~ 北野と歌内 ~ 5
真っ先に向かったのは南野市民センター、駅前であり建物の一室にある小さな図書館だったため3人は期待はしてなかった。
入るとやはり襲撃された熱があり、平凡で潔癖な場所から血に濡れた廃墟と化していた。
と、1冊だけ棚の下に袖珍本が潜り込んでいるのを歌内が発見し急いで取り出した。
そうとは知らず、北野と狸太は倦ねて萎萎とし乍ら車に戻り、次の場所へ向かった。
歌内:───両柳学園??真逆校内の図書室に行くのか?!
狸太:いや。
両柳学園の別館、その2階に甲井市民センターが設置しておりその中に図書館があるのを狸太は知っていた。
両柳学園の出入口で車を停め、いざ向かおうとした。
…併し出入口に差し掛かった途端、3人は引き返すことにした。
何と校門に無数のバリケードが置かれており、更に遠くから銃声や断末魔の声が聞こえてしまったからだ。
車に戻った狸太はスマートフォンを取り出し、次の場所へ調べるかと思えば何故か誰かと電話し始めた。
狸太:─────ふむ、成る程…ありがとな。
ピッ
北野:…誰と通話してたんですか。
狸太:高校生の頃の同級生、偶々図書館の仕事に就いてて数本の有無や状況などをやり取りしてる仲だ。
歌内:んで、何を話したんだ?
狸太:生き残ってる図書館を探してもらった。消去法で黄ヶ藤市民センターがワンチャン妖怪の本があるかもしれん。
歌内:黄ヶ藤…ってどこだ?
狸太:鷹緖山より北にある所で、まぁ静かな場所だ。
北野:そこに行けばきっと鷹緖山の貉の真相、そして茶狐先生から聞いた鎌鼬山賊について分かればいいんだが。
狸太:茶狐先生?君らの担任かい?
歌内:いや、保健室の先生だ。
狸太:そうか、んじゃ発車するぞ。
車に揺られて軈て20分程、北野と歌内は何気なく車窓を覗いた。
一車線の通りに並ぶ一戸建て、時折こぢんまりした店、走っているところは同じ礼津市な筈なのに一転して長閑な場所に来ていた。
が、所詮中心部で嗜虐の者同士の殺戮が勃発しており真偽不明の噂話は燎原の火の如く広まっている、その為が所々にパトカーが停まってたりブルーシートが遺体を隠すように置かれていた。
3人の感覚は稍狂ってしまっており、道中に一人だけ倒れているのを見掛けても驚愕もせず通りすがりの他者が通報してくれる思いと素通りしてしまった。
そうこうしてる内に目的地に着き、3人は入口に入った。
そして向かって右にある図書室に向かってみると、電話の主の言った通りで、襲撃はされておらずいつも通り営業していた。
安堵して静かに立ち入り、職員が一瞥してないことを分かった上で分類番号3の棚の前で佇んだ。
狸太は食指を立てて一冊ずつ背表紙の名前を確認し、妖怪事典や記録の本を次々と手に取って3人はその場で胡座になって小分けして積ん読をした。
子供向けのユルい本から専門家が執筆した堅い本まで何度も読み直しては他の人に渡し再度黙読をさせたりとした。
茶狐先生が話していた鎌鼬山賊は礼津市の妖怪について綴った本に載っていたものの肝心の鷹緖山の貉はどの本にも載っていなかった。
3人は仕方なく鎌鼬山賊の欄にどの様に記載されてるか開いてみた。
───“鎌鼬山賊(読み:かまいたちさんぞく)。鷹緖山など礼津市の山に現れる妖怪の一種。電光石火の如く現れ所有物、特に銭や宝飾品など価値の高いものを奪い去る。被害者は傷一つ付かず、抵抗しようと思う頃には盗まれてしまう事が殆どである。その為巻物や和本に書かれている鎌鼬山賊の姿の多くはつむじ風や巴等抽象的な描き方をしているが、大抵の場合は狸や狐が化けた物という文章が共に添えられている。江戸時代後期に執筆されたと言われる『奈落江戸物語』には最終的に清川真兵衛僧侶によってお札の中に封印したと記述している。しかし礼津市出身で民俗学者である狼畑汰通郎が執筆した民話集『礼津市の民話』によれば封印ではなく“誦経によって浄化されて化けていた狸がただの狸になり森へ逃げていった”という締めになっており、しばしば議論になっている。これについて一説によれば鎌鼬山賊は複数体いたのではないかという意見がある。”───
歌内:…先生が言っていた妖怪は載っていたのに、なんで鷹緖山の貉は無いんだ。
北野:鎌鼬山賊なんで地元出身の俺でも知らねぇ奴じゃん、ぜってぇおかしぃよ!
狸太:落ち着け、図書室だぞ。それより、今持っている本を含め妖怪の本は今や処分対象になっている。兎に角あるもの全て貸出にするぞ。
そう言われて仕方なく数冊カウンターに出し、会計を済ませた。
そして車に乗り2人を家に帰すことにした。
と、狸太はふと呟いた。
狸太:そういや、鷹緖山の貉っていうお話の内容って「山に潜んでいる化け狸が人を襲って金目の物を奪う」だったよな。
北野:そうだ、「昔、鷹緖山で潜んでいた妖狸たちは登山者や修行僧を襲い金目の物を奪い人を食らう、いわゆる山賊の様な悪行をしていて、住民は毎日怯えていた。ある日近くの寺院に暮らす僧侶が妖狸たちを懲らしめる為、山に登ったところ更地に魔方陣を見付け急いでお経を唱えた。すると妖狸たちが怒りながらやって来て僧侶を呪い殺した。ところがその直後僧侶の腹が裂けそこから鬼門が開き妖狸たちを吸い込み、以降悪行が無くなった。」という話だからな。
狸太:だとすれば、幾つか矛盾や出典を求む点がある。第一、時代背景的に登山者や修行僧が金目の物を抑何故持ち歩いていたのか、金目の物を奪うのはまだしも何故人を食らうのか、山中に魔方陣があったのは何のため、何故僧侶が亡くなっているにも関わらず“腹から鬼門が出てきて妖狸たちを吸い込んだ”という出来事が知られているのか。そして私が一番引っ掛かっている事、それは何故ここの住民たちは妖狸に対してこれ程異常な憎悪を見せるのか。
北野:…分からないよ!だって、父さんから聞いた話だから…父さん凄く悔しがっていたし…ひい祖父さんの仇取りたいから…。
歌内:俺も知らない…、けれどおじさんの言われた通りだ。まるで昔本当に起きたかのようなブチギレ具合で人を殺してるし、変な集まりがあっちこっちで出来てるし…。
と、狸太のスマホが突然振動し始めた。
どうやら善狐から電話が来たようだった。
狸太は後部座席にいる2人にハンズフリーモード切替をお願いし、ダッシュボードに置いて通話を始めた。
狸太:もしもし、父さんだ。
善狐:───!!父さんか?!父さんか?!
狸太:ああ、私だ。一体何を焦ってるんだ。
善狐:ぼ、僕ん家の門の前がロープで張り巡らしていて帰れないんだ!それだけじゃない、人だかりが出来てる!何があったって聞いてみたらさ…家の中で事件が起きてんだよ!と、とにかく急いでくれ!
狸太:善狐済まない、今友人たちを家に送ってる最中なんだ。
北野:内村さん待ってください。まさつね、周囲はどうなってる、誰か調査してるのか。
歌内:えっ北野、それ聞く必要ある?
善狐:─────凄くざわついている感じ。後、砂山さんという隣に住んでいる人の兄弟たちが現場調査をしている。そして…かなり鉄臭い。
北野:…そこで待機してくれ、決して家の中は覗かない方がいい。そしておっちゃん、そのまま君ん家に向かってほしい。
狸太:お家の人には連絡したか?
北野:これからする、だから構わず向かってくれ。
狸太:分かった、んじゃ善狐よ切るね。
狸太の車はそのまま内村の家へ走っていた。
一方、善狐は後で帰ってきた白狐と共に玄関付近で待機していた。
あまりにも喧喧囂囂していて、何か起きてるか2人は気になってしまい一刻千秋の気持ちで父親を待っていたが、善狐は良からぬ予感を過っていた。
───真逆、家にいた母親と兄は…




