8-7:引き時は大切
「女の姿に変えた? 何の事かな?」
ジースの奴、この場において白を切る気か!?
「わかったよ、そっちがその気なら。第九階層のモンスターも倒せないまま、俺たちがこの階層を攻略するのを指をくわえて見ていればいい。惨めにな」
「くッ……!」
この安い挑発に乗って、ジースが俺に襲い掛かりでもしてくれたら話は早いんだがなあ。
そうすりゃ、返り討ちにして俺の要求を飲まざるを得なくなるまで追い詰められるのに。
「ブラン、言いたい事はそれだけか? お前が何を言おうが、このダンジョンを攻略するのは俺たちだ。──お前の乱入のせいで、今日は興が冷めた。皆、帰ろうぜ!」
「は、はいッ! あのッ、ガトーレさん。助けていただいたところ恐縮なのですが、やっぱりジースさんの事を馬鹿にされるのはちょっと……」
「ううん、気にしないでヒーちゃん。私も、こそこそ歩き回って他人の手柄を横取りするような真似をする人って、大ッ嫌いだし」
捨て台詞を吐いたジースたちは、第八階層に通じる階段に向かって歩いていってしまった。
「まったく、第九階層のモンスターも倒せない分際で、勇者くんたちココに何しに来たんだか」
ガトーレも昨日相当怒っていたからなあ。
嫌味や暴言の一つや二つ吐くのは仕方ない。
「それにしても、あいつら何時の間に第九階層まで来たんだ?」
「さっき見つけた、第八階層出入口にあるショートカットを使ったんじゃない?」
「あれか。俺たちより先に入ったわけでもないのに抜かされていたのは、そういう事か」
なるほどなあ。
所詮は俺たちか切り開いた後からこそこそと付いてきていただけなのに、考え無しに追い抜かせばああなるわな。
第九階層に到達したという既成事実だけで満足しておけばよかったのに、欲張った結果があの有様か。
「でも、さっきので私たちだけがこの階層で通用するって分かったんだし、先を急ごうよ。この下にも階層があるかはわからないけれど、今の調子で順調に進めば第十階層到達の名誉は確実にいける」
第十階層か。
そこに到達するまでには、ジースの奴が思い直してくれるといいが。
さっきの調子じゃあ、勇者としてのメンツよりも自分のチンケなプライドを優先しそうなのが気がかり……だな。




