妄想の帝国 その28 擬態民主主義国家ニホン
アメリカほか連合国に負けたニホン政府の面々は死刑をまつばかり。その状況を打開しようとヨジダらは奇策を思いつく。戦後ニホンが民主主義国家のふりをしてごまかせば自分らの処刑は免れられると考えたのだ…
西側暦1945年、ニホンは世界大戦で、アメリカほか連合国にボロボロに負けた。当然のことながら、戦争犯罪人として時のニホンの軍事政府の面々が裁かれる…はずだった。
「ええい、テンノーは傀儡論まで出して、テンノー様の責任は回避されそうだが、我々はザトウさん」
「いや、もうヨジダさん、“アメリカとの軍事力の格差からすべて見通し甘いおバカでどうしようもない。面倒くさいのでいっそ裁判なしでススガモプリズンから死刑場へ直行でいいじゃないか”という乱暴な意見もあるというぞ。ちょ、ちょっと、アメリカにちょっかいだいしただけじゃないかあ」
「ちょっと、餓死させすぎ、調子に乗って臣民をしなせただけじゃんかああ。や、やめてくれー。ど、どうしたら、この事態を回避できるのだー」
敵国のみならず自国の国民を大量に死に追いやった責任など微塵も感じられない暴言。無茶ぶりが過ぎて精神状態が疑われた大ニホン帝国の軍人政府の閣僚ならではの発言である。
「うーん、うーん、アメリカに気に入られればなんとか…ハッ、そうだ!これだ!」
「な、なんだ」
「我々がメイジの大改革で植民地化を免れるために、西欧化を一生懸命邁進したようにだな、民主主義国家になるんだー」
「な、なんだ。それは、意味わからんのだけど」
「つまりだな。アメリカは民主主義の国、自由の国だ。それを参考にしました、貴男方と同じ自由、平等、博愛を主とする民主主義国家としてやり直します!と宣言していけばよいのだ!」
「そ、そんなことでうまくいくのか?だいたい民主主義って、主権国民だぞ!我々の権威は、どうなる、あいつ等のほうが偉いなんて嫌だー。第一地主どもがー」
「何、フリだけフリ。民主主義教育とか制度とみせかけて、我々に有利にすればいい。議員の子は議員になりやすくすればいいのだ。文句をいいそうな地主どもはどっかの国のように土地と小作を奪い取ればいいのだ、封建国家の解体とか言って。そうすれば奴等から供出した財産を返さなくてもごまかせる」
なんとなくいいアイデアのような気がしてきた旧ニッポン政府の面々。
「ま、まあワシ等だけで決めるとまた何のかんの言われるから、他の奴等にもきいてみるか」
「おい、本気にして憲法作ってきたぞ、学者どもが」
「まーいいんでないの。どうせアメリカから修正は入るし」
「しかし男女平等だの、主権国民だの、言論の自由だの、明記だぞ。そのワシらの特権は
~」
「あとで頃合いをみて、“アメリカに言われたから憲法作ったんだ、だから改憲する”とでもいえばいいさ。あの竹やり訓練でごまかされた奴等とその子孫だ、今度も大丈夫」
「よっし、これで我々もなんとか許されそうだ。民主主義国家だもんな」
「すぐ隣で共産主義国家もできて、民主と共産のせめぎあいで、そっちにアメリカが注目してるしな。まあ、あの国家もこっちのギジさんのキモイり…、って誰も聞いてないだろうな」
と、周囲を見渡すザトウ。
「大丈夫、大丈夫。わかりゃせんよ。とりあえず新しい国会もできたし、強い女どもがでてきてやりにくいが」
「いやあ、そのうち、少なくなるように制度で調整するさ。財閥の奴等も隣の内戦で儲けられて回復してきたといっとるし」
「そうだな。当分は他の民主主義国家みたいにふるまえばいいんだ」
「そう、そうアメリカの真似して言うことを聞いていれば…」
「そのうち、また我々の帝国政府を復活できることもー」
とにやにや笑う元戦犯ザトウとヨジダ
「ヨ、ヨジダさん、国際大運動大会ってホントにやるのか!戦時中に中止したアレ、できんのか」
「何が何でもやらんと、ニホンは復興したと思われんのだ!市民の生活がなんだ!ヤバいもんは全部撤去だ」
と興奮気味のヨジダ。
「都合の悪いもんは全部隠すかどっかにやるか。まあ、それがワシらのやり方かもしれん。都合の悪い書類は焼いたしなあ」
「とにかく経済復興だ、金があればなんとかなる!」
「それって民主主義っていうより資本主義とかいうのでは~」
「どっちでもいい、アメリカに追いつけ追い越せじゃー」
「なんか民主主義教育やらって難しいな。ちゃんとわかってないらしいんだが、うちの孫、どうすればいいんだ」
「ヨジダさん、心配するな。とりあえず、座ってりゃ小中学校は卒業できる制度だ。あとは家庭教師とつければ。だいたいギジさんとこの孫、もうバカで甘ったれでどうしようもないんだ。ああいうのでも分かったことにできるようにだな」
「理解力テストとかなくしてるしな。だた教師が黒板に書いたことを反芻するだけでよくしたところもあるしな」
「戦後すぐはろくな教師がいなかったし。教科書黒塗りだけで、なんとかやったんだぞ。教師自身が民主主義とか理解してなかったんだから、生徒がわかるわけないだろう」
それで民主主義教育などとよく言えたものだ、と国連の人権委員会あたりから突っ込みがはいりそうだが、元戦犯の二人はまったく気にしない。
「まあ、いいだろ、フリだ、フリ」
「そうだな、民主主義国家に擬態してるだけだ、ニホンはいつかは大ニホン帝国にもどすんだー」
「し、しかし共産ニッポンとか新社会党などが本気で民主主義目指してるんだが」
「くそう、共産とか名乗るならソ連とかにもっと心酔して独裁やればいいんじゃいかあ。なんで庶民にそんなに寄り添うんだああ」
「ま、あいつらやたら頭いい奴が多いから、あんな教育でも理解しちゃうんだろうなあ、本もよく読むし。でも、ホントに国民が賢くなって真の民主主義とか言い出されたら困るぞ」
「いや、大丈夫。こんな義務教育ならよっぽど頭のいい奴か、私立にいくか、塾行くかしかちゃんと理解できん。それに給食費とか制服とか実は無料でもないし、どうせ貧乏人はろくなことできんよ」
「そ、そうだな。貧乏な奴は貧乏なままになる、よな」
と、国民の幸福を真逆なことを口にする元戦犯今政府の閣僚たちだった。
「うう、やっぱうちの孫はアホなままか。自分でアホなのが、わかっているのかいないのか、威勢だけはいいんだが、あれじゃヤクザ」
「ギジさんとこの孫なんて一人は怖気づくし、一人はまともに字も読めんのだ。なんとか政治家にはできそうだが」
「し、しかもなんだか雲行きが怪しいぞ。経済大国とやらになったのはいいが、金を無駄につぎ込むばかりで、その、次につなげるものが」
「教育投資とか先行研究投資とかか、わ、わしらもよくわからんし。これ金を使いつぶしたらどうなるんだ~」
と柄にもなく戦後ニホンの行く末を心配する二人、しかし
「ま、孫もその取り巻きも、そういう想像力っちゅうのがないが、まあ何とかなるだろう。そう思うしかないし」
「わしらの孫だけじゃないぞ、ニホンの若い奴、いや息子たちの代だってそうだ」
「物事を深く考え、慎重に行動するのが民主主義国家の市民ってやつらしいが。でもな、あまり考えられると、わしらの戦前、戦中の件とか蒸し返されるし」
「わしらの党に票を入れてくれんだろう。だから、なんも考えずにミンシュシュギーといっていればいいとしてきたが。この先ちと不安だな」
「し、しかし、どうすればいいんだ!今更わしら、もう長いことゴホゴホ」
「ザドウさん、き、希望をもつんだ。わしらはもう逝くが、あの子らが大ニホン帝国をー再び~ガクッ」
息絶えるヨジダ。ザドウはしわだらけの顔を一層ゆがめた。顔の深いしわに涙がつたわっていった。
「大ニホン帝国憲法みたいなのつくるぞー」
と威勢のいい総理、祖父ギジの悲願達成に意気揚々、しかし…言語明瞭意味不明、世界最高のアホと揶揄されるだけあって、憲法草案も矛盾だらけで目も当てられなかった。
そんななかでも総理の独演会を教師や親の言う通り、椅子に座っておとなしく聞いている若者二人。だが、あまりに支離滅裂な話にさすがに疑問がわいてきた。
「なあ、なんで義務教育とかうけて、総理はあんななんだ」
「まあ、10年間、教室に通って座ってりゃニホンの義務教育は終了ってことで。理解してるかどうかはあんまり言われないし。それにさ、ニホンって」
「民主主義ってよくわかってるかって俺らも疑問だし。だいたいなんか大事なことを教わってもいないよな。法律とか」
「法律あっても、なんつう運用とかごまかすじゃん」
「見かけだけは民主的っていうけどさ、年功序列とか社訓絶対とか、封建主義みたいで」
「そうなんだよな、先進国とかっていうんじゃないみたいだ。男女平等とか、子供の権利とかさ、一応守る法律あるけど、実際破りまくりだろ。ナンタラスクールとか虐待、傷害じゃん、体罰って実際暴力だし」
「だからさ、わかってないんだろ、人権とか、主権国民とか」
「選挙とかも人気投票みたいになってたりするしな。投票の意味わかってんのかな」
「学校で習ったはず、だよな。義務教育とかで」
「その、はずだけど、いや俺もわかってないかも。他の国のやつらはわかってんだよな。北欧の子供のが俺らよりすごいってネットとかみて時々思うけど」
「本当に民主主義国家なのかな、ニホンて。公文書棄てたり、法をごまかしたり…」
「なんか違うよな。経済とかもさ、終身雇用とか、やたら中小企業の世襲多いわりに、若い起業家が少ないとか、なんか他の先進国とちがうっていうし」
「だいたい、ニホンのGDPも名目賃金もずっとさがってるんだろう?年収200万ぐらいが多いって、俺たちも大差ないけど」
「隣国とか時給2000円近いんだろ。それに東南アジアの技能ナンタラってニホンに来てたやつら、もう来ないって。賃金安いうえに、いろいろ制約とか下手するとパワハラとか酷いらしいし」
「俺らニホン人だって、ブラック企業とかあるらしいじゃんか。俺はその、バカとか怒鳴られるぐらいだし、まあ風邪で休めないけど」
「それは立派なパワハラってネットでいってた。他の国じゃあり得ないって。第一インフルエンザとか感染症で休ませないなんてない。本人のためだけじゃなく、感染症を広げる可能性があるから社会的にも犯罪行為だってさ」
「でも、休んだ分の金とか」
「隣国はこの間のとき、休んだ奴全員に補償が出たらしい、外国人もさ」
「ああ、あのときは酷かったな。俺らも休めなくて、親戚の爺さんたちも、あの感染症にかかってたらしくて、葬式がいっぱいあった」
「あの感染症は特に高齢者とかアジア系男性がかかると死にやすいっていわれてたからなあ。も少しニホンはまじめにいろいろ対策しろとか言われてたけど。でも、そういう声って隠蔽されたんだろ。検査もしてないから、病気が蔓延かわからないってことにされてさ」
ほうっとため息をつく若者。もう一人がつぶやくように
「人権は守られない、不都合な情報は隠される、か。これって民主主義なのかな、ニホンってほんとは帝国とか、なのか?このままでいいのかな」
「ニホンは本当は総理と与党の帝国の独裁ってやつだって言われてたな、ネットで。なんか総理のいうこと聞くだけってのは独裁ってことなのかな。なんか、それも違う気がする」
「そうだよなあ。それだともっとエリートがテキパキ指示したりするんだろうし、だいたい皇帝とか独裁者ってさ…もっと頭いいじゃん」
悩む若者。民主主義国家に擬態したものの、いまさら帝国にもどることもできないニホン国民であった。
どこぞの国でも民主主義国家とはいうものの、人権軽視やら姑息な隠蔽、地位を利用した恫喝などを行うマイティフールなトップの面々がいるらしいですが。そういうフリだけ立派な国家はどのようにごまかそうが、統計をいじろうが、実態が悲惨なことはやがて知られてしまうんですよねえ。