作戦決行
わっひょー! 早速ラフィーとルミちゃんが退場しちゃったっすねー。まあ想定内っすよね、これも!
とか騒げないから心の中で騒ぐしかないんすよね。いよいよおれたちの作戦が決行される日なんすから、騒がないでどうするんすか!って感じの気分っすもん!
でも表に出すと奇異の目で見られるんで、こうして落ち着いているように見せながらおおはしゃぎするんすよ。今でも人を花に当てはめないと話せない質っすからね~。
そんなことより、本当はもうちょっとパーティーの体裁保つはずだったっすけど、仕方ない。ちゃんとルドヴィン様には連絡をいれておくっす。無線機って便利っすよね。あってよかったっす。
「あ、待ってください。通信する前に髪を下ろした方がいいんじゃないですか?」
ふ、フランさん……おれの背のせいで耳まで届かないから、服掴んで屈ませようとするのめっちゃかわいいっす……。ひょわわわわわわわわ、じゃなかった。
「さすがっすね、フランさん! 天才っす! まさに女神!」
「もう、言い過ぎですよ」
ええー、むしろ言い足りないくらいっす! でもあんまりしつこく言って、フランさんに嫌われたらいやっすからね。ここはぐっ、とこらえるっすよ!
毎朝きれいにセットしてる髪型をわしゃわしゃわしゃーっとすると、なんと! 昔のおれのヘアスタイルに大変身! 前髪はたまに切るくらいで、実際昔と同じくらい長いっすから当たり前なんすけどね。それに昔のおれって言うほど、おれは昔と変わってないっす。悲しいっすね……。
それはさておいて、あーやっぱりこの髪型落ち着くっすねー! ずっと視界がひらけてるのって、何年経っても落ち着かないっす。フランさんのお顔がよく見えるのは素晴らしいことなんすけどね。いいとこ取りってできないものっす。
でも落ち着くからってこの髪型にした訳じゃないっすよ。そんな理由だったらフランさんはこんなこと提案しないっす。おれが髪を下ろしたのは、何を隠そう、おれの存在感を限りなく消すためっす!
……自分で言ってて悲しいんすけどね、おれって元々存在感がないみたいなんすよね、黙ってると。ルーちゃん曰く、何か……薄いって言うか、本当に皆無と言うか……、はは、冗談っすよね!
けど初めてルドヴィン様と会ったときも、誰もいないところからぶつぶつと話す声が聞こえたから、それにルドヴィン様がびっくりして立ち止まっちゃったらしいっすもん。それおれが花に向かって話してた声なんすよね、聞こえてたの恥ずかしいっす。まあそのお陰でルドヴィン様と一緒にいれてるんで結果オーライっすけどね!
で、おれは存在感がないらしいんすけど、声出してないときでも、髪を上げてると多少は認識されるみたいで、まあ髪下ろした状態で声出しても陰気だと思われるだけだし、少しでも改善するためにルドヴィン様とラフィーによる、おれ改造計画が……ああ、あれは今思い出しても恐ろしかったっす。とんだ恐怖体験だったっすよ。
過去の話は速やかに忘れ去って、と。つまりは髪を下ろすとほぼ空気みたいなもんなんすよね、おれ! 話し声もそんなに近くなければおれの小さい声なんて聞こえないだろうし。へへっ、実はおれぼそぼそした声出すの得意なんすよ。という訳で、髪を下ろしたところで、いざ、ルドヴィン様に連絡っす~。
「ルードーヴィーンーさーまー。聞こえるっすか~?」
「…………お前エドガーか。聞きなれない声だったから一瞬誰かと思った」
もールドヴィン様ったら! 冗談がお上手なんすから。おれの声なんていつも聞いて……えっ、冗談っすよね? いつもいつでも側にいる……わけではないけど、圧倒的におれと過ごしてる時間が長い……うん? アンくんの方が長いっすかね? ……ともかく、多分二番目くらいには長い時間を過ごしてるおれの声を、まさか聞きなれないなんて。じょ、冗談、冗談……。
「じょ、冗談なんすよね~……ルドヴィン様ー!」
「おいおい泣くな。聞きなれないって、普段の声じゃなくてその低すぎる声のことだからな。実際のお前の声だったら聞き飽きてるんだ」
泣いてないっすよ、泣く寸前っす!
なんだ、この声のことなんすね。確かにこの声、あんまりルドヴィン様の前では出してないっすからねー。仕方ない、今回は許してあげるっす!
って、聞き飽きたって言うのは酷くないっすか! 聞き馴染んだ声って言ってほしいんすけど! そういうの、失礼って言うんすよ! たっくもう!
「で、用件は何だ。もう少しでパーティーの開始時間ではあるが、何かあったのか?」
「あ、そうっす! さっきルミちゃんがラフィーと出てっちゃったんすよ。ええっと、あっ、あれっす。コナール・ニコラの妹に、わざとぶつかられた上、ジュースかけられちゃって」
「……まじか。早いな」
ルドヴィン様の予定ではもうちょっと後に何かしらされる予定だったんすよねー。それを誰かが、なるべく穏便にルミちゃんと会場を出て、そこから本題、ってなるはずだっんすけど、パーティー始まる前っすからね。さすがのルドヴィン様でも驚いちゃってるっす。
「どうするっすか? 作戦決行しちゃうっすか?」
ルドヴィン様はながーい沈黙の後に、静かに言ったっす。
「……………………、そうだな。始めるか」
おれにはびしばし伝わってくるっすよ。ルドヴィン様がめっちゃ悪い笑顔でこれを言ったことも、おれと同様どきどきわくわくしちゃってることも! 正直昔のおれだったら全力で拒否してたかもしれない作戦っすけどね。
こんなに自信が持てるようになったのも、師匠、もといルーちゃんのお陰っす。ありがとうございますっす、ルーちゃん。あとおれからのお土産もちょっとは喜んでほしいっす。メンタル激弱なの知ってるのにあんなに冷たいなんて……もうっ、ツンデレさんっすね! なんて気軽に言ったら半殺しなんで言えないっすけどね……。
「フランソワーズ嬢はそこにいるんだな?」
「はいっす!」
「よし、エドガー。動き出すまでお前はフランソワーズ嬢と気配を消して待ってろ。オレたちもすぐに出ていく」
「了解っす!」
おれの返事を聞くやいなや、通信は急にぶつっと切られたっす。ルドヴィン様もそういうところ改善するべきだと思うっす! もっとおれに優しくしてほしいっすよ! と思う反面、ルドヴィン様はこれでいい……と感じてしまうおれもいるんすよね……、おれったらなんて健気!
って、ふざけてる場合じゃないっすね。ルドヴィン様の命令に従わないと……従わないと……。
「ううう……、ふ、フランさん、その、て、手を……」
「ああ、はい。わかりました」
びやあああああああああああ!!! フランさんの手、ち、小さくて柔らか、あああああああああああああ!!! おれはなに考えてるんすか!!!!
どうしておれがフランさんと、て、手を繋がなきゃいけないのかと言うと、実はおれの存在感は他人にも多少影響を与えられるらしく、そ、その、他の人と触れあっていると、その人の存在感もおれと同じくらい薄くできて……ちょっと意味わかんないっすよね。おれもわかんないっす。自分のことなのに。
でもそんな体質のお陰か、今こうしてフランさんの手を……、そんな! だめっす! 役得だなんて思っちゃ! それに手汗がめちゃくちゃ気になるっす~!
「どうしたんですか? エドガーさん」
「な、なななな何でもないっす!」
上目遣いのフランさんかわいいー!!! かわいいは正義すぎるっすよー!
「あ、もう始まるみたいですよ」
「えっ、あっ、本当っすね」
ぐう、手の感触のせいで全然集中できないっす。ルドヴィン様、おれの意識を何とかそっちに持っててほしいっすよー! お願い、お願いするっす!
そんなおれの願いが通じたのか、ルドヴィン様の高らかな声が大音量で会場に鳴り響いてしまったっす。それはまさに鼓膜が破れんばかりの音量だったと、後のおれは語るっす。
「我が校の生徒諸君! これより、地獄の断罪式を行う!」




