44、そして気付けば……
その時だった。
「えっ?!……」
私は呆気にとられた。いったい何が起きたのか?まるで理解できない。
気が付けば私は、自室のベッドの上で横たわっていたのだ。
「まさか?……そんな……」
本当に……本当に全ては夢だったというのか?
私はあわててスマホで今現在の日時を確認した。
時刻は午前七時過ぎ。日付は――"悪夢の夜"から一晩が立っていた。つまり今は日曜日の朝、ということだ。
私は未だ現実を把握できないまま、ベッドから起き上がり南向きの窓へと近づいた。そしてカーテンを勢いよく開く。窓の外は当然の如く、明るい朝の陽光にあふれていた。
不思議な感覚だった。
いつもと見慣れた風景が、それまでとは全く違う輝きを放っていたのだ。目に映るもの、その何もかもが美しく晴れやかに見えた。
「もしかしたら……」
私は思いを声にした。
「いや、本当に……全ては夢、だったんだ」
それは私自身に、そう言い聞かせるためだった。
自分が犯した取り返しのつかない罪も、あの謎の男の存在も、交わした契約も、全ては夢だった。
きっとそうに違いない。そうに決まっている。そうであってほしい。
そう考えれば気持ちも、そして体も軽い。
だが頭でいくらそう思考しても、消し難い、生々しい感触が全身に――とりわけ両の手にまざまざと残ったままであった。
私は今しがた目にした晴れやかな光景が、瞬く間に色あせていくのを感じた。が、その刹那、私はあることを思い出した。
そして机に向かい、その引き出しを開けた。そこには、例の物が厳然と存在し続けていた。
あの懐かしい日の思い出が詰まった、折り畳み式のナイフだ。
「思考は注意深くするんだ。思考は感情を誘発する」
私は男の言葉を思い出した。そのことにより、湧き上がる恐怖を抑えるよう努めることが出来た。だが一方で、あの男が厳然と存在したという事実もまた認めなければならないことを私は悟った。




