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後藤一家の事情  作者: 奈々篠 厳平
五章
32/50

~歯車が壊れる頃に~ 7

 玄関を開けると、そこに兄の“誉狼(たかかみ)”と父親の“洗熊(せんゆう)”が私服姿で立っていた。


月見里:お邪魔します。

誉狼:皆様は善狐(よしなり)のご友人とお聞きしました。

洗熊:本当に…来てくださって有難う御座います、(さぞ)かし御苦しいでしょう。

内村:…はい、お悔やみ申し上げます。

誉狼:取り敢えず上がってください、今飲み物を用意します。


ハヤト、ヒロト、タンポポ、塩〆原、月見里、河岸、内村の一同はリビングに集まっていた。

ダイニングテーブルには少し大きい正方形の桐箱、頬杖をし乍ら睨む中学生である“翔狸(しょうり)”さんがいた。

翔狸は暫く彼らを見た後、徐に立ち上がった。


塩〆原:…突然(とつぜん)顔合わせをお願いして済みませんでした。

翔狸:(いや)、謝る必要はない。(むし)ろ光栄だ、彼にこんな沢山の友人が出来ていたことに一安心している。

月見里:と…言うのは。

翔狸:この中に知ってる奴もいるが、弟と俺の兄は自閉症スペクトラムを患っている。世間から“変な奴”とか“良く分からない人”とか言われてて兄は可也(かなり)苦しい思いをした。その証拠に背中にえげつない痕が残ってる。弟も同じ苦しみをしていて何か隠してないか心配だった。

内村:翔狸さん…実を言うと、僕の妹も自閉症を患っているんです。名前は“白狐(びゃっこ)”といって、近い内誕生日を迎えて8歳になるところです。


翔狸がそれを聞き頷いていると、誉狼はお盆の上に数人分の麦茶を乗せてダイニングテーブルの上に置いた。


誉狼:お前、俺の黒歴史語っただろ!やめてよ、あの時真逆(まさか)先生もグルで見て見ぬふりにされてるのを忘れようとしたのに…。それに、まだ話していなかったけど、物を隠されたり定規で背中やケツに引っ叩かれたって言ったけど...それだけじゃない!頭上に画鋲を(ちりば)められたり───。

翔狸:げふん。んで話を続けるが、学校にあった遺品から学校生活は順調で、問題無かったことが何よりの幸せだったんだ。

誉狼:───()()りゴキブリを食わせようとしたり、その…小学生の前で言っちゃなんだけど、えぇーと…上の人に…下品なことをされたんだぞ!!後それと───。

翔狸:(しか)し、真逆(まさか)あの猟奇的な事件に巻き込まれた事を知った時は……時が止まったがのような…感覚が見に感じたんだ。

誉狼:───ああ兎に角、口が止まらない程怒りがこみ上げてくるわ!…済まない、弟の話をしていたんだな。正直、何故(なぜ)(なん)の罪のない善狐(よしなり)が…と思ったよ。


一同は翔狸の話を終始静聴した。

そして内村は翔狸と誉狼に質問をした。


内村:少し話は変わりますが、僕たち…特に後藤一家や僕の妹などは今後どうすれば良いでしょうか。

翔狸:単純だ、逃げ延びろ。そして周りに流されてはならぬ、争ってはならぬ。兎に角逃げろ。

誉狼:善狐(よしなり)…間違えた、善狐(まさつね)は立派な兄だ。きっと妹“白狐”を守れると信じているぞ。


然し、タンポポはどうしてもダイニングテーブルに置いてある桐箱が何なのか気になって仕方なかった。

そして迷いなく問い掛けた。

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