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第一印象は見た目で決まる

 ここ、どこなんだろう。うろうろと動き回ってみてもどっちに行ったらいいか全くわからなくて、体力を消費するだけだ。とりあえず進んでみようというのは愚策である。

 けれど兄様が来るのを待つのは無謀かもしれない。ここがどこかわからない以上、助けを待っているだけでは日が暮れてしまう。何かボクはここにいると伝える方法は……。


「ねえ」


 ハッ、高いところに登れば兄様を見つけられるのでは? ううん、流石に見つけられるまでとは言えないけど可能性は進んだり待ったりするよりもある。ならばそれに賭けるしかない。


「ちょっと」


 ちょうどあんなところに他のよりも高い木がある。木登りはやったことがないけど、物は試しだ。木に足をかけて、


「うわっ」


 やっぱりダメか。普通に落ちて尻餅をついてしまった。でも何回もやれば慣れてくるかもしれないし、気を取り直してもう一回……


「何やってるの、君」


 立った瞬間、背後から声をかけられると同時に肩に手を置かれた。思わずびくっとして、後ろを振り向くと、そこには一人の少年が立っていた。身長的にボクと同い年くらいだろうか。迷子になったので木に登って兄様を探そうとしてたなんてこと言えないので、とりあえずそれらしいことを言っておこう。


「え、えーっと、ちょっと木登りにチャレンジしてみようかと」


「嘘だね。君、ここら辺では見たことないけど、違うところから来て迷子にでもなったの?」


 図星である。いや、ボクがはしゃいでたからはぐれた訳じゃないし。不可抗力だからね! そもそも唐突に木登りチャレンジする子供って全然それらしくない。


「いや、まあ、あはは……」


「ふーん、当たりなんだ。誰とはぐれたの?」


 この子ぐいぐい来るな。簡単に個人情報を話していいものか、とも思うが、この子はまだ子供だし、今は他に頼れる相手もいない。話してみてヤバそうだったら最悪、自分の蹴りと足の速さを信じて逃げ出すしかないが、一か八かだ。


「兄と一緒に来たんだ」


「お兄さんか、背は高い?」


「ボクよりちょっとだけ高いくらいかな。そこまで身長差はないよ」


「なるほどね」


 兄様の身長を聞いてなぜかメモをしている。そんなことされるとすごく怪しく感じる。それとも探偵ごっこみたいなものなのだろうか。それだったら微笑ましいなぁ。この頃はやるよね、ボクも謎解きにはまった時期があったよ。一度も解けた試しはないけど。

 少年はメモをとりながら、あっ、と思いついたかのように顔をあげた。


「まだ名前聞いてなかった。名前は?」


「ボクはルミアだよ」


「ルミア? ……その名前気に入ってるの?」


 うん? なんだその質問。ルミアって、名前としてはそんなに珍しい名前じゃなくないか。それともこれは皆に聞いていることなのか? よくわからないけどとりあえず、思った通りに答えておこう。


「うん、気に入ってるよ。親がつけてくれた名前だからね」


「ふうん、ならいいけど」


 少年は興味なさげにそう言った。なんで聞いたんだろう。聞くくらいならちょっとくらい関心を持ってくれていいだろうに。ただ単になんとなく聞いただけなのかな。


「じゃあついてきてくれる? 君のお兄さん探すから」


「えっ、いや、待って」


 正直言うとめちゃくちゃ怪しい。だけどボクの勘がこの子についていくと何とかなると叫んでいる。割りと当たるんだよな、ボクの勘。その分信じて外れたときが怖いけど。うーん、どうしよう。


「……あ、君の名前は? まだ君の名前を教えてもらってないんだけど」


 これで名前を教えてくれたら怖いがついていこう。そんなの後でいいとか誤魔化されたらついていかずに逃げよう。大丈夫だ、ボクは比較したことないから推定だけど、同年代では速い方のはず。

 そんなことを考えていたのも束の間、少年は存外簡単に問いに答えた。


「僕はラフィネ、ラフィネ・ユベール。向こうに見える服飾屋兼迷子預かり所の子供だよ」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ラフィネと名乗った少年は、歩いて五分もかからないお店の中にボクを上げて、迷子預かり所と書かれた部屋でボクと向かい合わせに座った。中は広くはないけれど清潔感があって、居心地がいい。と言っても知らない場所だからやっぱり多少は違和感があるけど。


「じゃあ母さんが帰ってくるまでに、お兄さんの特徴を教えてくれる?」

 

 ラフィネはメモを片手にそう聞いてきた。兄様の特徴、特徴か……。


「なんか……すごいきらきらしてる」


「は?」


 ラフィネは訳がわからないとでも言うような顔をしていた。大丈夫、ボクも自分で何を言ってるかわからない。だけど実際に兄様を表現してくださいって言われると、そんな感じの説明になる。


「うーん、一目見て一番、あの人きれいすぎてヤバイなって思う感じの人」


 ぼ、ボクの表現力が足りない。兄様の特徴なんて全部としか言いようがない。兄様は全身から兄様オーラが流れ出ている気がする。よって何か言おうとする程何も言えない状況に陥る。


「いや、そういうふわっとしたこと聞いてないんだけど」


 だよね! ボクもわかってるんだけども、兄様を形容する言葉が全く見つからない。できたとしてもさっきも言った通り、きらきらしててヤバいくらいのことしか言えない。何言ったらいいかわからなくなってきた。


「ボクも君を困らせたい訳じゃないんだけどね! できれば何か質問してくれると助かる」


「えぇ……、じゃあ君と似てるところとかある?」


「髪の色も肌の色も顔の造形も違うね」


 髪と顔は元々両親が違うから仕方ないことだけど、肌の色が違うのは完全にボクの責任である。兄様と比べると、えっ、黒すぎ……ってくらい焼けた。父様には本当に申し訳ないと思ってる。でも外で遊ぶのはやめられない。


「似てないのか。えーと、じゃあ服装は?」


「あー、今日はいつもより地味だったかな」


「君のお兄さんのいつもの服装知らないんだけど」


 全くである。ボクは今日初めて会った子になんて説明の仕方してるんだ。伝わるはずがない。けどなぁ、正直一目見たらわかると思うんだよなぁ。


「他の人よりも……こう、高貴で近寄りがたい感じの……」


「兄弟にそんなこと言わせるって君のお兄さん何者なの。……でもなるほど、確かにそんな人この辺にはそうそういない」


 ボクのこのあやふやな説明で少しは伝わったらしく、ラフィネはメモに、おそらく兄様の特徴を書き込むと、ぱたん、とメモ帳を閉じた。そしてボクに目を向けた。


「今日は何しにここまで来たの?」


 どうやらボクから兄様の特徴を詳しく聞くことは諦めたようだ。まあそうだよね、ほとんど何も答えられてないんだし。

 さっきまだお母さんが帰ってきてないと言っていたし、帰ってくるまで世間話で場をつなごうとしてくれているんだろうか。さっきまでボクの答えになってない答えを根気よく聞いてくれていたし、口調はぶっきらぼうだが、優しさを感じる。迷子のボクに声かけてここまでつれてきてくれたのも相まって、相当いい子だなと感心した。将来有望だなぁ。


「今日はボクの服を買いにきたんだよ」


「服か、もう買ったの?」


「う、うーん」


 買いはしたけど納得はしてないというか、うん、どう伝えればいいんだろう。ボクがあんなにかわいい服を着た話はできればしたくないし、思い出したくもない。黒歴史のようなものだ。


「まだならうちで見ていきなよ。なんなら僕も似合うの探してあげる。それに君さっき木登り失敗して服汚してたし」


 微妙なボクの反応をまだ買っていないものだと考えたのか、心なしか楽しそうな表情でラフィネはそう言った。ここの服ってどういう感じのものかはわからないが、ラフィネは兄様のようにかわいい服を着せる趣味はないだろうし、折角こう提案してくれてるんだから断る理由もない。それにズボンの汚れは椅子に座っている間ずっと気になっていた。とりあえずラフィネに選んでもらって、気に入ったものがあったら兄様に買ってもらうことにしよう。


「じゃあ、少し見ようかな」


 そうボクが答えると一瞬ラフィネはぱあっと笑って、すぐにもとの表情に戻った。どうやら笑いを噛み締めているようだ。何だか素直じゃない子供っぽさがかわいい。見てて癒される気がする。

 そんなことをボクが思っているとも知らず、ラフィネはぴょん、と椅子から降りて、ボクを手招きした。


「よし、ならこっちこっち。父さーん! 服見てていいー?」


 ラフィネが大きな声でそう言うと、向こうからいいぞー、と答える男の人の声がした。お父さんが服屋さんをしていて、お母さんの方が迷子預かり所の方をしているのだろうか。


 そう考えていると、ラフィネはボクの手を掴んでお店の中を早歩きで進んでいくと、かわいいとは程遠い服が並んでいるところで止まってこっちを振り返った。


「僕、一目見たときからこれが似合うと思ってたんだ」


 その手に持っていたタンクトップは機能性が高そうでボク好みだった……が。


「……うん、そうだね」


 完全に男子服だった。

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