~歯車が壊れる頃に~ 9
7人乗りのミニバンは細い通りを軽々とすり抜いていく。
車内では、違う意味で静かだった。
フカフカのシートが後藤兄弟の傷んだ心の疵を癒し、程好い芳香剤が更に気を落ち着かせた。
父親の芳朗が運転し、萠里亥は助手席に座り、後部座席には右からハヤト、タンポポ、ヒロトという順で座っていた。
芳朗:確か、君らの家ってベージュ色に塗装されてるアパートだっけ。狭くない?
タンポポ:失礼な、ちゃんと暮らしていってるよ!
芳朗:凄いねお前たち!
車は十字路に差し掛かろうとした時、赤信号に捕まってしまった。
と、目の前に一人の弱冠が棒立ちしていた。
手にはクロスボウを持っており、明らかに普通の人では無いことは確かだった。
刺激だけはさせないよう、極限何もせず立ち去るのを待った。
ところが、一人の弱冠は迷いなく矢をセッティングし車に向けて構えた。
芳朗は危機を感じて思いっきりアクセルを踏んだ。
然し既に引き金は引かれた。
矢は右側のリアガラスを貫き、ハヤトの右肩に刺さった。
ハヤト:あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛痛゛い゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!゛!゛!゛
芳朗:安静してろっ!今病院に向かうから!!
ハヤト:ヤバイ……感覚が…感覚が……。
車は電光石火の如く走り向け、近くの病院を探していた。
そして最寄りの総合病院の玄関口に着き、芳朗は飛び出して窓口に向かった。
芳朗:すみません!子供が矢を受けて大ケガを負ってるんです!来てください!
受付係:わ、分かりました。今医師を呼んできます。
暫く経った後一人の男の医師がやって来て、芳朗と共に車内にいる患者の容態を確認しにきた。
然し、医師の態度がどうも可笑しかった。
芳朗:どうですか、何とか治せそうでしょうですか。
医師:ふむ、可也出血してますね。直ぐに手術で矢を取り出しましょう。
芳朗:ああ、お願いします。
ハヤト:スゥ…まだ痛みが…。
医師:ところで、動物は好きですか?
芳朗:は?
医師:二度も言わせないでほしい、動物は好きですか?
芳朗:先生、その質問って手術と関係あるんですか?
医師:………矢が刺さってる君、動物は好きですか?
ハヤト:もし、僕が「はい」と言った時に貴方は僕を手術するのを中止しますか?
医師:………………ろす。
ハヤト:!!…父さん逃げてっ!!!
萠里亥:ファルコン【ハヤトの渾名】っ?!一体何か───
その瞬間、医師はカッターナイフを急に取り出し芳朗の喉を一筋、創痍を付けた。
芳朗は急いで掌で押さえ止血を試みたが、血管迄切られており中々流血が止まらず跪いてしまった。
医師は芳朗の背中を何度も刺し、止めを刺そうとしていた。
萠里亥はそれを見て車内にいる後藤兄弟にも襲い掛かると思った。
そして医師は徐に立ち上がり血塗れのカッターナイフをリアガラスに突き付けた。
萠里亥は咄嗟に運転席の方へ座りシートベルトを締めたかと思うと、何とアクセルを踏んだ。
そして慣れない手付きでハンドルを力一杯回して、病院の敷地内から脱走した。
タンポポ:メリー?!運転大丈夫なのか!?
萠里亥:いや、けれどそうするしかないんだ!
ハヤト:やめてくれ!!もし事故ったらどうすんだ!
萠里亥:黙れファルコン!今はこうするしかないんだ!!
ヒロト:メリー!僕の腕が治ってないの分かってんのか!
萠里亥:ハヤトから聞いた!安全な場所が見付かるまで我慢して!
萠里亥が運転する車は多少ふらつき乍らもナビを頼りに後藤兄弟の家に向かっていた。
けれど所詮アクセルとブレーキ、ハンドルの回し方しか知らないので手荒な運転になり、何度も車と打つかりそうになった。
そして何とか後藤兄弟の住むアパート近くに着き、後藤兄弟はそこで降りる事にした。
ハヤト:…おいヒロト、早く降りてくれ。
ヒロト:どうしてだ。
ハヤト:左側じゃないとスライドドアが矢に当たってしまうからだ。
ヒロト:…分かった。




