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ルール説明

「鬼ごっこ?」


 ラフィネの真剣な表情と言われた言葉が噛み合わなくて、思わずその言葉を繰り返してしまった。とっさに出てしまった間抜けな声に、ラフィネは淡々と返してきた。


「そう。とは言っても、ただの鬼ごっこじゃないよ。

 僕らとそれ以外の人達とで、二つに別れてのチーム戦なんだ。それに制限時間までに捕まった人数で勝敗が決まるわけじゃなくて、どっちかの大将が捕まったら、その時点で捕まったチームの負けになる」


 チーム戦って言うのは鬼側と逃げる側で別れるということか? でもどちらかの大将が捕まる、ということは、チーム内で鬼と逃げる人を決めるのだろうか。

 だとすると、それ以外の人達とラフィネが言ったけれど、その数はどれくらいのものなのだろうか。それ以外の、というのはあまりにも範囲が広すぎる。何人なのかが特定できない。


「それ以外の人達って、人数は?」


 そう聞くと、ラフィネは少し困ったように眉をひそめたが、すぐに答えようとしてくれた。


「僕にも細かい数値まではわからないけど……まあほぼ全校生徒と考えてくれて構わないかな。まあ多少数は前後するかもだけど、どうあがいても数的に言えばこっちが圧倒的に不利だよね……」


 えっ……えっ!? 全校生徒!? 聞き間違いじゃなくて本当に全校生徒なの!?


 そんなの数的に不利とかいう問題じゃなくないか。触られたら終わりなのに、そんなに人数差があったらすぐに終わってしまう。大将が触られたら他が無事でも負けなら、勝つためには精一杯犠牲になるしか……。

 いや、何で鬼ごっこをすることになっているのかが、そもそもわからないのだけども。こんなに真剣に話すということは勝ちたいんだろうし、ボクも真剣に考えよう。


「うーん、でもやっぱり兄様がいるとはいえ、さすがに負けちゃうんじゃないかな。さすがの兄様でも触られたら終わりなわけだし」


「ん? ああ、違うよ。触られても終わりじゃない」


「そうなの?」


 ここも普通の鬼ごっことは違うのか。それならルールによっては勝機があるかもしれない。期待を込めてラフィネの言葉を聞くと、驚きの答えが返ってきた。


「うん。相手をその名の通り拘束すれば、捕まえたってことになるんだよ。拘束じゃなくて気絶させてもいいんだけど、とにかく相手が身動き取れないようにしたら、捕まえたってことになるんだ」


 思ってたより物騒だった。拘束とか気絶って、そんなことするために相手に手荒な真似をする鬼ごっこは、もはや鬼ごっことは呼べないんじゃないだろうか。少なくともボクが知っている鬼ごっこではない。鬼ごっこはもうちょっと平和な遊びのはずである。


「あと、捕まえられる側とか捕まえる側って言う概念はない」


「どういうこと?」


「全員鬼であり、子であるってこと。チームが違うなら誰でも相手を捕まえれるんだ。

 例えば、ルミアが敵チームの誰かと対峙したとするでしょ。その時に、ルミアが捕まえることもできるし、逆にルミアが捕まることもあるってこと。まあ要するに力比べみたいなものだね。大将も例外なく捕まえることもできるから、安心していいよ」


 なるほど、力比べか。それなら勝てないこともないか? 正直数が多すぎて、こっちの大将が捕まる前に、全員を捕まえることはできないだろうけれど、相手の大将をすぐに探し当てれば捕まえることは難しくない。なんせ兄様がいるのだ。兄様なら誰が相手でも、気絶させるなんて造作もない。

 とすると、こっちの大将が大事になってくる。ボクの考えだと、兄様は前線に出るから大将になるのは危険だろうし、兄様ではないと思うのだけれど。まあ兄様なら大将として前線に出ても捕まりはしないだろうが、油断はしてはいけない。大将が逃げるのに徹するなら……ルドヴィンか?


「ねえ、こっちの大将ってもう決まってるの?」


「ああ、決まってるよ。ゲーム開始前に大将が誰かはお互い伝えておかなきゃいけないから、事前に選んでおいたんだよ。大将が捕まったとき、不正がないようにね。

 というわけで、僕達のチームの大将はルミアだから、めちゃくちゃ狙われるだろうけどよろしく」


「そっか、わかっ……はあ!?」


 待て待て待て。それなら何が、というわけで、だ! 何でいつの間に勝手に大将にされてるんだ!? 事前に選んでおいたって、誰が選んだんだ! というか一体いつから鬼ごっこが開催されるの決定してたんだ……そういえば前にルドヴィンが話してたような……ということは修学旅行前からか!?


 それならあんな言い方せず直接言ってよルドヴィン! 普通に校内鬼ごっこあるよって言ってくれれば、 もうちょっと走る練習したのに! いつも通りくらいしか走ってない!

 あ、でも走る必要はないのか? 最悪出会った全員を気絶させていけば……ダメか。兄様ならできるだろうがボクには無理だ。ボクも兄様になりたい。


「って、待って! 君もフランも参加するの!?」


「そりゃあそうでしょ。参加しなかったら人数少なすぎるし」


 確かにそうだけど、二人が大勢の敵と出会ってしまったらどうするんだ? エドガーさんはなぜかなんとかなるような気がするけど、二人はダメだ。力に関しては一般人だろう。

 ボクの遊びに付き合わせてしまっていたせいで、足は速くなっているだろうが、さすがに護身術は習っていない……くっ、かくなる上は、ボクが二人を守りながら行くしかない! 大将であるボクがやられなければ勝てるとはいえ、二人が無理に押さえ込まれる姿は見たくない!


 そう考えていると、唐突におでこに鋭い痛みが走った。顔をあげると、どうやらラフィネがボクにデコピンされたことがわかった。地味に痛い。


「……え、何でデコピンしたの?」


「くだらない考え事してるんだろうな、と思って」


 ボクにとっては何もくだらなくなんかないんだが。確かに大将が自ら守るなんて、ゲーム的に考えるとよくないだろう。けれど、この鬼ごっこは少々乱暴なことをしてもいいみたいだし、二人の傷つく姿は見たくない。ならば守らなければならないと思うのだけれど。


 だが、ボクが心配している当の本人であるラフィネは、全く緊張している様子はなく、いつものように呆れた顔をボクに向けていた。


「言っとくけど、僕やフランソワーズが何も用意してきてないと思ったら大間違いだよ。守られるなんてまっぴらごめんだ。僕たちは僕たちで、自分の身くらい守れるから」


「うう……そう、だよね」


 事前に聞いていたのなら、何かしらの用意はしていて当然だ。だけど、やっぱり二人はどこか守らなければいけないと思ってしまう意識があって、心配してしまう。


「相手の大将が捕まるまで、僕たちは絶対に捕まらないって、約束するよ。だから、ルミアは自分のこと考えてよ。あっちよりも先にルミアが捕まったら承知しないから」


 ラフィネも、ボクの不安にに気づいているのだろう。そう言いながら、ボクを安心させるために、余裕そうな笑みを作ったのがわかった。ああ、よく見ると、やっぱり少しだけ、強張っているのがわかった。


 だけど、ボクも彼が無理に笑顔を作っているのが、わかってはいたけれど、その笑みを見ると安心した。余裕ぶった笑みは不安を払拭することを、ボクは今初めて知った。それにその無理矢理作られた笑みは、どこか昔のルドヴィンを思い出させた。


 それなら、もしかしたら昔のあいつも、エドガーさんか、それとも自分を勇気付けるためによくこんな感じで笑っていたのだろうか。……いや、あいつは今でも嫌な感じに笑うよね。関係ないか。うん、頭を切り替えよう。


「……よし、ラフィネ! 知らないうちに捕まってたら承知しないからね!」


「そっちこそ。皆残ってたのにルミアのせいで負けました、なんてことにならないようにね」


 さて、チームを勝利に導くべく、捕まらないよう頑張ろうか!

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