どうしてなの?
胸糞注意です。
半年前から準備していた展示会を無事に終わらせた。
数社と合同で行ったビックプロジェクト。
成功を祝う為にパーティー会場が用意されていたが体調の優れない私は同僚と一足先に抜け出した。
途中、薬局で検査キットを購入し、1ヶ月を過ごした展示会場近くの高級ホテルに戻る。
嫌な胸騒ぎを感じながら先程購入した検査キットを使用した。
「嘘...」
手にした妊娠検査の結果に震えが止まらない。
何度も説明書を読み返すが、間違いなく妊娠を示すプラスのマークが浮かび上がっていた。
結婚5年目、そろそろ家族が欲しいとは思っていた。
本来なら喜んで主人に報告すべき所、しかしそれは出来ない。
堕ろすしかないのだ。
当たり前だ、主人の子供じゃないのだから。
「どうだった」
項垂れ、トイレを出る私に聞く男性。
彼は会社の同僚、私と同じ企画部。
ある社長の御曹司で私の不倫相手。
彼との関係は1年になる。
「出来ちゃったみたい...」
「おいおいマジかよ」
彼は天井を仰ぎ大きな溜め息、深刻さを感じさせない態度に怒りが沸いた。
「旦那の子供って事に出来ないか?」
彼はふざけた事を言う。
「無理言わないで、1ヶ月間も自宅に帰って無いのよ?それに主人とは半年セックスしてないのに」
「はあ?半年も?」
『旦那に抱かれるな、お前は俺の女だ』そう命じたのは彼じゃないか。
「誰が言ったと思ってるの」
「言ったけど、本当にするとは...哀れな旦那だ」
私の言葉に彼は嘲けた笑みを浮かべる。
思い返してみれば彼は以前から軽い所があった。
慎重に物事を運ぶ主人と違い、楽天的な彼が無邪気に思えて口説かれるまま1年前から関係を持ってしまったが...失敗だった。
「まあ堕ろすしかねえか」
「そうね」
適当な言葉を受け流し、鞄から手帳を取り出す。
最後に生理があった日をチェックしなくては。
10日も遅れていたのか、周期がよく乱れるので気にして無かった。
最後に彼とセックスしたのが...
駄目だ、この1ヶ月間空いた時間さえあればセックスばかりしてたから妊娠した日の特定が出来ない。
まあ大体は分かるか。
「なあ俺の子か?」
「はあ?」
思わず声を荒らげてしまう。
他に誰が居るっていうの?
「そんなに睨むなよ、だってちゃんと最後はしてたしさ」
「ふざけないで!
ゴム着けてって毎回言ったじゃない!!」
そうだ、私は言ったんだ!
でもコイツは『大丈夫だ、ちゃんとするから』って。
「おっかしいな、一回も失敗した事無いんだけど」
コイツはヘラヘラ笑いながら頭を掻いた。
「なあ、確認だけど間違いって事無いか?」
「それじゃあんたも見なさいよ!」
手にしていた検査キットを投げつけた。
「うわ汚ったね、それ小便掛けたんだろ」
大袈裟な仕草でコイツは避け、キットは壁に当たりベッドの上に落ちた。
「やれやれ」
汚物の様にキットをベッド脇に置かれていたティッシュに包むとゴミ箱に捨てた。
あまりにもじゃないか?
「しゃーねーな、早く堕ろすか?」
「どうやってよ!産婦人科に行ったら旦那にバレるじゃないの!」
「あ、そっか」
コイツは!
「なら知り合いに頼むか」
「そんな人居るの?」
それならバレない。
こんな目に遭うのはこりごりだ。
金持ちで俺はセックスが上手いと嘯いてたが、それ程でも無かった気がする。
もう別れよう、主人に早く会いたくなった。
「お前知らないか?」
「知るわけ無いでしょ!」
駄目だコイツ、もう愛想も尽きた。
「親父に頼むか」
「え?」
親父ってコイツの父親?
どんな人か知らないがコイツの父親だけに不安だ。
「顔も広いから知り合いに居るだろ」
「本当?」
「ああ、多少は叱らっけど、仕方ねえな」
億劫そうに奴は携帯を取り出した。
その態度に腹が立つ、だけどこの窮地を脱するには我慢するしか無い。
「あ、親父?」
どうやら父親が出た様だ。
確かに彼の父親は権力者だろうと思う。
この高級ホテルのスイートルームだって名前を言うだけで顔パスだったし。
「...嫌違うよ、俺はそんな事...」
様子がおかしい。
彼は額に脂汗を滲ませ、何やら必死に弁明している。
「糞!」
乱暴に電話を切る彼、先程までの余裕は全く無くなり血の気は失せ、酷く怯えて...
「一体どうしたの?」
「触るな!」
近づくなり乱暴に腕を振り払われる。
呆然とする私を他所に彼は自分の荷物を鞄に詰め始めた。
「何してるのよ」
「話し掛けるな、俺は他人だ!腹のガキは自分で何とかしろ」
「は?」
彼は財布を取り出し現金をぶちまけた、辺り一面に紙幣が舞う。
「あばよ!」
「ち、ちょっと!!」
事態が飲み込めない。
一体どうなっているの?
彼はキャリーバッグを乱暴に引きずり部屋を出て行き、私は取り残されてしまった。
「え?」
私の携帯にラインの着信が。
「何これ...」
そこには主人から一言。
[お前達は終わりだ]
そう書かれていた。