47、そして今、夜景を見ながら思うこと。
大切な顧客を自宅に招いての話し合いは、優にニ時間を超えた。
―-プロジェクト・ウロボロス―-
この国家機密の中核をなす我が社が取り扱う商品に対する、実質的に現場の最高責任者たる彼らから出された要望や、調達に関する具体的な確認など、会議は極めて実質的であり、かつ有意義なものであった。
私は顧客を玄関で見送った。普段であれば妻もこの場にいるのだが、今回に限って接客はおろか、来客とは挨拶を交わすことすら控えてもらった。
それは勿論、いかなる形であれ、例えほんの僅かであっても、妻には一切このプロジェクトとの関わりを持たせたくなかったからだ。
客人たちを見送った後、私は先程まで彼らと会議を行っていた応接室に戻った。そして、彼らが訪れる前に見たのと同じ風景に目をやった。帰宅した二時間前より当然夜の闇は深いものになっている。とはいえ、まだ皆が眠りにつくほど深い時間帯ではない。
にも関わらずだ。
この高層階から見下ろすその夜景には、どうしても拭うことが出来ない違和感があった。
私の視界が届く限り、はるか遠くにまで、ぎっしりと詰め込まれたように建ち並ぶ家々がそこに存在しているはずであるにも関わらず、街明かりがそれに相応しているようには、どう贔屓目に見ても、そう思える状況にはないのだ。
そしてそれは年々顕著になっている。
実のところ、私はその理由を明確に把握していた。答えは悲しいほどシンプルなものであった。要は年々国民の平均収入が減少し続けており、多くの者が生活苦に陥った結果、電力消費量が大幅に減少し続けているのである。
だから輝く夜景が年を追うごとに「みすぼらしい」ものになってしまっていたのだ。
「電話を頼む」
私はその場で、件のAI秘書にそう伝えた。連絡を取る相手はメーカー側の代表だ。
「こんばんは。社長、お世話になっております」
ほどなくクライアントが画面に映し出された。
「こちらこそ、いつもお世話になっております。たった今、クライアント様との会合を終えたところです。そこで、先方からの具体的な要望を持って、そちらに今から伺いたいのですが、宜しいですか?」
これが私のビジネスのやり方だ。
ビジネスは生き物だ。何よりも鮮度が命。自らが即決断して、自らが即行動に移す。
ましてや今回のような超の付く巨大プロジェクトの際は尚更のことだ。
「了解いたしました」
先方の約束が取れた。画面はすぐに切り替わり、有能な秘書が瞬時に現れる。
「車を用意してくれ。メーカーの代表部と、ラピスラズリで会う。90分以内に現着したい」
「かしこまりました」
私は出掛ける支度をしながら、妻に再び外出する旨伝えた。




