23、自己中心的な希望の光を求めて
不意に、遠くに聞こえたサイレンの音。一台、いや二台、あるいは三台か。
高く唸るように響くそれは、間違いなく警察車両から発せられているものである。
そう、如何に妄想しようが、ここは人里の只中にある雑木林に過ぎないのだ。いずれ私は逮捕されるであろう。だが今はただ逃げたかった。いや、逃げ切れると信じたかったのだ。とにかく今は夜陰に紛れ、この場をしのぐ。次のことはまたその時に考えればいい。
私は身勝手な防衛本能を奮い立たせ、前進し続けることを選択した。その闇の奥へと続く道に自己中心的な希望の光を託したのだ。
遠くに聞こえるサイレンの音は、近付いたかと思うと、また遠くへと消えていく。それは気まぐれにあちこちに向かって吹く夜風のなせる業かとも思えたが、どう聞いても定まった方向にそれらは向かわず、文字通り右往左往しているようにしか思えなかった。
私はそこに更なる希望を見出した。
きっと警察は、自分を追っているに違いない。だが同時に、全く捕捉などされていないであろう、ということも強く感じた。
幸か不幸か、前進すればするほど、辺りは一層濃い闇に包まれていく。何かに躓き、よろめく。気が付けば舗装されていたはずの道路は砂利道になっていた。
全身から吹き出す汗。自分は逃亡者なのだということをこのとき強く自覚した。
やはりあの不良は死んだのか。今さらながら、相手に思いが及ぶ。
殺人罪
この言葉が実感を伴って、不意に私の脳裏に重くのしかかって来た。
理由はどうあれ、自分は人を殺した。
この変えがたい永遠の事実が、私の心拍数を急に上げた。私の足取りもまた急に重いものとなった。そしてついには殆ど前進できなくなった。
なぜここに至ったのか。15年間の歩みが、次々と去来する。その場面場面を思い出すたびに、感情が強く揺さぶられた。
後悔。懺悔。そして恐怖。もう一度人生をやり直したいという強い思い。
「どこだ! どこにいる?! 出てこい!!」
私は吐き気を覚えた。
「ここにいるのはわかっているんだぞ!」
父親の声だ。あの憎むべき粗暴な男の怒声が聞こえた。




