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序章2

 ま、そのうち何とかなるだろう。

 オレはバカだけど楽観的でもある。

 こんな事がなかったら水無瀬の家に来る事なんてなかったんだし。そういうプラス思考は得意なのだ。

 水無瀬の家はデカい。2LDKのマンションに母親と暮らすオレからしたらまるでお城のようだ。

 何しろ敷地が広い。しかも三階建て。何人家族なのか知らないけど掃除が大変そうだ。


 水無瀬の部屋はその三階にある。

 十二畳ぐらいはありそうな部屋にあるのはベッド、机、本棚、テレビ。あとは作り付けのクローゼットか。

 机の横にパソコンはあるもののテレビにはゲーム機なんか繋がってないし、本棚にあるのは参考書と小説が少し。漫画なんて一冊も見当たらない。

 頭いい奴はこういう部屋に住んでるのか。スゴいな、オイ。どうやって暇潰しするんだ。あぁ、勉強するのか、成る程な。だから学年トップな訳ね。じゃ、オレは一生頭良くはなれないなぁ。


 うんうん納得するオレをよそに水無瀬はザ・深刻って顔して俯いている。

 本気で誰かを殺そうとしているらしい。どうしたモンかな。

 水無瀬が誰を殺そうとオレには関係ないんだけど、この状況じゃそうも言ってられない。予行練習と口止めを兼ねてオレが殺されないとも限らない訳で。

 幾らバカで楽観的と言っても殺されるのだけは願い下げだ。どんなバカだろうと生きる権利ぐらいある。オレはそう主張したい。それが聞き入れられるかどうか分からなかったので、代わりにそっと水無瀬に声を掛けてみる。だって足は出せるけど手は出せない状況なんだ。だったら口を出すしかないだろう?


 「解いて欲しいなぁとか思ったりして……?」


 刺激しないように気を付けたつもりだったが、自分でも軽過ぎだろって思ってしまう。ほら見ろ。水無瀬がチラッとこっち見たけどすぐに目を逸らしちまったじゃないか。

 無視かよ、このヤロー。こうなったらオレだって負けてられない。


 「手が痛いんだよ。何なんだよ、お前。急に人の手捻るって何様のつもりだ。挙げ句に監禁とか巫山戯んじゃねーよ。しかも人のマフラーで縛る事ないだろ、使えなくなったらどうしてくれるんだ。弁償してくれんのか……よ……」


 言ってる途中で水無瀬がこっちを見るモンだから語尾が弱々しくなってしまう。やっぱ怖い。無表情な男前って怖いよ、みんな!


 「どうして俺が殺そうとしてるって分かったんだ」


 うぉ、超低音。しかも少し掠れててセクシーなんてモンじゃないな、オイ。って言うかお前、こっちの質問はやっぱり無視かよ。

 オレは誰かさんと違って心が広いから答えてやろうじゃないか。

 まぁ、あれだ。答えてる間は無事だろうって打算が働いたと言うのもある。


 「あんな洗剤の名前ばっか書いてあったら誰だって気が付くだろ。カビ取り剤だの漂白剤だの、高校生の買い物メモにしちゃ変だって。まぁ、百歩譲って親に頼まれたとしても、クチャクチャに丸める理由はないだろ。それに筆跡は水無瀬のモンだったしな。結論、あのメモは水無瀬自身が必要で書いた物だった。そして激情に駆られて思わず丸めてしまった、その激情とは殺意。オレはそう推理したね」


 ペラペラと思いつくまま口にする。本当はもっと長引かせたい所だが水無瀬の顔が怖くて無理だ。凍り付いたような無表情で今にも殺されそうなんだって。

 黙って聞いていた水無瀬がふと口を開く。


 「自殺かも知れないだろう」


 ポツンと呟かれた言葉にオレはキョトンとする。

 あ……あぁ、そうね。確かにその可能性もあるわな。

 でも、プッと吹き出してしまう。あり得ねーだろ、それ。

 笑い出したのが意外だったのか水無瀬がムッとした顔で睨んで来る。うん、無表情よりそっちの方がいいな、お前。


 「ないない。水無瀬が自殺なんてあり得ないだろ」

 「どうして」

 「だって水無瀬カッコいいもん。男前だし背高いし頭もいいじゃん。こんだけ広い家に住んでるって事は金持ちだろ。そんな前途洋々で自殺なんかする訳ないって」


 恵まれてる奴ってのはいるんだよ。天から二物も三物も与えられて、銀のスプーンを握りしめて生まれて来るような奴。凡人からしたら羨ましい限りだ。


 「外見が優れていて頭が良くて家が金持ちなら自殺するような悩みがある訳ないとでも?」


 うわぁ。否定しないんだ、コイツ。謙遜は日本人の美徳だと思うよ、オレは。まぁ、本人からしたら全部事実なんだし言われ慣れているのかも知れないけど。


 「人間関係で悩んでるかも知れないだろ」

 「それこそ無理だって。人間関係って友達とかか。だったら水無瀬と仲良くなりたい奴なんて男も女もゴマンといるだろ」


 お世辞や誇張ではない。頭が良くて寡黙な水無瀬はどこか頼りになりそうな雰囲気を持っている。だから女だけではなく男連中も何とか水無瀬に話しかけたくてウズウズしているんだ。それを突っぱねているのは水無瀬自身だ。

 だいたいからして自殺しようとしている奴が同じクラスってだけのオレを拉致監禁なんかする理由はないだろ。

 あれ……じゃ、この問答には何の意味があるんだ?


 「あのさ、何が言いたいんだ?」


 だってそうだろう。オレからしたら話が長引けばそれだけ無事でいられるって事だけど、水無瀬にとってメリットがあるとは思えない。

 不思議に思ってマジマジと見つめる。すると水無瀬が躊躇うように答える。


 「……藤間に分かるってことはそんなに俺の殺意が駄々漏れなのかと思って」


 そんな水無瀬にパチパチと瞬きしてしまう。言ってる内容はアレだけど、ちょっと目を伏せたりなんかして悪戯を見つかった子供みたいだ。可愛いな、オイ。


 「あ、そんな事ないって。だから安心しろ」


 可愛いなんて思った所為か、つい励ますような言葉を掛けてしまう。それでも水無瀬はいじけた目で「本当に?」と問い掛けて来る。


 「本当だって。オレだって本気でそう思った訳じゃないし、まぁ……その、何て言うか軽い冗談だったのが偶々当たってただけだから」


 そう、あの時。水無瀬が「何言ってんだよ」って少し笑ってたらオレだって「そうだよな」って笑って、今頃は家でメシ食ってた筈なのだ。

 それなのに監禁。あれ、何か理不尽じゃね?


 「冗談か。だったら軽口ついでに俺が誰を殺そうとしてるのか当ててみろよ」


 新しい問題を突きつけられて、それにオレの思考はつい飛びついてしまう。現実逃避なんだろうなぁ。でも、そうでもしなきゃやってられないっての。


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