。


……そんなお姿すら美しいと思ってしまうわたしは末期。


何に対する末期かって?そりゃあもちろんジーク様礼賛病だ。


たとえジーク様が水虫に苦しんで、その足を盛大にお掻きになっている姿を見たとしても、そこには愛しさしか感じない。


あ、もちろんこれは比喩です。麗しのジーク様は当然水虫なんてお持ちではないですよ。足の指の先まで大理石のようなすべっすべの白い肌でいらっしゃいますからね!!


「……婚約していた時も、ゴミ虫のようにしか感じていませんでしたけど。どうして好かれているなんて思っているのか……」


盛大なため息を吐く。


「馬鹿に真実を伝えたところで無意味だよ。彼らは自分の見たいものだけを見て、信じたいことだけを信じているのだから」

「…………婚約を結ばされた時から、お前なんか気持ち悪い離れろ、さっさと婚約なんか破棄しろと言い続けてきたのに……」

「だから無駄なんだよ。何をどう言っても『アニカは自分の気を引きたいから、そんなことを言っているのだ』と思い込んでいるんだから」

「………………元婚約者をぶちのめしてきていいですか?」

「止めておきなよ。アニカの手が痛むじゃないか。せっかくの綺麗な手に傷がついたらどうするんだい?……それよりも、せっかくのご招待なのだから、彼らの結婚式を利用して、馬鹿共を駆除しておくというのはどうかな?」


ジークさまがニヤリとお笑いになった。


ああ、あの悪人顔のジークさまの笑みは素晴らしかった。魔道の記録媒体を購入し、それに録画して永久保存したいくらいにカッコよかった。あまりにかっこよすぎて、一も二もなくジーク様のご発案通りにわたしはダニー様たちの結婚式に参列する旨、即座に返事を出してしまった。……まあ、ジーク様とジーク様のご発案は素晴らしい。だけど、やっぱりダニー様たちに時間を取られるのはホント無駄だし不快だ。……そんな時はジーク様のことでも考えよう。ほら、世界が薔薇色に輝くわっ!


ああ、ジーク様。鮮やかな紫光の黒の髪。天上の神々を思わせるような端麗無比な彫の深い顔立ち。涼やかな目元。細身でしなやかな体つき。その場に立っているだけで人目を引いてしまうような神々しいオーラまで備えているジーク様。

鼻先がこすれ合うほどの至近距離からじっくりと眺めてみても、貶すところなど一点たりともない完璧さ。ああ、なんて素晴らしい……っ!


ジークさまを天上の神とするなら、あの勘違い野郎は地中のミミズ。いや、ミミズは益虫だ。土の腐敗した部分を食べて悪い部分を取り除いてくれる上に、ミミズの糞は非常に有用な肥料として活用出来る。そんな有能なミミズを、あの無益どころか害虫がごとき元婚約者に例えて悪かった。ミミズに謝ろう、うん。あんな元・婚約者などコバエかダニで充分だ。名前もダニとダニーで似ているし。……えーと、何だったっけ?そうそう、ジーク様とダニーなんかを比べるのも烏滸がましいという話だった。そもそも比較対象にもなりはしないのだけれど。だってダニと神なんてそもそも比べるものじゃないでしょう。


……と、ジークさまを礼賛し、ダニを貶しているうちに馬鹿共の結婚式が終わった。落ち着けわたし。ジーク様の予想ではそろそろ馬鹿どもに絡まれる……はず。


祭壇から、ダニー様とロッテ様がおりてくる。そしてそのまま退場……にはならなかった。

ああ、ジークさまの予想通り。ダニー様とロッテ様はわたしの前で足を止めた。


「あら、アニカ様、あたしとダニーの結婚式にまでくるなんて……。やっぱりあなたはダニー様に心を残しているのね……。でも、ダニー様が選んだのはこのあ・た・し。貴女の様な不細工な顔を分厚い眼鏡と前髪で隠している女なんてダニーには似合わないわっ!」

「すまないな、アニカ。俺は……ロッテを愛している。それにブスは好みじゃないんだ」


ブス……ね。たしかにわたしは分厚い黒縁眼鏡をかけて、前髪を長く伸ばして顔を隠している。それに常に、わたしは無表情だ。馬鹿に愛想笑いを向けるのは無意味だし。


だいたい自分たちがわたしを呼びつけているくせに。よっぽどわたしを悪役令嬢扱いして、わたしを貶したいらしいな。無理矢理にでもわたしを貶めて、優越感に浸りたい病とかなのですかあなた達。


よし、そっちがそういう気なら、こっちだって迎え撃つ準備はちゃんとしている。遠慮なくダニ退治、させていただきましょうっ!


わたしは手に持っていたバッグから、手紙の束をごっそりと取り出した。


「135通です」

「は?」

「だから、135通。ダニー様とロッテ様がこの結婚式に参列しろとわたしに送って来た手紙の数。わたし、最初のうちは不参加ってお返事書きました。でもそのたびに、どうしても参列して欲しいと、ダニー様とロッテ様からしつこい返事が来るんですよね。めんどくさくなって返事しなかったら、我が家にまでやってきて『参列しろ』と言いに来ましたよね。その回数も言いましょうか?40回です。我が家の家令やメイド達もほとほと呆れかえっているんですよ。もうこれ以上、あなた達に付き合っていられないから、面倒だから出てあげました。これで満足でしょう?もういい加減にしてくれない?あなた方の馬鹿々々しい思い込みに付き合ってあげる時間なんて、わたしには無いの。今、わたし、めちゃめちゃ忙しいんですよ。はい、これ、お返ししますから、二度と手を煩わせないで」


半分以上燃やしたので、135通全部はないが、半分くらい残していた結婚式への参加を強要する手紙。

それを、ダニに向かって放り投げる。あ、ダニじゃなかった、ダニー様だった。まあいいか、似たようなものだし。

バラバラと、多分50通か60通くらいある手紙がバージンロードに敷いてある赤い絨毯の上に落ちた。まあ、ちょっと大きい紙吹雪とでも思え。


「じゃあ、用は済みましたので、わたしはこれで」


頭も下げずに、去ろうとしたその時、教会の扉がゆっくりと開いた。


「ああ、結婚式の最中にすまないね」


そう言って、結婚式の招待客でもない人が、教会に入ってきた。当然、ジーク様だ。


手には一輪の薔薇。その薔薇よりも艶やかな笑みを浮かべ、悠然とした足取りで新郎新婦の方へ歩いてくるジーク様。この場にいる参列者は皆、これが結婚式の演出の一つと思ったのかもしれない。


いや、演出だなんてコトは考えられなかったかもしれない。だって、列席者の人たちも、ロッテ様も更にはダニー様ですら、顔を赤くしてジーク様をぼーっと、まるで夢見ているかのように陶然と見ているからね。


勘違い女は元より、同性愛者ではない男をも魅了するジーク様の美しさ。

素晴らしい。

褒め称えたい。

ありとあらゆる言語と表現を駆使して、この世が滅びるまでジーク様の美しさについて語りたい。


多分わたしがそんなことを考えているのを、ジーク様はお見通しなのだろう。


くすり、とお笑いになった。


ふおおおおおおおおっ!なにこの笑顔の破壊力っ!きっとこの場にいる誰もが心の中でジーク様に「結婚してっ!」と叫んだことだろうっ!

叫ぶよねっ!

叫ばざるを得ないよねっ!

もちろんわたしは叫びましたともっ!心の中で、最大級の大きさで!


……まあ、表面上は淑女モードでしとやかに笑みを浮かべただけですけどね。


「迎えに来たよ。さあ、私の手を取って……」


すっと差し出される一輪の薔薇。腰に響くような甘い低音の声。


ロッテ様がダニー様から離れ、ジーク様のほうへふらふらと歩いていく。


「その薔薇はあたしに……?あなたは、あたしを迎えに来たの……?」


ロッテ様が恋する乙女の表情で、ジーク様に問う。

けれど、ジーク様はロッテ様などに目線を向けたりはしない。まっすぐにわたしを見る。


「愛しいアニカ。我が女神よ……」


わたしの足元で片膝を突いて、そしてわたしの手を取って、わたしのその手の甲にキスを落とす。

ああ……騎士が君主に対して忠誠心を表すために片膝を突くけれど……、そんな硬さなど欠片もなく、ジーク様の纏う雰囲気はひたすら甘い。

つまりこれは永遠の愛を誓うプロポーズということで……。


「ジーク様……」

「アニカ、君と離れている時間は私にとって苦痛でしかない。もう一分一秒だって離れたくない……」

「ええ……、わたくしもジーク様と同じ気持ちです……」


わたしとジーク様は恋人たちの濃度で見つめ合う。


空気に色が付けられるのならピンク色。もしくは背景を自在に変えられるのならばわたしたちは大輪の薔薇の花でも背負っているところだろう。


立ち上がったジーク様がわたしをそっと抱き寄せる。見つめ合ったまま、唇と唇が触れそうになるくらい近づいた。


「ああ、何故結婚式まであと十日もあるのか……。早くアニカをこの腕に抱いてしまいたいというのに……」

「ジーク様……。わたくしも同じ気持ちです。一分でも一秒でも早く、わたくしの全てをジーク様に捧げたい……」

「アニカ……」

「ジーク様……」


ジーク様がわたしをそっと抱き上げる。


「この場が教会というのが辛いところだな。即座に式を挙げたくなってしまう」

「まあっ!ジーク様っ!気持ちはわたくしも同じですわ。ですが、わたくしのウエディングドレス姿を楽しみにしている母たちの気持ちを考えると……」

「ああ、君は本当に優しいな。我が母も、君がファルケンシュタインに嫁いでくるのが楽しみだと言っているし……」

「ふふっ!嬉しいですわっ!わたくしも嫁ぐ日が楽しみです。お義母様とたくさんお話もしたいですっ!」


見つめ合って、微笑み合う。ああ、うっとり。ジーク様に酔いしれそう。いえ、一応演技、なんですけれど。だから口調もわたくし、なんて淑女モードにしてみましたが!なんてねー。演技半分、本気半分ですけれど。あああ、演技なんてどうでもいいか、そんなものポイッと捨てて、全力でジーク様の美貌を礼賛したい。ああ、空気までが甘いわ……うっとり。


他人の結婚式で、勝手にジーク様とわたしが「見つめ合う恋人」モードを展開していますけど、気にしない。そもそもこんな結婚式に来いと、五月蠅いくらいに言ってきやがったダニとロッテ様が悪い。


そんなわたしたちに、無遠慮にも割り込む女がいた。ロッテ様だ。


「ちょっとおっ!貴方はあたしをダニーから奪いに来てくれたんじゃないのお」


甘いフェロモン全開のジーク様を目の当たりにして、陶然としていないだけでなく、ジーク様が自分を好いていると勘違いなさっている。うん、ある意味すごいなロッテ様。


ジーク様はちらりとロッテ様を見て、ふっと笑った。


「君、私の横に立てるほどの容姿なのかい?はははっ!一度じっくり鏡を見た方が良いよ。私の引き立て役にもならないくらいの無様な顔だ。私と並び立って見劣りがしないのは、この女神がごときアニカしかいない」


そう言って、ジーク様は私の眼鏡をそっと外し、さらに長く伸ばしたわたしの前髪をその大きな手で梳いて横に流し、わたしの耳に髪をかける。流した髪がまたわたしの顔を隠さないようにと手にしていた薔薇の花を、髪留め代わりにわたしの耳にかける。


「もう、こんな眼鏡や前髪で顔を隠す必要はないだろう?」

「そうね。もうすぐわたしは貴方に嫁ぐのだから」


真っすぐにジーク様を見つめてにっこりと笑う。あ、せっかくわたくしにした口調がわたしに戻っちゃった。ま、いいか。


「え、うそ……っ!」


ロッテ様が大きく目を見開く。ダニー様は何も言えずにハクハクと口を開け閉めしているのみだ。


そりゃそうだろう。ロッテ様もダニー様も、わたしをブサイクだのブスだのとずっと貶してきた。それが眼鏡を外して前髪を上げれば、そこに現れたのは、ジーク様にも引けを取らない美貌を持つわたし。


自分で自分のことを美貌なんて形容するの、恥ずかしいな。

まあ、だけど、まともに顔出せば、わたしだってそれなりに綺麗だ。しかも、今、わたしの顔をメイクしてくれているのはジーク様お付きの侍女集団である。元々ちょっと綺麗くらいの顔など、あっという間に作り変えて女神レベルの美しさに出来る。そんな特殊技術を持つ素晴らしい侍女様方。ありがとう。


ああ、そうそう、わたしが顔を隠していたのには理由が二つある。


祖母の命令、そして、婚約を結ばされたダニー様に好かれたくなかったからだ。


「いいことアニカ。どんな美女だって、年を取れば皴だらけのお祖母ちゃんになるのよ。アニカの顔だけでなく、アニカの内面を評価してくれる人と結婚するのよ」


絶世の美女だったおばあ様。だけど、晩年、お爺様は若い女性の愛人を何人も作った。

そんなおばあ様のお言葉に従い、わたしは自分の美貌を隠すことにした。


わたしの顔ではない、中身を好きになってくれる人。


わたしはずっとそんな人を探していた。まあ、探し当てたその相手が、ジーク様という、こちらも比較出来るものが無いくらいの美男だったのは、何なのでしょうね。神様の悪戯かな?


「美しいだろう我が女神は。外面的な美貌だけでなく、内面も完璧だ」


ふふん、と自慢げに、ジーク様は言う。


「あら……ジーク様。わたしなど貴方の足元にも及びませんわ。ジーク様こそが内面も外面も、発するお言葉も全てが素晴らしい」


ジーク様に美しいと言われれば、それはとても嬉しいのだけれど。


「年を重ね、君が皴だらけのお婆ちゃんになったとしても愛し続ける自信はあるよ」

「わたしもです」

「気が合うね愛しい人」

「比翼連理とは言いませんが、わたし、誰よりも何よりもジーク様を愛していますからっ!」


ジーク様とわたしは見つめ合い、そして微笑み合った。


ジーク様の笑みの破壊力ったらないわっ!列席者もロッテ様も夢見る瞳でぽかんとしたまま。身じろぎすら出来やしない。うん、魂抜けたねっ!


「さ、では行こうか。こんなところにもう用はないだろう?」

「ええ、元々用なんかなかったんだけれど」


わたしは、呆けたままのロッテ様とダニー様をちらりと見る。


「では、お二方。わたしとは無関係なところでお幸せに生きてくださいね」


淑女らしい遠回しな表現。


本音。お前たちダニのごとき者たちにかける時間は無いんだよっ!


まあ、叫びませんけれどね。ジーク様の隣に立つに相応しくない言動など致しません。心の中で思うだけ。


そうして女神メイクのわたしが、わたしの出来る最上級の笑みを浮かべてにっこりと、ダニとロッテ様に微笑みかけてやった。


ふっふっふ。ダニもロッテ様も顔を赤らめたぞ。よし、勝ったっ!


「ま、待てアニカっ!何故その美貌を今まで隠していたんだっ!知っていれば俺だって……」


あー、しつこいな。さすがダニ。

せっかく私が綺麗に去ったというのに……。


馬鹿に真実を伝えたところで無意味だよ。彼らは自分の見たいものだけを見て、信じたいことだけを信じているのだから。

何をどう言っても『アニカは自分の気を引きたいから、そんなことを言っているのだ』と思い込んでいるんだから。


ジーク様の言葉は正しい。だからわたしはこれ以上何も言わないつもりだった。だけど……。わたしが何かを言う前に、ジーク様が厳冬期のブリザードの如き冷笑をもって、冷然と仰った。


「愚か者」


教会の気温が一気に氷点下に下がるほどの威力。素晴らしいわ。


「自己中心的な君には似合いの花嫁がそこにいるだろう?結婚式で他の男にふらつくような女がね。まあ、君らが何をどう言おうとアニカは私の花嫁になる。このジーク・フォン・ファルケンシュタインのね」


ジーク様は隣国ファルケンシュタイン王国の王弟だ。だから、十日後、わたしはファルケンシュタイン王国で結婚式を挙げ、そのままあちらで暮らすことになる。だから、わたしはいまものすごおおおおおくいそがしいのよっ!ファルケンシュタイン王国までは馬車で七日。一日分の余裕をもって、明後日にはこの国から出立するの。

でも、立つ鳥跡を濁さず、と他国の言葉にもあるけれど、結婚式前に、色々と『掃除』をしていかないとね。この国に残していく家族やうちの家の使用人たちにも迷惑をかけるし、なによりファルケンシュタイン王国の皆様方にご迷惑をかけるわけにはいかない。


だから、参列してやったのよ。ジーク様のご発言に従って、ダニ掃除のためにねっ!ほんとダニ取り装置みたいなのがあればよかったのに。置いて、まとめて、捨てるだけ!みたいなの。だけど、そんな便利商品なんてないから、わざわざここまでやってきたのよ。ふう、面倒。


わたしも、にっこりとダニー様に向かって笑顔で言う。


「わたし、ジーク様に相応しくなるようにって、毎日忙しいのよ。ゴミ虫がごときアンタに構っている暇なんて無いの。ああ、そうそう、ロッテ様。わたし、あなたの言う通りに『あなたたちの結婚式に参列して、あなたたちを祝福して、幸せに向かって歩いている』から、もうわたしには用はないわね?もうこれ以上わたしに関わらないでくれる?そこのダニも、あなたがちゃんとしつけておいてねロッテ様。じゃ、さようなら」


ま、言ってやっても気分はすっきりはしないけど。もうダニに関わって時間を浪費するのもめんどうだ。


嫌な記憶はすっきりさっぱりこの場所に置き去りにして、わたしはジーク様との未来へ向かう。


じゃあね、永遠にさようならダニー様!








薬局にて販売されているとあるダニ取りシートを見てふと思い浮かべた短篇。


お読みいただきましてありがとうございました!!


よろしければ、藍銅らんどう こうの他の作品、


『婚約破棄された被災令嬢はドラゴンに永遠の愛を誓う』

『侯爵令嬢と男爵令嬢は、王太子に愛を誓わない』


も、お読みいただけると幸いですm(__)m





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新連載始めました。(2022年10月16日追記)



「転生前から好きだった。だから愛妾になれ」と国王陛下から命じられた転生伯爵令嬢の話


https://ncode.syosetu.com/n8580hw/



お読みいただけると幸いです☆


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