15、息が出来ない
だから当然私は、そんな状況から今すぐに逃れたい、抜け出したいと強く願った。
そしてそうした思いは瞬時にして、物理的にその場から離れたい、という強い情動に私の中で転化された。
私は考える間もなく、すぐにそれを実行に移した。
部屋を出て、階段と二階を遮る扉の鍵を開け、一階へと駆け降りた。
声にならない声を絞り出し、私は必死になってその場にいるはずの家族に助けを求めようとした。
だが、明かりも無く、暗く静かな一階には、誰もいなかった。
しかしその刹那、私は体がフッと軽くなったのを感じた。
私はそのまま、玄関へと向かった。そして腰を下ろす。体がどんどん楽になる。視線を落とすと、目の前には私の履き慣れたシューズがあった。無意識のうちに私はそれを履いていた。その瞬間、私はまたも不思議な感覚に襲われた。
それは自室で感じたものとは真逆の感覚だ。そう。それはかつて味わったことのない、奇妙なほどの爽快感だった。
私は思考停止状態のまま、ただ体が動くままに、玄関を開け、外に出た。
まさにそれは、何かに誘われるような感覚だった。一歩、二歩……私は力強く地面を踏む。そして気が付けば私は、夜のとばりが落ちた街中を、はずむようにして走っていた。
周囲には誰もいない。そんな気がした。しいて正確を期すならば、そこにいるのは皆全て赤の他人であり、自分に関わりのある人間がすべからく、どこかに消え去ってしまったような、奇妙な解放感を私は強く強く感じていた。
ああ、そうだ……本当は……本当の俺はずっと自由になりたかったんだ。
このとき、私は生まれて初めて、自分が心の奥底で、実は何を求めていたのか、分かったような気がした。
カネさえあれば……。
私は生活苦から脱出できれば幸せになれる、とずっと信じていた……つもりであったが、それは違っていたのだ。このとき私はようやく、そのことに気付いた。
自分が引き篭もった理由が、かすかに見えた気がした。
無意識のうちに求めていたもの。それは自由だ。もちろん、自室にこもることで、そんなものは得られない。だが、自分の潜在意識が示し、それに伴った、このときの自分にできる精いっぱいの行動が「自室にこもること」しかなかったことも、私は理解した。




