~歯車が壊れる頃に~ 10
何とか自宅に戻ることが出来た後藤兄弟だったが、ハヤトの肩に刺さった矢をどうするか悩んでいた。
もし抜けたとしても傷口から大量出血を伴う恐れがあり、かといい其の侭だと自由に右腕が動かせず可哀想になる。
公木と琴華は自身の無念さに悔しがっていた。
と、唐突にインターフォンが鳴っていた。
公木は不思議がり乍らドアハンドルを緩徐に回した。
そこには三十路程の男性がラフな格好で玄関前に立っていた。
公木:何方でしょうか?
粟原:申し遅れました、私は“化け狸を守る会”の取締役であります、粟原 幸克と申します。突然ですが、お宅の御子様の中に負傷している方がいらっしゃると聞きまして駆け付けて参りました。
公木:ははぁ、それは助かります。7───。
粟原:早速ですが、御子様の負っている傷を確認するためご本人様をここにお連れ出来ますでしょうか?
公木:…暫しお待ちください。
公木はリビングへ向かい、ハヤトを連れてきた。
ハヤトは粟原を見るなり少し胡散臭いという印象を受けた。
然し、背に腹は変えられないので傷口を粟原に見せた。
粟原はじっくり見たと思えば、持っていた分厚い書類用鞄からアーミーナイフと薬箱を取り出した。
何を行うと思えば、アーミーナイフから鋏を引き出し、矢羽根辺りを切り始めた。
ハヤトは二束三文なアーミーナイフの鋏で切れるものなのか心配だった。
が、力任せで案外切断出来た。
そしてアーミーナイフ自体を鎚代わりにして矢の切断面に叩き、無理やり抜いた抜いたかと思うと傷口を消毒液で拭い、何と炙った裁縫針で縫い付けた。
当然、麻酔などしておらずハヤトは思わず絶叫してしまった。
ハヤト:ハァ…ハァ…本当に…これで…塞がれて…いるんですか...?
粟原:論無くとも、後藤家の為なら治療も吝かでない。貴殿方も須く私が率いています“化け狸を守る会”を信用し、今後も頼るべきです。君たちの事はよく知ってますし、必ずお守り致します。
公木:はぁ、変な新興宗教ではないんですよね?
粟原:御尤もです!お暇する前に、条本さんが率いる“魔魅掃蕩組合”だけは貴殿方を襲う糖質野郎の集団なのでご用心を!!
そう言って粟原はどっかへ行ってしまった。
公木は琴華に“糖質野郎”の定義を求めたが、琴華はどう言い表そうか苦悩して噤んでしまった。




