2、プロジェクト・ウロボロス
「社長。ご自宅への到着まで、残り20分ほどを要する見込みです」
帰宅途上の車中で、不意に秘書がそう告げた。
モニターに映し出されたこの美女は、CGで作られた「絵空事」に過ぎない存在だ。だが思考する存在であり、その脳みその中身は、ビッグデータに裏打ちされたAIによるものだ。
つまり「彼女」は非常に優秀な秘書であり、例え実体など無いにしても、私にとっては十分に有益かつ有効な存在であった。
「なにか、新しい情報はあるかな?」
「例のプロジェクトに関することでしょうか?」
「ああ、そうだ」
この会話だけでも彼女が如何に優秀なのかということが、私には実感できる。
プロジェクト・ウロボロス。
国家機密に関わる、我が社が中心となって推進する極秘の超大型プロジェクトだ。
だから彼女は決してそれを具体名では言わない。
もちろん、盗聴やクラッキング(悪意あるハッキング)の類に対する備えは万全な状態にある。だがそれでも細心の注意を払い、その名を伏せることにより、彼女は余計なリスクを冒す可能性の芽を事前に摘んでいるわけだ。
「特別会員向けの現地情報が一つございます。ただいまお繋ぎいたします」
尚且つ彼女は、必要最低限の質問をすることにより、的確な情報を私に提供するよう努める。だから私はこの秘書に、絶大な信頼を寄せていた。
「現地から直接お伝えする、最新の情報です」
画面が切り替わり、有能な秘書が姿を消すと、代わりに現地リポーターと思しき若い男が殺風景な簡易スタジオから、いきなり本題を切り出してきた。
勿論、余計な情報が無いことは褒められるべきことである。