お見合いにトラを抱えたアマゾネスがやってきた!
野生児みたいな女の子が好きですたい。
初めてのお見合いに、俺の緊張は最高潮の有頂天だ。所謂庭園と呼ばれるししおどしがカッポンカッポンうるさい部屋で、俺はお茶をガブガブと飲んで気を紛らわせている。
会社の専務に無理矢理仕組まれたお見合いに、当初は嫌気しか無かったが、お見合い写真が中々に俺好みだったので、渋々……しぶしぶ承諾したのだった。
「山下君。紹介しよう……アマゾネス子だ」
「──は?」
「ハジメマシテ! アマゾネスの方から来ましたアマ・ゾネス子デース!」
まるでジャングルの奥地から現れたかのような出で立ち。小脇に気絶したトラを抱え、背中にはブーメラン。なにより身体中に生傷があり、壮絶な生活を送っている事が一目で認識出来る。
──とんでもない女がお見合いに現れた!!
「コイツ仕留めるのに時間掛かりマシター。笑ってユルシテ!」
気絶したトラの顔をグリグリとこねくり回す女。
「もしかして風雲拳の使い手ですか?」
「ナンですかソレ?」
「すみません何でも無いです」
「それじゃあ、後は若いアマゾネス同士、仲良くな」
「俺はアマゾネスじゃありません」
専務が俺に意味不明のウインクを送り付けると、席を立ち、襖を閉めて出て行った。
「俺はアマゾネスじゃないですからねー!!」
「そこダイジじゃないから二回言わなくてもイイデスヨー?」
「俺にとっては大事なんじゃい!!」
初めて見知ったアマゾネスに思わずツッコミを入れてしまった……。
「す、すみません……」
「イインデス。アマゾネスにはこんなことわざがアリマース」
「?」
「雨降って、カエル轢かれる」
(意味分かんねぇ…………)
アマ・ゾネス子とやらが見た目も頭も支離滅裂なのが分かったので、とりあえず適当に話をして帰ろう。そして帰りにTS〇TAYAでつまらなさそうな映画でも借りて早送りで観よう。そうしよう……。
「ご、御趣味は?」
お見合いと言えばのテッパンクエスチョンだ。後は趣味や思考が合わなかったと専務に伝えれば、とりあえずは面目を保てるだろう。
「ブーメラン作り。このブーメラン、よく飛ぶ。ミテテ」
アマ・ゾネス子が背中に背負ったブーメランを投げると、襖を突き破り、ししおどしを破壊して、反対側の襖を突き破ってアマ・ゾネス子の手へと帰ってきた。
「す、スゲェ……」
壊れた襖の隙間から、カッポンカッポン言わなくなったししおどしが、何とも言えない様子で水浸しになっている。
「ナゲテミルカ?」
「えっ!? いいの!?」
メッチャよく飛ぶブーメランを手渡され、思わずテンションが上がってしまった。こんなにウキウキするのはいつ以来だろうか……。
「それっ!」
ブーメランを思い切り投げると、襖を突き破り、ししおどしの隣に置いてあった盆栽をぶち壊し、帰り際に反対側の襖を完全に破壊して、ブーメランは俺の手元に帰ってきた。
「うぉぉぉぉ!! 気持ちいぃぃぃぃ!!!!」
「そのブーメラン、クセある。一度で使い熟せるお前、きっとアマゾネス」
「マジか!? 俺アマゾネスだったのか!! 専務ー! すみませーん! 俺アマゾネスでしたーー!!」
ブーメランが楽しすぎて何回も投げていると、アマゾネス子がニコニコと此方を見ているのに気が付いた。
「コレデ、趣味同じ……ニタモノドウシ」
「確かに! よし! 結婚しよう!!」
俺はいつの間にか目を覚ましていたトラに頭を齧られながら、アマゾネス子に告白した。
「ハイ! ヨロコンデー!」
恋のブーメランは、戻ってくること無く、アマゾネス子の心にヒットした──!!
「ガオォ……!」
ついでにトラも飼うことにした。