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止めて!


電話を掛けよう。

これは温厚な主人の言葉と思えない。

きっと誰かが主人に告げ口をしたに違いない、どこまで知ってしまったか分からないが状況を掴まない事には...


「え?」


着信拒否のアナウンスが虚しく流れる。

ラインを送るが[ブロックされました]の文字が表示された。


「一体どうして?」


ベッドにヘタリ込み思考を巡らせる。

今回出張に行く前の主人を思いだそうとするが全く浮かんで来ない。

アイツと高級ホテルで過ごす事と今回の仕事の事ばかり考えていて、数ヶ月前から会話らしい会話もしてなかったからだ。


まさかアイツの父親と主人が繋がってて...

そうなれば私の妊娠まで知られている事になる。

そうなれば、もう逃げ道は無い。


「...離婚になるの?」


最悪のシナリオが頭に浮かぶ。

それだけは避けたい、離婚になるにしても私のした事が親や会社にバレてしまったら、この先生きていけない。


私の不倫から離婚となると会社での立場は危うくなる。

せっかく掴んだチャンスだったのに。


「大丈夫よ、主人は私を愛してるから」


そうだ、主人は私を愛してるんだ。

5年前、あれだけ愛し合いプロポーズをした主人。

こんな事で私と別れるなんて事...


ふとゴミ箱が目に入った。

無造作に突っ込まれたティッシュの塊、中には妊娠検査キットが入っているはず。


「なんて私はバカな事を...」


後悔が押し寄せる。

会社で責任を与えられ充実した日々、忙しく働く私を主人はいつも気遣ってくれていた。

私の両親にもマメに連絡を取り大切にして...


寂しかったは言い訳に出来ない。

主人も同じだったはずだ、それなのに私は、


「...え?」


握りしめていた携帯に着信が、

浮かび上がる文字に血の気が失せる。

お父さんの名前...


取ることが出来ない。

まさか両親に連絡が?

もう知っているの?

怖くて電話に出ることが出来ないまま、着信が切れるのを待ち続けた。


「また?」


着信が終わると続けてメールの着信が、震える指先でメールを開いた。


[紗央莉、全て亮一君から聞いた。

もうお前達夫婦は終わりだ、せめて最後に亮一君に誠意を見せなさい。

明日家に来なさい。亮一君も待っている。]


「...お父さん」


目の前が真っ暗になる。

完全に終わりだ。

こうなるのが分かってたら不倫なんかしなかったのに。


一睡もしないまま一夜を過ごし、ホテルをチェックアウト、会計は済まされていた。

アイツが支払ったのか、寝不足の頭では考える事が出来ない。

そして朝一番の新幹線で実家に。

途中で会社に今日休む事を連絡した。


『分かりました』


通話口から同僚の冷たい声が、まさか知っているの?

聞く事なんか出来ないまま通話を切る。

酷い頭痛に悩まされながら、やがて実家のある駅に着いた。


「...ただいま着きました」


インターホンを押すと、お父さんが玄関の扉を開けた。

酷く憔悴した顔で私を見た。


「...入りなさい」


促されるまま玄関に荷物を下ろし靴を脱ぐ。

そこには幾つかの靴が並んでいた。

その中に見覚えのある靴が目に入った。

紛れもない主人の物、もう来ているのか。


廊下を抜け奥のリビングに向かう。

扉を開けたお父さんに続いて私も中に、

次の瞬間、幾つかの視線が私を突き刺した。


「...あなた」


何の感情も宿して無い主人の視線、ただ静かに私を見つめていた。


「座りなさい」


父さんに促され主人と座卓を挟み、対面して座る。

私の隣は母さんが無言で睨んでいた。


「最初に何か言う事はありませんか?」


主人が口を開いた。

全く抑揚も無い言葉、胸が潰されそう。


「ち、違うの...私...」


「何がですか?」


冷たい言葉に先が続かない。

口が乾き、目眩がする。


「謝罪すら出来ないんですね」


「......」


主人の視線が私を射抜く。

間違い無く呆れているのだろう。

だけどまだ何とか出来るのでは?


「ごめんなさい!」


後退り頭を床に着ける。

何とかこの場を凌ぎさえすれば!


「そんなに身体を曲げてはお腹の子供に触りますよ。

ご両親の孫が、愛する不倫相手の子供にね」


「な?」


私の土下座を一瞥した主人の言葉、もう知っているのか。

頭を上げると父さんと母さんの涙を流す顔が見えた。


「入って下さい」


主人が奥の部屋に声を掛けた、一体?


「失礼します」


ダイニングの扉が開くと身なりの良い1人の紳士が頭を下げた。

誰だろう?初めて見る人だがその人の顔にも憔悴の色が...


「連れて来い」


紳士の目付きが鋭くなり空け放たれたダイニングに向けて声を掛けた。


「...嘘」


2人の男に引き摺られて来たのは昨日まで一緒に居たアイツ、私の不倫相手、血だらけの顔で涙を流していた。


「タ、タシュケテ...ユルシテ」


アイツはすがる視線を向けながら主人に言った。


「嫌です」


初めて聞く主人の言葉に意識が遠退くのを感じた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  こわかったー。  いえ、過去形ではなく現在進行形で、「こわい」です。  続きも震えて待ちます。  ありがとうございました。
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