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序章4

 結果、黙り込むしかできない。そんなオレの背後に回り込んだ水無瀬が手を回して抱きついて来る。何するんだ?

 ベッドから足を降ろした水無瀬の膝の間に座るような格好になってしまい、危機感の欠片もないオレはキョトンと首を傾げるばかりだ。それに構う事なく水無瀬の手はスルスルと動く。オレのベルトを外してボタン、ファスナーを降ろしてしまう。


 「水無瀬?」


 流石に黙ってられなくなって強張った声で問い掛けると、それを合図にしたかのように水無瀬の手が下着の中に潜り込む。


 「は……いっ?」


 ビクンと震えるオレの肩に顎を乗せ、水無瀬が囁く。


 「どんなに厭でも反応するだろ?」


 ヤワヤワと強弱を付けて擦って来る。焦りと羞恥と何だか良く分からない物に襲われ、額に汗が吹き出る。それなのに背中はゾクゾクする。何これ……意味分かんなくて吐きそう。


 「さっき藤間は俺に母親を殺すなって言ったな。どうだ、こんな事されても同じ事を言えるか」


 近い!

 顔が近過ぎるって!


 水無瀬の息が耳に直接当たってくすぐったい。その所為なのかどうかバッチリ反応してんですけど!


 「腰が揺れてる、藤間」


 分かってるよ、このヤロー!

 お前が悪いんだろうが。頭は真っ白で何も考えられないのに身体が快感を求めて勝手に動いてしまう。


 ヤバい、このままだと確実にヤバいって!


 「やだ、水無瀬……ごめん……って!」


 恥とか外聞とか、もう気にしてられない。謝って済むなら幾らでも謝る。だからやめてくれ、頼む。

 オレの気持ちが通じたのか、水無瀬が手を離してくれる。それにホッとしたのも束の間、目尻をペロリと舐められ悲鳴を上げて仰け反る。とは言っても後ろに水無瀬がいるんだから結果的には寄りかかったって事になるんだけど。


 「なんっ、お……あ……」


 言語中枢が崩壊でもしたのか、マトモに喋る事ができずアワアワと水無瀬から逃げようとしてもがく。

 そんなオレを軽く抱きとめ「泣いてたから」と苦笑を浮かべる。

 本当にイイ男だな。でも何ですか、男前だと泣いてる相手の涙を舐めてもいい権利とかあるんですか……じゃなくて!


 ジタバタと足を動かして何とか水無瀬から離れる。オレの必死さが伝わったのか水無瀬がアッサリと手を離してくれるモンだからベッドから転がり落ちて、その痛みにのたうち回る。

 イッテェ……しかも下半身だけ半脱げ上体。何これ、どんな罰ゲーム?

 訳の分からない展開と情けない自分の格好に目元がジワリと滲む。帰りてぇ。


 「質問に答えろ、藤間」


 ベッドに座ったままの水無瀬が涼しい顔してオレを見下ろす。

 質問って何だよ。そんなモン覚えてる訳ねーだろ。


 「自分の意思に関係なくセックスさせられたんだ。合意がなかったらそれはレイプだろう。だったら俺がその相手に殺意を抱いても当然だと思わないか。藤間だって俺に対して同じ感情を抱いた筈だ」


 殺意だと……?

 そんなモン抱くヒマなんかなかったぞ、オレは。でも、水無瀬が母親を殺したいと思う動機は了解した。

 思春期の男が母親とセックスなんて、気が狂っても仕方ない。だけど水無瀬は至って正気だ。だからオレはやっぱり主張を変えたりなんかしない。エゴと言われようが綺麗事と言われようが、それだけは変えるモンか。


 「殺すなよ、水無瀬」


 オレの言葉にまたもや水無瀬が無表情になる。

 怖い……けど、さっきとはちょっと違う。どこか呆然としているように見えるのはきっと水無瀬が混乱しているからだ。そう自分に言い聞かせ、ない頭を振り絞って言葉を続ける。


 「水無瀬が生理的嫌悪を抱いて母親を憎む気持ちは、オレも理解できると思う。行為自体に対する嫌悪と、少しでも感じてしまった自分に対する嫌悪だろう。だから誰にも相談できなかったんだ。ただひたすら母親が悪いって思い込んで、憎む事で自分を正当化していたんだろう。でも、理由を付けても人を殺したら殺人だ、犯罪なんだよ。社会的にも道徳的にも許される事じゃない、どんな理由があっても正当化される行為じゃないんだ。だからオレはハッキリと断言する。水無瀬は間違ってる」


 そこで言葉を一旦切って唇を舐める。


 ここが正念場だ。オレの無事もかかっているが、そんな事より水無瀬を殺人犯にしない為にはどうすればいい。脳をフル稼働して、考え考え口を開く。


 「まだ高校生なんだから一人で抱え込む事なんかないんだ。水無瀬がされたのは虐待だ、恥ずかしがる事なんかない。誰かに相談して助けを求めるべきなんじゃないのか」


 落ち着かせようとして何とか喋ったけど、水無瀬がキッと目を吊り上げる。


 「誰に助けを求めろって言うんだよ!」

 「父親とか、」

 「あんな奴、あてになるものか。いつも仕事ばかりで家にいないんだ。きっと他に女がいるに決まっている」


 あぁ、そうか。

 水無瀬の母親も同じ事を思ったんだな。そうじゃなかったら水無瀬にそんな事を言ったのが母親なんだ。だから淋しくて自分の味方が欲しくて、その気持ちが全部息子である水無瀬に向かったんだ。

 それが苦しくて水無瀬は心のどこかで誰かに打ち明けたいと思っていたんだ。だから通りすがり同然のオレにこんな事をしたのか。


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