~歯車が壊れる頃に~ 3
その晩、歌内と北野は一緒に帰ろうとしていた。
然し、職員玄関の近くに漆黒で岩乗そうなワンボックスカーが停まっていた事に気付き棟の物陰に隠れた。
ワンボックスカーから父親の洗熊が喪服姿で降りて来て蒲生先生と軽い会話をしたと思えば、兄である翔狸と誉狼も制服姿でブレザーの埃を気にし乍ら後部座席から降りて来た。
そして3人は其の侭職員玄関へと入っていった。
北野:あれは一体...。
歌内:多分、遺品整理だ。案外彼奴、顔が広くて上下関係無く友人が多いのは耳にしてる。それに...所謂サヴァン症候群の影響なのか知らんか、結構凝った作品を沢山作っちゃってるし...。
と、作品で溢れた段ボールを次々と運ぶ勝木の家族と先生達が出入口から出てきた。
北野:箱の中身は何なんだ...。
歌内:オブジェとか絵は勿論、えっーと...お話や何かの楽譜も書いていたというのを聞いてるし、あっ、数人の交換日記も多分入ってる筈、俺も一時期彼奴としてたけど...濁点や文法が一寸杜撰で上手く行かず数日で終わっちゃったんだよな...。
北野:確かに、喋り方や接し方は覚束無かったけど、案外コツや個性さえ理解すれば直ぐに友達になれる奴だったよ。
歌内は最初疑っていたが、良く良く考えてみれば内容自体や話題はきちんと相手に合わせてくれてたのを思い出し、もっと粘っていたらと薄々後悔してしまった。
と、段ボールを降ろした翔狸が唐突に棟の物陰に対して睥睨してきた。
こっそり伺っていた2人は思わず声を洩らした。
翔狸はじっと見詰め乍ら2人の元へ歩いてきた。
歌内:...おい、どうすんだよ。
北野:...。
翔狸:おいお前ら、遺品整理の見学ならアッチに行け。それに北野、よくぞお前の兄貴が俺の弟を殺してくれたな!!
其れはつい昨日起こった許りのあの猟奇殺人についてだった。
3人は善狐を含め6名の命を奪ったとして未明に捕まったのだが、なんとその犯行グループの中に北野の兄“聖希”が居たのだ。
その上、直接斬首を行ったのも実は聖希であったことも取り調べで発覚した。
翔狸は激しく憤っており、怒りに任せて北野の胸ぐらを掴み取った。
北野も咄嗟に翔狸の顔面を殴った。
そして其の侭北野と翔狸の殴り合いに発展してしまい、直ぐさま歌内と亡き善狐の兄である誉狼が止めに入った。
誉狼:おい馬鹿!やめるんだ、手を出したって何も解決しねぇぞ!
歌内:北野ぉ!気持ちは分かるか、今それどころじゃない!落ち着け。
2人は渾身に痣が出来ており流血もしていた。
歌内は急いで北野を保健室へ連れていこうとした。
と、翔狸は北野に向けて言い放った。
翔狸:2人ども耳を掻っ穿って聞け!もう既に紛争は始まってる、1人の死と1つの偏見だけでなぁ!憶えとけ偽知障めぇ!
そう言って翔狸は鼻血を押さえ乍ら車に戻った。
誉狼も北野と歌内の憂いに満ちた背中を暫く眺めた後車に戻った。




