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後藤一家の事情  作者: 奈々篠 厳平
六章
43/50

~血の金曜日~ 7

 ヒロトはすっかり落ち着き、古傷を傷め(なが)らも夕飯を食べていた。

家族一同、ヒロトが何故発狂し出したのか言い合おうと考えていたが、どのタイミングで腹を割るか上手く掴めず結局何も無かったかの様に食事を終えてしまった。

ハヤトとタンポポは仕方なく子供部屋で車座になって話を聞くことにした。


ハヤト:ヒロト、こんな事聞いていいか分からないか…昼頃の記憶はあるか?

ヒロト:んー…少しだけ。あの時、(うっす)らだけど聞こえてしまったんだ…多分幻聴なんだろうかな。

タンポポ:それで腕を…。

ヒロト:なんだろう、大人の声で…“化け狸は有害物質!”とか“(そく)殺処分(さつしょぶん)”とか…(あと)“薄汚い糞色(くそいろ)狗子(いぬっころ)に価値など無い”とか…可也(かなり)酷い言葉が延々と聞こえたんだぁ…。

キンジロウ:待って、それ、僕も聞こえた!

タンポポ:え!?ど、どうゆうことだキンジロウ。

キンジロウ:んーと、外から遠くてモゴモゴした声で…よく分からないことを言っていたのは本当だよ!

ハヤト:え…、ヨモギは聞こえたの…か?

ヨモギ:うん、よく聞き取れなかったけど、スピーカーとかで何かを流しているような感じはしてた。余程大きい音じゃないと、リビングまで響かないよ。

ハヤト:ヘイ…トスピー…ィチか。

タンポポ:兄ちゃん大丈夫?

ハヤト:…すまん、外の空気吸いたい…。


そういってハヤトは子供部屋から退出した。

兎に角、ヒロトが自傷に走った理由も発覚した。

ヒロトはハヤトの(すぼ)んだ背中を見て、胸が痛くなり始めてしまい思わず退出してしまった。

タンポポは残されたキンジロウとヨモギに再度確認した。

矢張(やはり)外で何かしらのプロパガンダが行われていたのは確かだった。

そして今度は両親に同じ様な質問を投げ掛けた。

すると矢張聞こえていた事も分かった上に何時(いつ)プロパガンダ放送が流れてきたのか発覚した。

李先生から訃報を聞き、真偽を問い詰めていたタイミングで遠くから付近に通り掛かる様に流れていた。

然し、そんなことを気にすることなくユウタの安否についてとことん追求していた為に、放送の内容は覚えていなかった。

とはいえ、ヒロトの動機が分かったので何とか胸を撫で下ろせた。

だが、タンポポの中であることを今思い出し、そしてどうも引っ掛かって気になってしまった。


“そういえば、いじめっ子の北野と歌内はどこへ消えていったのか。”

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