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後藤一家の事情  作者: 奈々篠 厳平
六章
38/50

~血の金曜日~ 2

 ハヤトは(いた)も騒がしくなっている体育館に入った。

遠目に見えた舞台の上には、前に正座をしている人と背に立つ人の一組で6列横に並んでいた。

そして下で見上げる様に立っている人集(ひとだか)りがいた。

ハヤトは怖怖(おじおじ)人集(ひとだか)りに紛れ込んだ。

と、人々の中に橋岡と目があった。


ハヤト:ハッシー、皆何してんだ。

橋岡:今から征伐主義者たちの公開処刑が始まる、(みな)処刑人の死に様を見に来てる人だよ。

ハヤト:え…じゃあ君も晒し者が死ぬのを楽しみにしてんの?

橋岡:いや、俺は内村の容態が心配で来ている。塩〆原を撃つ係りになってしまったからさ。


ハヤトは舞台にいる人を良く良く見てみた。

内村は半泣きの状態で塩〆原の後頭部を見詰めていた。

塩〆原は何かを悟ったのか落ち着いた様子だった。

内村は(あらかじ)め渡されたヘッケラー&コッホUSPの安全装置を解除し、震えた手でゆっくりスライドを引いた。


内村:…何で怯えないんだ、皆は必死に命乞いしてるのに。

塩〆原:信頼してるからだよ世話焼き仙狐【内村の渾名】、約束通り…痛み無く殺してくれ。

内村:…分かった。


と、上手(かみて)から粟原がやって来た。

そしてマイクロフォンを手に握り締め高らかな声で処刑の挨拶が始まった。


粟原:さぁ皆様お待たせしました!征伐主義者の処刑ショー、只今開始します。


見物人たちは一同、大嵐が吹いてる音の様な拍手をした。

粟原は処刑人を(ないがし)ろするように名を一人読み上げ、実行者を英雄に見立てて読み上げ、(また)()の繰り返しをして事を進めた。


粟原:では手始めに、向かって我が馬手(めて)側からの順番に紹介致します。罪名、魔魅(まみ)掃蕩(そうとう)組合(くみあい)の勧誘行為をした、東風(あゆ)平絽志(ひろし)東風(あゆ)平絽志(ひろし)ですっ!


見物人たちは一斉にブーイングを始めた。

中には処刑人に向かって侮辱したり物を投げ飛ばしたりする者もいた。

それでも粟原は特に気にすることなく説明を続けた。


粟原:そして東風(あゆ)平絽志(ひろし)を銃殺刑する担当者は、小野塚(おのづか)鼬汰(ゆうた)小野塚(おのづか)鼬汰(ゆうた)ですっ!小野塚さん、心境どうですか。

小野塚:疼疼(うずうず)していて、早くミンチにしたい気分です!

東風(あゆ):チガゥンダ…キィテ…。

小野塚:っるぅせえな!


小野塚は東風(あゆ)(うなじ)に銃口を強く押し付けた。

(まさ)にスタンフォード監獄実験の様だった。

どんな仲間だろうと明瞭(めいりょう)な違いで関係問わず差別化された時、気付かぬ内に(おのれ)の行いに酔い()れて罰してそれを受ける、舞台にいる人の多くは意図せず心理に従うが(まま)に遣らされていた。


粟原:次っ!罪名、デマゴギー行為をして征伐運動を過激化しようとした、兼安(かねやす)空留(くーる)兼安(かねやす)空留(くーる)ですっ!そして兼安(かねやす)空留(くーる)を銃殺刑する担当者は、鴻池(こうのいけ)若葉(わかば)鴻池(こうのいけ)若葉(わかば)ですっ!

鴻池:まずは…肺に血を流して、腕や脚や脇腹などを撃った(のち)(とど)めを刺す予定です。

粟原:次っ!罪名、動物虐待と弱者に対し恐喝と暴行で糖質野郎の組合(くみあい)に勧誘させた事、そして塩沢と共に倉野先生を切創(せっそう)負わせた上に斬首した、佐井(さい)倖助(ゆきすけ)佐井(さい)倖助(ゆきすけ)ですっ!


ハヤトはそれを聞いた途端、ドキッとした同時に思わず心無い言葉が喉から咄嗟に出てきた。


ハヤト:お前!何で()った!何で()ったんだ!(ろく)でなし、無礼者!

佐井:おや、そこにいたのか。糞塗(くそまみ)れの犬っころ君。

粟原:2人ども、黙れ。げふん、続けよう。佐井(さい)倖助(ゆきすけ)を銃殺刑する担当者は、原田(はらだ)在惇(ありあつ)原田(はらだ)在惇(ありあつ)ですっ!

原田:…6年2組の恥曝(はじさら)しめ、徐徐に苦しむが良い。

佐井:ふん、どうせ急所当ててしまうだろ。

粟原:次っ!罪名、多数の小動物の毛皮を剥奪及び売買、即ち動物虐待した、塩〆原(しおじめはら)(りゅう)塩〆原(しおじめはら)(りゅう)ですっ!そして塩〆原(しおじめはら)(りゅう)を銃殺刑する担当者は、内村(うちむら)善狐(まさつね)内村(うちむら)善狐(まさつね)ですっ!内村さん、心境どうですか。




見物人たちは彼が何を言い放つのが鶴首(かくしゅ)していた。

粟原は中々喋らない内村に対し耳元まで歩いて近付き、睥睨(へいげい)し乍ら囁いた。


粟原:…言え。

内村:何故ですか。

粟原:事が進まん。

内村:…沈黙で通してくれ。

粟原:勘違いしないでくれ、お願いじゃないの、命令よ。分かるか能無し。

内村:…はい。


粟原は上手(かみて)の幕の裾辺りに立って継続した。


粟原:気を取り直して、内村さん、心境どうですか。

内村:…最早(もはや)何も言うことは無い、以上だ。


内村は何とかして中性的な発言を言えた。

粟原の耳からは“あまりの非人道さに呆れて掛ける言葉すら無い”と読み取っていると信じつづ返答を待った。


粟原:ふん、では次っ!罪名、我が“化け狸を守る会”に対し侮蔑やネガキャンした事、そして佐井と共に倉野先生を切創(せっそう)負わせた上に斬首した、塩沢(しおさわ)丸幌(まるぼろ)塩沢(しおさわ)丸幌(まるぼろ)ですっ!そして塩沢(しおさわ)丸幌(まるぼろ)を銃殺刑する担当者は、柳楽(なぎら)平和(としかず)柳楽(なぎら)平和(としかず)ですっ!

柳楽:塩沢ぁ!犯した罪の数を言えぃ!風穴(かざあな)空けてやんからなぁ!!

粟原:最後っ!罪名、糖質野郎の集団のスパイとして入団し、(あまね)くの情報を盗み聞きし報告をした、米元(よねもと)華武都(けんと)米元(よねもと)華武都(けんと)ですっ!そして米元(よねもと)華武都(けんと)を銃殺刑する担当者は、本田(ほんだ)東孟冶(ともや)本田(ほんだ)東孟冶(ともや)ですっ!東孟冶(ともや)さぁん、心境どうですか。

本田:グヒヒヒ…メスガキを撃つの初めてなんで緊張しますね。せめて俺の拳銃で数発食らわせてから実行したかったけどねぇグヒヒヒ…。


本田は何か危険薬物でも服用したかの様に落ち着きが無かった。

隣にいる柳楽さえも(はばか)って距離を置いてしまい、本田の言動を見ていた見物人たちも(ざわ)めく程、本田は異常だった。

粟原は全員の名を挙げたのを確認して舞台の人たち、そして見上げている見物人たち各々(それぞれ)一瞥(いちべつ)した。

それから粟原は実行者たちに準備を伺った。

実行者たちは声を揃えて肯定した。

そして(つい)に処刑執行へと進んだ。

橋岡とハヤトは固唾を呑み、内村がどう行動するか怖怖(こわごわ)と眺める事にした。


粟原:では、実行者の準備が整ったので始めます。セーフティオフ。


実行者はたちは拳銃の安全装置を解除した。


粟原:ステンバイっ。


スライドを引き、処刑人の頭に銃口を向けた。

処刑人は後頭部から感じる金属特有の冷たさに悲鳴を上げそうになったり、大声で命乞いをしたり、そして吠え面し(なが)ら尿失禁漏らしたりしていた。

実行者は処刑人に対し感情移入もせず、ただ引き金を指に掛けていた。




粟原:……ファイアっ!!




その一声で大量の爆竹が鳴ってる様な轟音が体育館中に響いた。

処刑人は被弾した途端、力が抜けたかの様に其侭(そのまま)ぶっ倒れた。

(しか)しそれでも実行者は容赦(ようしゃ)躊躇(ちゅうちょ)も無くして次々と鉛弾(なまりだま)を処刑人の渾身に埋め込み続けた。

その度に処刑人はビクッビクッと反動なのか定かではない動きをしていた。


小野塚:テラネトゥヨがぁwwwwwwwwヒクヒクしてるwwwwww

鴻池:やべ、頭から撃っちまった。まぁいいか。

原田:もう弾切れかよ、リロードしなきゃ。

柳楽:思った以上にアッサリ死んじゃって萎えたわ…。

本田:ちゃんちゃちゃちゃんちゃん foo↑お゛あ゛ぁ゛!!


一方、内村は動かなくなった塩〆原をただただ見詰めていた。

穿透創(せんとうそう)からじんわり流れ出る血、人形の如く(うずくま)った姿、それを見て堪えていた涙が不意に溢れ頬に伝った。

見物人たちから自分への侮蔑が次々と投げ掛けられているのを知りつつも聞こえないフリを必死に貫いた。

処刑ショーが終わると、実行者たちは上手(かみて)の舞台袖に消えていき、どこへ行ったかと思えば体育館の隅に列になって歩き去っていた。

ハヤトは急いで人集(ひとだか)りの間を通り抜け真っ直ぐ内村の方へ向かった。

内村もハヤトが向かって来てるのを気付き、列から外れた。


ハヤト:世話焼き仙狐【内村の渾名】っ!!何で撃ったんだ…。

内村:仕方なかったんだ、殺らなきゃ死んでた、逆らったら斬られたんだ。

ハヤト:だからって…───ん?


内村は黙ってハヤトの手を持ち、その掌の上に拳銃を載せた。

(やや)重く堅牢(けんろう)なポリマーフレームの拳銃を渡されたハヤトは困惑した。


ハヤト:これ…さっきの銃…。

内村:…一生のお願いだ、君だけでも生き残ってくれ。

ハヤト:気持ちは分かる、だがこれは返す。僕は武力や暴力に頼らずこの争いの無意味さを家族一団で伝えたい。誰も傷付けない、平和な方法で。

内村:ファルコン【ハヤトの渾名】、一つだけ伝える。今デスゲームごっこは本格的に始まってる、お守りとしても良い、だからとにかく…その拳銃を持って逃げ続けろ。そして生き延びろ。


内村は急ぎ足で列に戻っていった。

ハヤトの手にはヘッケラー&コッホのUSP、(しばら)く見た後に安全装置を設定して(ゆる)りトリガーを引いてみた。

─────弾が出ないことに一安心してハヤトは体育館を後にした。

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