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後藤一家の事情  作者: 奈々篠 厳平
七章
50/50

~ 北野と歌内 ~ 6

 数十分経ち、狸太(ゆきひろ)の車が来て善狐(まさつね)白狐(びゃっこ)は大きく腕を高く振った。

3階建ての少し(おお)きめなS造アパート、年季の入った外見に反して少し(ばか)り清潔で広い間取りになっている。

内村の家はそのアパートの1階の住民、出入口の近くの部屋に住んでいるため余計に野次馬が(たむろ)していた。

狸太は車から降りたかと思うと野次馬共をかき分けて現場へ向かっていった、歌内も北野も狸太を追う形で内村の家に入った。

善狐(まさつね)は歌内と北野が中に入っていくのを父に言おうとしたが直ぐ様見当たらなくなってしまい、思わず顰蹙(ひんしゅく)した。

 部屋に入ると、一気に鉄の臭いが体の芯まで漂った。

真っ先に目にしたのは大いに散らばって置かれた靴たち、多少不揃いならば気にも止めないが三和土(たたき)から数十(センチメートル)飛ばされた靴がある程乱雑(らんざつ)に踏みいじられていた事に狸太は気付き背を氷らせた。

目の前の戸の隙間からリビングにつたって流れついた血溜、それを見て今度は歌内が背筋を凍らし且つ虫酸を走らせてしまった。

と、リビングから電話で言っていた砂山さんの兄弟がやって来た。


利司郎(としろう):おや、内村さんと…?

北野:あ…善狐(まさつね)の友人です。

歌内:俺も…です…オェっ!

利司郎:何でガキンチョが?

狸太:知らん、付いてくるとは思わんくって。どうだ状況は。

達賀士(たかし):どうもこうも、(ひで)ぇ有り様だよ。

二三夫(ふみお):…強盗殺人に近いが、明かに魔魅(まみ)掃蕩(そうとう)組合(くみあい)の一員がやったものだ。人を何だと思っていやがる。


狸太が恐る恐るリビングに入ると、全体的に血痕と瓦落多(からくた)で覆われており、家具や家電は破壊され転倒され、家族の私物は破られ折られ金目の物だけ抜き取られて其処(そこ)らに散らかされ、臓物も至る所に散乱していた。

何故か破損されず真ん前に構えた血みどろのダイニングテーブルの上にディッシュボウルが置いてあり、その中にそれぞれ百海(ももみ)狐歌(こうた)の生首が痣や腫脹(しゅちょう)だらけの(まま)自身の血に鼻柱(びちゅう)ほど(ひた)って晒されていた。

更に、台所には傷塗(きずまみ)れに負った百海(ももみ)の胴体が手首を結束バンドで縛られた状態で放棄されており、陰部には行為に走り付着したと思われる白濁色(はくだくしょく)の体液が無数に見付かった。

そして狐歌(こうた)の体はテレビ台に寄り掛かる形で見付かり、天突(てんとつ)から神闕(しんけつ)に沿い出来た大きな切創(せっそう)の中は肋骨(ろっこつ)脊椎骨(せきついこつ)、そして骨に(まと)う筋のみで(ほとん)どの内臓は疎放(そほう)剪除(せんじょ)されリビングや台所や寝室等にぶち()かれていた。

狸太は頭上から爪先(つまさき)に渡って身震(みぶる)いしたと思えば、膝を崩しその場で息子と妻の血溜(ちだまり)に背を丸めて転がり(なが)ら、どの言語でも属さない言葉を荒らげた声で叫んでは泣いて体や衣類に塗り手繰って暴れて頓挫(とんざ)していた。

歌内は想像を絶する地獄絵図を目の当たりにして、耐えずその場で2度嘔吐した。

北野は、何も言えず何も出来ずただ後退りで家を出る他自身の行える事は思い付かずにいた。

玄関から出ると、そこに善狐(まさつね)白狐(びゃっこ)がいた。


白狐:中、どうなってる?

北野:─────言えない、ただ一つ…君たちの父親は狂ってたよ。


善狐は小さくため息を吐いた。

と、白狐は家に入ろうと走り出した、だがすぐに善狐が腕を掴み阻止した。

暴々(じたばた)する白狐を見ながら善狐は酷く絶望していた。

お知らせ


今回を以って、『後藤一家の事情』を打ち切りにしたいと思います。

主な理由は、元々長編小説を書くのも読むのも不得意である私が初の試みで挑戦したは良かったものの執筆していく内にモチベーションの維持が保てなくなったこと、そしてこの小説を書くという熱意が此処で途絶えてしまった事です。

長い間でしたが、区切りの悪い所で終わらせた事をどうかご容赦ください。

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