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炎罪のウロボロス  作者: あくえりあす
60/62

60、闇の中で

狼狽と動揺が、私のうちに生じる。思わず私は周囲を二度、三度と見回した。だがヘッドライトが照らす僅かな範囲を除けば、辺りがほとんど見えない。

それが故に、私はしばしの間、ほとんど身動きが取れなかった。そこで一たび、私は体を制止させ、取り敢えずは、車の進行方向とは真逆の方向の、適当な一点を選び、そこに視線を合わせ続けることとした。


落ち着け。


呼吸を整え、自分にそう言い聞かせた。

さすれば意図した通り、徐々に目が闇夜に馴染み、気持ち辺りを気取ることが出来るようになり始めた。


確かめるべきか……。


そう思った瞬間、初夏特有の薫るような爽やかな風が吹き抜けた。

私は今一度振り返り、そこにあるはずのラピスラズリの存在を確認したい衝動に駆られた。だが、そんなことが無意味であることは、十二分にわかっていた。

既に私の視界に映っている闇の中の光景が、明かに親しんだものとは違うのだ。振り返ったところで、そこにあるべきはずの瀟洒な別荘は、影も形もないであろう。証左の一つとして、耳に心地いい、湖上の波音も全く聞こえてこない。

あるのは今いる未舗装の一本道と、それを覆うようにして両側にびっしりと、そして無秩序に生えている多くの樹木だけだった。

もっとも、砂利を踏む足元の感覚はともかく、森を成す木々の形をこの目でしっかりと確認することは、未だもって、まったく容易ではなかった。クルマの内外から漏れる頼りない人工の光が届かぬ世界を、頭上からの月明かりと星々のかすかな煌めきが照らし、繁茂する葉波の揺れる輪郭が、夜空との間にわずかに映し出されていたから、今自分が森林の中にいるのだと認識できたに過ぎない。


「どうしたらいいんだ?……俺は」


情けない話であるが、正直な心情だった。今さらながら、文明の利器に頼り切った生活のせいで、いざというとき、自らの力でどう動くべきか、皆目見当がつかなかった。


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