宛先の無い手紙。
スタッフの皆様へ、
もしこの手紙を見つけたら、この先読まずに捨てて下さい。
それなら書かなければ良いのに、そう思う事と思います。
でもこうして手紙を書く事でしか謝れないのです。
…貴方と別れ、早いもので30年が過ぎました。
私に「あなた」なんて呼ばれたらきっと気を悪くすると思います。
不倫に走り、夫以外の子を身籠った女ですから。
最後に会ったのは私の不倫が貴方にバレた時、私と両親、そして不倫相手との話し合いの場でしたね。
あの光景は今も忘れません。
情けなく身体を震わせる私達に貴方の呆れた顔、その表情を思い出すと今も胸が苦しくなります。
離婚の後、貴方の幸せを祈りつつ、慰謝料を払ってましたが、心のどこかで『またやり直せるのではないか?』そんな未練たらしい考えが抜けませんでした。
離婚から10年が経った時、お父さんから貴方が再婚された事を聞きました。
お父さんと連絡を取っていたんですね、知りませんでした。
私が払った慰謝料の通帳を出され、
『受け取り過ぎた分は返す、だそうだ』
お父さんからそう言われた時、涙が止まりませんでした。
もう謝る事も出来ない。
勝手に傷つけ、裏切っておきながら本当に馬鹿な女です。
私は再婚しませんでした。
両親も私も、そんな気にならなかったのです。
当然です、あんなに愛してくれた貴方を裏切ったのですから。
風の噂で貴方に子供が恵まれ、幸せな家庭を築いたと聞きました。
私が滅茶苦茶にしてしまった貴方の人生を取り戻してくれた奥さんはきっと素晴らしい人なんでしょう。
...ごめんなさい。
貴方の人生を、両親の人生を壊してしまった私は謝る事すら出来ません。
お父さんは10年前、お母さんは5年前に他界しました。
私は今、最後の入院をしています。
3年前に見つかった腫瘍が全身に転移したのです。
最近は鎮痛剤のせいか夢をよく見ます。
貴方の子供を胸に抱き、幸せそうな貴方の顔。
私も貴方の胸に身体を寄せていると、あの男が現れて...
そこで悪夢から醒める、最後まで私は赦されそうもありません、当然の報いですね。
少し意識が朦朧としてきました。
ここで筆を擱きます。
また来週、生きてましたら新しい手紙を書きたいです。
最後に、もう一度会いたかった。
不倫をする前に帰りたい...
さようなら...