~ 北野と歌内 ~ 1
礼津市連続斬首事件から数週間、礼津市は遍地に血と肉で満ちていた。
そんな最中、北野と歌内は市内の図書館へ向かおうとしていた。
というのも、実は2人は“鷹緖山の貉”について再度考え直す為に数日前から無断で学校を休んでいたのであった。
遡る事事件の翌日の晩、北野が被害者の兄である翔狸と揉めた後だった。
北野は頭部に怪我を負い、保健室の寝具で安静していた。
茶狐:…誰にやられたの?
歌内:勝木の遺族からだ。どうやら勝木を殺したチームの1人に北野の兄がいたみたいなんだが、俺には本当か嘘か分かんないんだ。
茶狐:そうか。北野、今の調子はどう?
北野:くそ…クラクラする、大体さぁ…いきなり胸元捕まえられたらさぁ抵抗すんに決まってんだろ?なんや彼奴。
歌内:仕方ないと思うよ、自分の兄弟や親戚が理不尽な理由で命を奪われているし、それにあん時彼奴…涙目で訴えてきたからな。
北野:…確かにな。俺だって、こんなはずじゃなかったんだよ。ただ伝承を信じて苛めてしまっただけで、俺は“殺せ”だなんで一言も言ってねぇのに。
と、北野はふと思った。
自分が伝承として聞いている“鷹緖山の貉”は本当に起きたお話なのか、それとも誰かが作り話なのか。
もし昔話ならば、信憑性が多少あれど事件を引き起こす程の影響を与える事は皆無である。
かといい実話ならば何かしらの形で残っている筈である、然し自身を含め歌内も口伝以外聞いたことも見たことも無かった。
となると、何故自分はヒロトを大ケガを負わせるまで苛めていたのか、何故動物を毛嫌いしていたのか、考えれば考える程疑問点が浮き上がっていき、北野は“鷹緖山の貉”をもう一度確認し直し真偽を明白にする事に決めた。
そして、自分のひい祖父は本当に化け狸に殺されたのか改めて調べ直さないといけないと確信し、歌内に思いを伝えた。
北野:歌内、明日駅近くの図書館に来い。
歌内:ん?いきなりどうした。
北野:俺、鷹緖山の貉について再度調べたいんだ。
歌内:再度調べたいって…お前、まだ信じているのか?あんな非現実的な話を。
北野:だから調べ直すんだよ。
歌内:チッ、しゃーねーな。
歌内は粮嚢を背負い、保健室を後にした。
残された北野は茶狐先生に恐る恐る質問を投げ掛けた。
北野:…先生は鷹緖山の貉の話、信じているんですか?
茶狐:『ようしょざんの貉』…ですか?初めて聞きました、どんな話でしょうか。
北野は酷く驚愕した。
彼の中では、鷹緖山の貉は礼津市で古くから伝わる地元では有名な伝承だと思っていたからだ。
更に言えば茶狐先生は礼津市で生まれ、礼津市で育った人なので真逆無知である事を北野は想定してなかった。
北野:あ…分かった説明s…するよ。“昔ぃ…、鷹緖山でひs…潜んでいたぁ…化け狸たちは登山z…登山者や修行z…を…修行しているお坊さんを襲い金目の…物を奪い人を…人を…食べちゃう、いわゆる…山賊の様な…悪さをしていて、住民は毎n…毎日怯えて…いたんだ。ある日ねぇ…近くの寺院に…暮らしていたおb…お坊さんが妖r…化け狸たちを懲らしめる為に…、山に登ったところぉ…更地に魔方j…陣を見付けてさ…急いd…でお経を唱えた…んだ。すると…化けたn…狸たちが怒りながらぁ…やって来てお坊さん…お坊さんを呪った…の。ところがそn…その直後お坊さんのはr…腹が裂けてそk…こから鬼m…門が開いて化けt…狸たちを吸いk…吸い込んで、以降悪行が無くn…なった。”という話なの、聞いたk…事ある?
茶狐:ん~…前半辺り、何か“鎌鼬山賊”っぽいな…。
北野:鎌鼬山賊?なんだそれ。
茶狐:昔聞いた話だから曖昧だけど…何か草を分けた道に現れる妖怪で、姿を見せずに金目を盗んでくる厄介なものなんだよ。多分、山は草木で生い茂ってて特に獣道みたいな所は一度物を落とすと中々見付からないから…戒めとして伝わって来たのかな。
北野:ふーん、どっから聞いたの。
茶狐:今は亡き伯母からだよ。
北野はあまりしっくり来ず顰蹙してしまった。
と同時に負傷部分が痛み、頭を抱え込んだまま踞った。
そうして、北野と歌内は鷹緖山の貉と茶狐先生から聞いた鎌鼬山賊について調べるべく図書館へ向かうことになった。




