漫才「忘れた」
ツッコミ:はいどーもー!
ボケ:……。
ツッコミ:おい、どないしたん。挨拶くらいせぇや。
ボケ:聞いてくれ。お前に重大な報告がある。
ツッコミ:なんやねんいきなり。
ボケ:今日の漫才な、全部忘れた。
ツッコミ:はぁ!?
ボケ:一言一句全部!何もかも忘れた!なぁんも思い出せん!
ツッコミ:何いうてんねん!さっきまでネタ合わせしてたやろ!
ボケ:ここに来るまでに忘れたわ。お前が誰かも怪しい。
ツッコミ:鶏かなんかなん!?三歩歩いたら忘れるん!?漫才してる場合とちゃうぞそれ!俺ら今から「久しぶりに実家に帰ったら、オカンが悟りを開いてて、めちゃくちゃ高い数珠を売りつけられる」っていう漫才するんやろが。
ボケ:なんやそのヤバいネタ。
ツッコミ:お前が考えたんやぞ!M-1獲れる!いうて。
ボケ:マジか。どうかしてたな。忘れて正解やったかもな。
ツッコミ:お前、全部忘れたってどうすんねん。もう今本番やぞ。
ボケ:大丈夫や。ここに来るまでに閃いた。
ツッコミ:閃く余裕あるんやったら忘れんなよ。
ボケ:それな(指を指す)
ツッコミ:うざいうざい!閃いたんやったらはよ言えや!もう本番やねんぞ!
ボケ:今日は、この場で漫才を作っていこうとおもてんねん。
ツッコミ:なんや、即興で漫才するんか。ほなはよやるで!
ボケ:タッタッタ(指を振る)
ツッコミ:それやるんやったら、チッチッチや!ステップでも踏んでんのか。
ボケ:ああ、チッチッチ。ちゃんと聞いてたか?俺は、漫才を作るいうたんや。
ツッコミ:即興でやるんとちゃうんか。
ボケ:せや、今日はここで漫才を作り上げていく。今日は漫才師の裏側、ネタ作りをドキュメントとして見てもらおうってことや。
ツッコミ:そんなん何がおもろいねん。笑いとれんのかいな。
ボケ:ツッツッツ。
ツッコミ:チッチッチな?
ボケ:安心せえ。ドキュメントに笑いは不要や。
ツッコミ:今一番不安な言葉!まあええわ、とにかくやるで。どんな漫才にすんねん。まずはテーマ決めよう。
ボケ:「コンビニの店員」や。
ツッコミ:くっそベタやな。あれやろ?自動ドアのくだりでボケて、レジのやり取りでもボケ倒すやつや。ベタやけどやりやすいかもな。よっしゃ、どっちが店員やる?
ボケ:違う。
ツッコミ:なんやねん、定番のやつちゃうんかい。
ボケ:俺が、本部から騙されて利益ちょろまかされてる家族経営の旦那やるから、お前はその店で煙草を万引きするその家族のグレた娘やって。
ツッコミ:誰が笑うん!?客が一人も出てこん!自動ドアうぃーーんは!自動ドアの音だけで何パターンかいくやつは!?
ボケ:なんやあかんのかいな。
ツッコミ:いや、あかんよ。尖りすぎて笑えんわ。そのネタがドキュメントやもん。お前のネタやっぱヤバいわ。
ボケ:ありがとう。
ツッコミ:褒める方のヤバいちゃうわ。
ボケ:今日やるネタ、やっぱ俺が書いたみたいやな。
ツッコミ:さっさと思い出せや。とりあえずコンビニの店員はナシや。次次!
ボケ:次は「銀行強盗」や。
ツッコミ:またベタな。あれやろ?俺が強盗で、お前が銀行員や。俺が金をバッグに詰めろ!いうてもわけわからんもんをお前が出してくるんやろ?たしかにボケやすいかもな。それでいこか。
ボケ:違う。
ツッコミ:また違うんかいな。
ボケ:俺が、娘を大学に進学させるためにコンビニの売り上げに手を出すも、本部に見つかり自暴自棄になった強盗やるから、お前はそのニュースを家で見て、改心して銀行へと走り出す娘やって。
ツッコミ:さっきのオトン!ゴリゴリの犯罪に手を染めとるやん!ていうか俺の役どころ相当な演技力が求められるんやけど!
ボケ:なんやねんさっきから!俺のネタに文句あるんかい!
ツッコミ:ありまくりじゃボケ!そんなネタで誰が笑うねん!
ボケ:うちのオカンはわろてくれるわ!
ツッコミ:親心という名のフィルターが入っとる!今見てくれてるお客さん笑かさんかい!ちょ、漫才中にどこ電話しとんねん!
ボケ(電話するふり):あーもしもしオカン?オカンが考えたネタな、うちの相方おもんないって。そうそう、あのブサイク。埋める?オッケー。
ツッコミ:何がオッケーや!どんなテンションでいうとんねん!埋めるってなに!?こわいこわいこわい!それにさらっとブサイク言われた!お前もオカンもヤバすぎるやろ!ていうかオカンのネタかい!
ボケ:まあまあ落ち着けって。
ツッコミ:なんやねん!
ボケ(囁き):今日結構ウケたな。
ツッコミ:お前、まさか、わざと……
ボケ:このオカンの数珠のおかげやな。
ツッコミ:いや売りつけられてるやん!もうええわ。