漫才「デリバリーサービス」
二人「どーもー」
ボケ(以下、ボ)「突然なんですけど、お腹空いてません?」
ツッコミ(以下、ツ)「ホントに突然だな。空いてないよ。始まる前に食事したじゃんか」
ボ「違うんですよ。僕、この前、初めて出前を頼んだんですけど」
ツ「出前なんていつでも頼めるだろ?」
ボ「スマホのアプリで頼めるデリバリーサービスあるじゃないですか」
ツ「あー。アレでしょ? いろんなお店の料理を運んでくれるやつでしょ? 最近、街中でも、あのバッグを背負って自転車で移動してる人、良く見るもんね」
ボ「知ってます? 最近はコンビニの商品とかも配達してくれるんですよ」
ツ「レストランの料理だけじゃないんだ?」
ボ「僕の住んでいるマンションの一階にもコンビニがあるんですけど」
ツ「うん」
ボ「昨日、お風呂上がりに喉が乾いたんで、そこからコーラを届けてもらいましたよ」
ツ「直接いけよ。マンションの何階に住んでんだよ、お前」
ボ「二階ですけど」
ツ「真下じゃねえか。頼むな、そんなことで」
ボ「とにかく重宝してるって話なんです」
ツ「わかるけどねえ。ああいうスマホとかアプリで頼むヤツって、苦手なんだよね」
ボ「でも、これからそういうのが当たり前の時代になっていきますよ?」
ツ「機械的じゃない、そういうの。オレとしては、人と人との心の繋がりを大事にしたいっていうか」
ボ「人の心なんかとっくの昔に捨てたクセに」
ツ「捨ててねえわ。オレのイメージどうなってんだよ」
ボ「それじゃあ、こうしましょう。今から僕がデリバリーサービスの店員やりますから」
ツ「店員?」
ボ「それで、あなたのお宅へサービスの売り込みに行きますんで、いいなと思ったら頼んでみてください」
ツ「そういうことね。わかった、やってみよう」
ボ「ピンポーン」
ツ「はーい」
ボ「突然、スミマセン。私、ウルトライーツという会社の者なんですが」
ツ「ウルトライーツ?」
ボ「はい。料理の配達サービスをする会社でして、このあたりの皆様にご案内をしているんですけど」
ツ「悪いんだけど、ウチ自炊ばっかりでさ。出前、頼まないんだよね」
ボ「そう言わずに。私どもの会社、料理だけじゃ無くて日用品の配達もやってるんですよ」
ツ「日用品かあ。確かに、そういう物を配達してくれるのは便利かなあ」
ボ「普段何気なく目にしてるけど、いざという時に見当たらないなあ、なんて物あるじゃないですか。そういうのを頼んでいただければ。輪ゴムとか」
ツ「そういうのあるよね。欲しいっていう時に見あたらないんだよね」
ボ「そういった物って、探すより買ってきた方が早いでしょう? 輪ゴムとか」
ツ「確かに。で、買ってきたら買ってきたで、探したはずの所から見つかったりするんだよな」
ボ「まあ、あっても困る物じゃないですから。輪ゴムとか」
ツ「輪ゴム推しすげえな。何なんだよ、さっきから」
ボ「まあ、例えばの話ですから。とにかくこのチラシを見てもらいたいんですけど、ウチの会社、かなり離れた場所にある店からもお届けできるのがウリでして」
ツ「このレストラン、ここから10キロも離れてるじゃん。ここの料理も届けてくれるの?」
ボ「大丈夫です」
ツ「でも、配達時間けっこうかかるんだろ?」
ボ「うーん。赤信号とか、車とか、交通ルール一切無視してかっ飛ばしてきますから、大体15分ぐらいですね」
ツ「無茶苦茶かよ」
ボ「お届けする頃には全身血だらけですけど」
ツ「事故ってるじゃねえか。嫌だよ、頼みたくねえわ」
ボ「そんなこと言わずに。あ、これなんてどうです?」
ツ「何この、遠方地からもお届けって」
ボ「北海道からとか、沖縄からとか、遠くの場所からお届けに伺うサービスでして」
ツ「ここ、東京だけど?」
ボ「ご依頼いただければ、お届けできますので」
ツ「アレだろ? 頼めることは頼めるけど、料理の値段が高いんだろ?」
ボ「料理の値段はそのままですよ。配送料に20万いただきますけど」
ツ「同じようなもんじゃねえか」
ボ「でも、初回限定で配送料無料キャンペーンやってますので」
ツ「計算ガバガバかよ。潰れるぞ、お前の会社」
ボ「初回限定ですから」
ツ「それはいいけど。じゃあ、北海道の物を頼んだとして、届けてもらうのにどのぐらい時間かかるんだ?」
ボ「一週間ぐらいですね」
ツ「は? せめて翌日とかさ、そのぐらいじゃないの?」
ボ「お言葉ですけど、北海道を満喫するのに一日で足りるわけないじゃないですか!」
ツ「旅行する気満々じゃねえか。すぐに持ってこいよ」
ボ「あ、ちょっと待ってください! ちょうど今、配達依頼が……」
ツ「配達依頼もスマホで受けるんだ。時代だねえ」
ボ「お客さん、スミマセン、私ちょっと今から香川にいってきますので」
ツ「香川!? 本当に遠くの店の物頼む人いるんだ!」
ボ「勿論ですよ」
ツ「香川っていうことは、やっぱりうどんを頼まれたのか?」
ボ「いえ、香川のコンビニで、輪ゴムを買ってくるんです」
ツ「近所でいいだろ! もういいよ」