20、取り返しのつかない罪
死んだな。
私はそう確信すると、後方にいる少年たちの方へと目線を向けた。
どうしたものか。
何か考えがあったわけではない。だからただ黙って彼らを見つめていた。すると、彼らは一拍置いたのち、悲鳴を上げて、一斉にその場から逃げ出していったのだった。
ヤバイ。俺、人殺しになっちゃった。
そのようなことを漠然と考えてはいたものの、まだ本当の意味では、事の重大さにはまるで気付いていない状態であった。
こいつにも、母親がいるんだろうな。
そしてそんな思いがふと私の脳裏に浮かんだ。するとその瞬間から、幼いころからの様々な母との思い出が去来した。
夕刻が迫る中、パートから帰宅する母を迎えたときのあの独特の感情。二人だけで過ごす、狭いアパートの一室。母の手作り料理。ホッと安堵しつつも、その程度のささやかな幸福感ですら、何か思わぬ出来事で儚く消え去ってしまうのではないか、という不安感。
もし俺が人殺しだと知ったら……。
母の悲しげな表情が浮かんだ。私はようやく、取り返しがつかないことをしてしまったのだ、ということを実感し始めた。
とはいえ、浮かんだ後悔の念も、その事由は自己憐憫からに過ぎない。およそ1~2分前に刺し、蹴り飛ばした相手に対しては、依然として何らこれといった思いはないままであった。
だから私はその場から取り敢えず逃げた。逃げ去った少年たちとは反対の方向に向かって。
結果的に選んだのは、より自宅から自分を遠ざける方角であった。
私は再び目的地もないまま走り出したのだ。
手にしていたナイフはどこにやったのか?
現場に落としてきたのか?
あるいは少年の胸に突き刺さったままか?
返り血を浴び、今の自分は一目で事件の首謀者とわかる状態なのか?
物的証拠について、あれこれと脳裏に浮かんだものの、私はそれらの一切を無視し、思考停止状態でとにかく現場からより遠くへと行くことを何よりも優先し、走った。




