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序章5

 だったら、その期待に応えてやろうじゃないか。


 「オレが助けてやる」

 「は……?」


 何コイツ!

 思い切って言ったってのに顔顰めたんですけどぉー!

 でも、負けてられっか。


 「オレが何とかしてやるって言ってんだよ!」

 「何をどうやって……」


 ここに来て始めて水無瀬がシドロモドロになる。何だ、さっき顔顰めたのは嫌って訳じゃないのか。紛らわしい奴め。


 「お前の母ちゃんと話つけてやる。それでダメなら父ちゃんと。それでもダメなら児童相談所でも何でも行ってやるよ」

 「……どうして藤間が?」


 本当に意味が分からないって顔で水無瀬が首を傾げる。

 ダァッ、もう!


 「水無瀬に人殺しになんかなって欲しくないからだよ!」


 イラッとして腹の底から声を出して怒鳴りつける。


 「水無瀬の誕生日とか知らないけど、オレと同い年なんだろ。たった十何年しか生きてないのに人生棒に振ってどうすんだよ!」

 「俺の人生なんて棒に振る程度の価値しかないって事だろ」


 子供が拗ねたような低い声。それにオレの頭の中で何かがプチッと切れる。


 「そんな事ないっ!」


 何でそんな事言うんだ。

 そりゃ水無瀬がされた事を思えば落ち込むのも無理はない。思い詰めて死にたくなっても仕方ない。でも、水無瀬は間違ってる。

 母ちゃん殺して自分は捕まって、そんなの二人分の命をドブに捨てるようなモンじゃないか。頭いい癖にそんな事も分からないのか。

 それに水無瀬は自分の事も分かってない。お前の価値はそんなモンじゃないんだ!


 「学年トップの成績だろ、それに冷静で思いやりもある。だからもっと良く考えろよ」


 オレの言葉に怪訝そうな顔をして「思いやり?」と鸚鵡返しに呟く。


 「母親殺そうとして、それがバレそうになって同級生を監禁しているんだ。そんな俺のどこに思いやりがあるって言うんだ」

 「まだ殺してない!」


 水無瀬の嗄れた声に対して、オレは感情剥き出しの大声で言い返す。


 「水無瀬ぐらい頭が良かったら洗剤の名前ぐらい覚えられた筈だろ。それなのにわざわざメモ取るなんておかしいじゃないか。しかも洗剤混ぜて有毒ガスが発生したら水無瀬だって巻き添え食うかも知れないんだ。それに気付かなかったなんて言わせないからな!」


 そう、水無瀬は母ちゃんを本気で殺したい訳じゃないのだ。手軽に購入できる日用品でいつでも終わらせる事ができると、自分自身に言い聞かせていただけだ。

 それなのにオレが余計な事を言ったモンだから頭に血がのぼってしまっただけなのだろう。だったらオレが今こうして縛られてるのは自業自得って事になる。悪かったな。でも後悔なんかしないぞ。

 オレが首突っ込まなかったら誰も水無瀬の悩みに気付かず、ずっと一人で苦しんでたんだろうから。そんなの耐えられない。


 オレがバカやってヘラヘラ笑ってる時に水無瀬が辛い目にあってるなんて変だ、理不尽だ。オレと水無瀬にどんな違いがあるって言うんだ。

 それに、オレの予想だと水無瀬の殺意は母ちゃんだけじゃなくて自分自身にも向けられている。母ちゃん殺すのを諦めたとしても、いつか水無瀬は自分を殺してしまう。だからオレは言う。


 「死ぬな、水無瀬」


 お前に死んで欲しくないんだ、オレは。

 そんな気持ちのままお前が死んでしまうのはイヤなんだ。もっと楽しい事とか面白い事とか全部やり尽して、年取って満足するまで生きてて欲しいんだよ。


 「どうして……」


 驚いたように水無瀬が目を丸くする。その顔を見上げてニヤリとカッコつけて笑う。


 「ミステリオタクを舐めるなよ」

 「……そうか」


 深く息を吐き出して納得したように水無瀬が呟く。

 あれ……納得されたら、それはそれで恥ずかしいんですけど。


 「俺に生きる価値はあると思うか?」

 「知るか、バカ。そんなの自分で決めればいいんだよ」


 同い年相手に甘ったれんな。でも水無瀬は駄々っ子みたいな目でオレを見る。


 「冷たい、藤間」


 唇突き出しても可愛くなんかないっての。嘘です、充分可愛い。あぁ、くそ。顔がいいって得だな、オイ。


 「生きるのに価値なんかいらねーだろ。死んでないなら生きてるって事だ。どう生きるかは自分次第だけどな。だから、そんな事で悩むな。今が苦しいなら這い上がれ、絶望なんかに負けるなよ。殺すとか死ぬとか、そういうのは全部試してみてから考えればいいんだ」

 「試すって?」

 「母ちゃんに話すんだよ、水無瀬がどれだけ苦しんでるのかってのを」

 「言っても無駄だ」

 「言ってみなくちゃ分からないだろ」

 「……言ったら何か変わるのか」

 「当たり前だ。自分の子供がそんだけ悩んでたら親は何とかしてやりたいって思うモンだろ。オレが水無瀬の母ちゃんだったら絶対に何とかしてやりたいって思ってる!」


 そう言った途端、水無瀬の顔が微妙になっちまった。変な事言ったかな、あれー?

 オレが首を傾げたモンだから水無瀬が居心地悪そうに俯いてしまう。でも、下を向いたままボソボソと口の中で何やら呟く。


 「俺の親はそんな事なさそうだけど、」


 イラッとするな、お前。何でオレがお前の事でこんな腹立てなきゃいけないんだよ。


 「やってみる前から決めつけるな、諦めるな。考えるより行動を起こせ。それでダメならオレがお前の母ちゃん殺してやる」


 勢いのままそう捲し立てて「あれ?」って声を上げる。

 殺すなって言った口で殺してやるなんて、本末転倒って奴じゃないのか。シマッた、オレとした事が。こんな矛盾を口にしてしまうなんてミステリオタクの風上にも置けん。


 「待って、今のなし……」


 慌てて言葉を打ち消そうしてアワアワするオレを見て、どこか呆然としていた水無瀬がクスッと笑い出す。


 「藤間はカッコいいな」

 「はい?」


 いやいや、お前程じゃないって……ってか、そうじゃなくて。

 何なの、君。やけにスッキリした顔してんじゃん。


 「そうだな、やる事やってそれでダメだったらまた考えるか」


 どんな心境の変化があったのか分からないけど、勝手に悟ってんじゃねーよ、このヤロー。


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