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炎罪のウロボロス  作者: あくえりあす
14/62

14、たった一つの思い出

だからそこからの逃避を、本能が求めるままに私は図った。だが引き篭もった自室で一人味わう感情は、またも意図したものとはかけ離れていたわけだが。


「……そうだ」


でもたった一度だけ。そんな幼少期を送った私にも、大切な思い出というものが一つだけあったことをこのとき思い出した。

父と母、そしてまだ小学生になって間もない頃の私。実父が蒸発する直前の、あれは、いわば私たち家族にとっての最後の晩餐だった。

それはバーベキューの思い出だ。私達、実の親子三人が、一度だけ日常から離れ、笑顔で過ごした数時間の出来事。

いったい、どういうプロセスでそこに至ったのかはもう覚えていないし、母にそのことを聞いたことも無い。

いったいどこで、それをしたのかも思い出せない。だが私たち親子は間違いなく、バーベキューをして、人並みに「楽しいひと時」を過ごしたことがたった一度だけあったのだ。


夢じゃなかったのか。

ふとそのことを思い出すたびに、私はそんな心情に駆られた。

だからその都度私は、机の引き出しにしまってあるバーベキュー用の折り畳みナイフを手に取った。

それはたった一度の楽しい思い出が現実だったということを語ってくれる、確かな、そして唯一の物証であった。

蒸発した父が残していった、たった一つの思い出の品。

むなしいと思いつつも、それだけは捨て去ることが出来ず持ち続けた、父の「遺品」だった。

そしてこのときもまた、私は自分の記憶が妄想ではなかったことを確認するため、机の引き出しから、それを取り出した。

私は右手に持ったまま、件のナイフをしばしそれを見つめ続けた。

様々な……本当に様々な感情が、思いが、去来する。

すると、そうしているうちに、私の中で何か曰く言い難い、なんとも不可思議な感覚が芽生え、あっという間に私の心をそれが覆いつくしていった。

しいて言葉にすれば、何か心の高ぶりのようなものを強く感じた。そしてそれはすぐに、強い圧迫感となって、私の心身を痛めつけた。

ひどく息苦しい。

これといった原因はよくわからない。

だがうまく呼吸ができないことに、強い恐怖を感じた。真因などまるでわからないが、突如姿を現した「死」というものを強烈に実感し、私は恐れおののいた。


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