9-6:路線変更
「それで、勇者くんとの交渉は上手くいったの、ブラン?」
「……駄目だった」
「そっか、残念だったね。ブランったら、交渉事とか苦手そうだし」
「……ガトーレみたいに、交渉とか上手くなくて悪かったな」
ああそうさ、どうせ俺は交渉事は苦手だよ。
今回は、俺が完全に元の姿に戻るためにも仕方ないながらに精一杯やったんだ。
んで、結果がこのザマさ。
「うーん、でもブランの切り口は決して悪くなかったし、話が美味過ぎて警戒はしても、乗らない手は無いはずなんだけどなあ」
「なら、どうして……?」
「やっぱり、勇者くんがどうしても方法を教えられない理由があるんじゃないかなあ?」
教えられない理由か。
ジースの奴はタダでは教えてくれるほど甘くはないと思っていたが、それとは別に何かあるなら厄介だ。
少なくとも、今の路線じゃ無理だな。
「いっそ、勇者くんを半殺しにして、無理やり吐かせるってのは、どう? 今の私たちなら調整できると思うし」
「そんな事をしてバレたら、俺たちはこの街どころか国中でお尋ね者になってしまう。できれば避けたい」
「ブランがそう言うなら、いいけどさ」
ぶっちゃけ、俺はジースを殺してもいいくらいの事をされたんだよなあ。
だが、奴は腐っても勇者だ。
確実に戻れる方法がわかるわけでもないのに、気持ちのままに殺して事を荒立たせるのは避けたい。
「もう、元気出して、ブラン。明日は休むんだし今日は飲んで元気出そう。私は飲めないけどね」
「ははっ、ガトーレに飲まれたら俺が困る」
そんなに落ち込んでいたのか、俺?
ガトーレに気を使わせてしまったなあ。
何はともあれ、明日一日休んでから完全に元の姿に戻るための次の一手を考えるとするか。




