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炎罪のウロボロス  作者: あくえりあす
61/62

61、早なる鼓動

……そういえば。


ふと思い出した。

また鼓動が早なるのを感じた。


そうだ。あの日……あの時も、俺はこんな風に……。


そうだ。罪から逃れるため、あの日私はこんな風に暗い森の中をしばし彷徨い、あの男に――エノクに出会ったのだ。

忘れられることなど決してない。だが同時に、今日この日まで必死になって忘れようとした出来事でもある。少なくとも思い出さぬよう、懸命に記憶の奥底、心の奥底に沈めて来た事柄だった。


あれは……奴と出会ったのは、壊れかけたあの教会の中。そう……こんな感じの暗い森の中の一本道を行き、辿り着いた……。


若すぎた日々の思いが、様々な感情が去来した。怒り、悲しみ、憎しみ……そして弱々しくも、ただ唯一私を支え続けてくれていた、望み。

私は私を愛していた。私だけは、私を必死に愛していた。

想起されるのは、幼き日のあのキャンプでの出来事だ。

家族三人で楽しく過ごした、大切な、たった数時間の記憶。


「でも俺は……あの大切な思い出の品で、人を殺してしまったんだ」


泣きたかった。だが涙は出ない。

私は気付かぬうちに、ふらふらと砂利道を歩き始めていた。まるで何かに誘われるように――。


「俺は……俺はあの時、あのナイフで、俺自身を殺してしまっていたんだ」


闇と静寂に覆われた世界。自分以外の存在を何も感じない森の中で、私は不意に言いようのない強烈な孤独感に苛まれた。

全てこれまで築いてきた栄光が、名誉が、そして幸福が、急に空しいものに感じられた。

全てが幻の様に思えた。


『おい! いるのはわかっているんだ! 出てこい!』


一陣の風が舞った。木々を縫い、草場を駆け抜けて行く、初夏の風を思わせる音。と同時に、懐かしくもおぞましい、あの声が聞こえたような気がした。

そのときだった。黒い塊が突然、森から現れ、正面からこちらに向かって来た。私はそれを見た。塊は人だった。若い男だった。


「……お、お前は?!」


胸に強い痛みを感じた。呼吸ができない。立て続けに二度、三度、ナイフが私の胸に突き付けられた。全身から力が抜けていくのを感じた。そして私はその場に崩れ落ちて行った。

全ては一瞬の出来事だった。

そして気付けば、私は一人、地面に這いつくばるようにして倒れていた。


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