~ 北野と歌内 ~ 3
その晩、内村狸太は家族を囲いご飯を食べながら日中の出来事を話した。
狸太:善狐、昼頃にお前の友人が図書館に来てたんだよ。どうやら狸の本を探してたみたいで。
善狐:そう、誰なん?
狸太:北野と後は…歌内だっけ、その2人だ。
白狐:あの子たち?変な噂を広めた人。
善狐:あいつ、何か言ってたか?
狸太:鷹緖山の貉の真相を確かめるべく来たらしいんだ、大事な友人を失ったからとかそうゆう理由だったかな。
狐歌:成る程、んで結局その人お望みの本は見つかったのか?
狸太:それが…、彼らが来る少し前に鉈を武装した集団がやって来て勝手に物色されてさ…。勿論止めに入った人は沢山いたけど、その鉈が血に塗れているのを知った途端一斉に下がったんだよ。
百海:あんた、斬られなかったか?
狸太:ああ、この通り平気だ。それで彼らの逆鱗に触れぬようカウンターの中で身を潜めいたら一員が私に向けて声を掛けられたんだ。
白狐:え!?
善狐:奴、何で言った。
狸太:“お前、魔魅掃蕩組合の一人か、それともパヨクか”って。
狐歌:やけに高圧的だな、んでどう答えたの。
それを聞いて狸太は待ってと告げて立ち上がり他の部屋に行った。
そして数分が経って狸太は稍錆びれた鉈を持って戻ってきた。
家族一同それを見てギョッと脅え、必死に命乞いをしたり説得を試みたりしていたが、狸太は普通に話した。
狸太:落ち着け、ただ単に渡されただけだ。脅える必要はない。それに人殺しなんぞできっこない。
狐歌:そ、そうか、でも態態持ってくるか?
善狐:と、ところで…そのマミソートーなんじゃらって奴らは何のために来たんだ。
狸太:どうやら特定の本を奪いに来たらしく、妖怪に関する本は全部持ってかれちゃったよ。全員の命が助かっただけで良かったよ。
白狐:良かったー、それより父ちゃん、ナイフしまって!
狸太:あっ、ごめんね白狐。
そういって狸太は鉈をそっと床に置いた。
狸太:そんなことより、こっちは平気なのか?学校とか、近隣の様子とか。
善狐:平気も何も…学校で早速3人犠牲者が出たんだよ!然も銃で!挙げ句の果てに放火まで起きて一気に犠牲者出たんだよ!
白狐:2人は何とかなった、でも友達が数人閉じ込められた。悲しかった。
狐歌:こっちはこっちで大変だよ、家事を終えて昼寝しようと思えば日中ずっと外でヘイトスピーチがガンガン聞こえて碌に落ち着けないよ!
百海:うちの近くで2件青天の霹靂が起きたの、私のママ友と未成年3人が巻き込まれたらしいから凄く痛ましい気持ちになったの。
狸太:なんでことだ、瞬く間に事件が悪化している…。警察が正常に動いてるか不信感を抱いてるぞこれ。
白狐:父ちゃん、これからどうする?
狸太:そうだな、常時チェーンキーを掛けたり無暗に外出を控えるとか…、後は防犯ブザーを持ち歩くとか…兎角どんな人だろうと直ぐ鵜呑みせず注意深く観察すべきだ。
善狐:分かった。あ、ごちそうさまでした。
善狐は使っていた食器を持って流し台に向かった。
続いて、白狐も百海も食べ終わり食器を洗いにキッチンへ向かって行った。
居間に残った狸太も狐歌も既に食べ終わっているが、話に熱中していて戻すことを忘れていた。
狐歌:ずっと気になってはいるが、何であの事件から暫く経たない内にこんな殺戮とした出来事が多発すんだ?
狸太:正直、私も不明瞭なことしか情報に入ってない。
狐歌:俺、何となく分かった気がする。これは一種の洗脳かもしれん。
狸太:…どういう事だ?
狐歌:父さん、オウム真理教って知ってるよな。
狸太:ああ、地下鉄にサリンを撒いたり弁護士の一家を殺害したりと反社会的活動を続けたカルト集団だろ。まさか…、テロリズムを指示している長が存在すると言いたいのか?
狐歌:それしか考えられん、どの人も常人の皮を被った狂人みたいな様子で人を襲ってるし。
狸太:では、その長を特定出来ればこの大事件は収まるという事か。
狐歌:いや…俺の考えでは、長はただただ思考や命令を飛ばしているのみに過ぎず、実は信者が信者を生んで事件を勃発させているのでは?というものだ。
狸太:もしそうなら、なぜ数日で多数の人が殺し屋になったのか説明できない。普通なら数ヶ月掛けて念入りに計画を立てて効率よくテロリズムが行われているはずだ。
狐歌:恐らく激しい拷問で分からせたりして人格を奪って洗脳させてるかもしれん。
狸太:ふむ、それ以外だと麻薬やヘロインでの洗脳…ヘイトスピーチとかか────。
百海:君達、ここで会議するのは良いが、ちゃんと自分の食器洗うんだぞ。
2人は話し合いを止めて、皿を洗うことにした。
翌日、家族を待ち受ける血に濡れるおぞましい運命とは…




