~始まり~ 4
マツが切り株の方へ向かうと、其処に弟のミズナラが居座っていた。
ミズナラはこっちを向いたが、酷く睨んだ顔をしていた。
ミズナラ:...何処へ行った。
マツ:...。
ミズナラ:黙秘する輩は嫌いだ、これ以上苛立ってしまう前に、言え。
マツ:住宅街に行って、空き巣をしていた。
ミズナラ:色々言いたいことがあるが先ず、何故皆に黙って行った。
マツ:...新たな試みでもっと金目を得て家族を潤わしたいが為に、下見...否...空き巣に視野を入れられるかの確認です。
ミズナラ:そうか、んで。失敗したよな?
マツ:はい、その通りです。
ミズナラ:失敗して追われ身になっただけなら分かる。だが、お前はカーチェイスをした、然も数人を轢いて数台の車を壊した、らしいか間違いない?
マツ:はい、然し何故ご存じを...?
ミズナラ:...先ず上を見ろ。
マツは樹々の隙間に見える空を見た。
赤いヘリが数台、白いヘリが一台、そして遠くから聞こえるサイレン。
と、鼻が曲がりそうな異臭...焦げ臭い何かが風に乗ってきた。
ミズナラ:随分前から異常にヘリコプターが多くって家族一同気になってたんだ、そして次に異臭だ、俺はこの匂いは単に木が燃えたものじゃないと確信した。
マツ:ど、どうゆうことですか。
ミズナラ:ガソリンだ、普通じゃあ有り得ない刺激臭がする!それに決定的な証拠を見つけた、衝撃音だ。只の爆発音じゃない、ガラクタの音も聞き逃さなかった。お前、何てことしてくれた!
と、ぞろぞろと一族が木の陰から現れた。
ヒノキ:俺、気になって見に行ったんだ。壊れた車から火が...。
チゴユリ:マツ...どうして、どうしてあんな身勝手なことをしたの。
フキ:皆、君のこと探していたんだよ。けれど...その...。
アヤメ:父さん!空き巣やるんだったら私も連れけてよ!
アオイ:...少し許り失望したよ父さん、リーダーなのに此処まで酷いしくじりは...どうして。
アケビ:...。
一族はリーダー相手に怒りをぶつけ乍らも侮蔑を抑えていた。
マツはそれを察してしまい余計胸が痛くなった。
あまりの出来事に一族は其処から暫く沈黙が続いていた。
遠くで森林が燃える音、空からも陸からも放射される水の音、ヘリコプターの羽音、消防車・救急車・パトカーのサイレン、それらがリーダーが起こした責任、悲惨さを語っている。
ヒノキ:...君の犯したミスはその、...致命的だ。森林が燃やしてしまっいるのもそうだが、リーダーである君が妄りな行動を取り我々の活動が最悪発覚されたら根こそぎ一族を滅ぼす恐れがあった、つまり...。
ミズナラ:お前は破門、即ち今日から敵だ!
チゴユリ:ミズナラ!一寸ぐらい許してやってくれ!
ミズナラ:否!俺はお前を許さない!一生恨んでやる!出ていけ!
マツは青菜に塩を掛けられたの如く尾を垂れ下げ地面を見ながら一族から離れていった。
聞こえない様に静かに涙を流し、鼻を啜るのも必死に耐えていた。
気付くとマツは狸のまま人界に出歩き、新たな住処...死に場所を探していた。
チゴユリ:...本当に此れで良かったのかミズナラさん。
ミズナラ:一寸言い過ぎた、けど俺は彼奴を大目に見ることは出来ん。