使用人たちの二日目(前編)
はーい、みーんなー! みんなのアイドル、セザールさんですよー!
今日は大会二日目、使用人たちによる乱闘大会が開催されまーす。あっはっは、使用人にいらない技能すぎるのにこんな大会があるなんて、感謝の一言につきますよねー。俺達強いもん。
ま、懸念はあるっちゃあるんだけどな。これ全チームで一斉に戦って、どんだけ人数残ってるかで優勝決まるから、他も多少は潰し合うと言っても、ほとんどは俺達をまず潰しにくるだろうし。これは憶測じゃなく推測だ。人数も一番少ないから潰しやすいし、昨日優勝したから完全勝利を阻止するためでもある。実際俺が他のチームだったら間違いなくそうするし、恨みなんてしない。
あーあ、せめてエドガーがいりゃあ多少は役に立ったかもしれねえのになー! 多くを倒せないにしろ、時間まで耐え抜くことくらいはできた。くそっ、あいつなんで修学旅行行ってんだよ、使用人だろ。俺があいつくらいの時は……ルミア様やイリスと遊んでたな、うん。楽しかった。
それはさておき。つかあいつ王子付きの従者にしては若すぎんだよ! あんなひょろい奴が従者って、初めて見たときめちゃくちゃ驚いたわ! 弱そうだもん! あいつも俺に負けないくらい驚いてたけどな。ちっ、あの時俺の顔さえ見られなければ……なんて、今さらもう遅いよな。
まあ今ではそこそこ強くなったか。なんたって俺が直々に教えてんだからな! それくらいになってもらわなきゃ困る。だからこそ今回いてくれたほうが楽だった。今教えたすべてを出しきらないでどこで出すんだよ。帰ってきたときお土産献上してこなかったら、特訓メニュー倍にしてやる。昨年買ってこなかったからな!さすがに学んだよな!
さてさて、今いない奴のこと考えたってどうにもなんねえ。今は目先のことを考えないとな。正直俺達三人の中で倒れる奴ってのはいない。執事長を多少怪しんだりはしてたが、昨日もちゃんとやってくれたし、ちょっとは信用してもいいかな!とは思っている。
ってか、そもそも執事長は怪しむような相手じゃないんだけどなあ。どーも何か企んでるっぽい気がすんだよなー。俺の勘だけど。でも少なくとも今回の件には関わってないと見た。今回はらしくないとはいえ、本当に善意で手を貸してくれてるってことは俺にだってわかる。……百パーセント善意かって言われたらそれは違うんだろうけど。むしろ百パーセントアンドレ様のためって感じだし。まあ微量くらいは善意があるって思っとくかね。
ま、色々考えたけど、そろそろ大会本番だ。笑っても泣いても一回きり。思いっきりぶっ飛ばすぞー。
「よーし、二人とも。準備は万端ですかー?」
「ええ、当然よ。昨日何もできなかった分をここで返させてもらうわ」
イリスはまたそう言うこと言うんだからなー、まったっくもう。昨日ルミア様の話題に移っちゃったときはさすがに俺も我慢の限界だったけど、そもそもイリスが馬鹿にされた時点でキレかかってたんだからな、ばーか。お前と約束してなかったら殴りかかってたわ。あー、咄嗟に抑えれてよかったー、って感じだっつーの。正直執事長がフォローしてくれて安心したし。
しっかし執事長、何でフォローしてくれたんだろうなー。ああいうことはいつも本人にしか言わないんだけどな。よく客に叱られたとき裏で褒めてもらってたっけ。うーん、それこそ執事長もアンドレ様と関わることで徐々に変わっていったってことか。
「私も問題ありませんが、セザールくん、一つよろしいですか?」
「はいはーい、何ですか?」
なんかお小言言われんのかなー。褒められるのはいいけど怒られんのはやだなー。そう思いつつも元気な返事はするけどな!
「その眼鏡は外さなくていいのですか? 最悪割れることも考えられますが」
「あー、それは思ったんですけどねー。正直これないと、あんま見えないんですよね。心配ご無用ですよ。万が一のためにスペアもありますしー」
「そうなのですか。まあよく考えればセザールくんが並大抵の相手の攻撃を食らうとは思えませんしね」
はー、そりゃあそうなんだけど、その言い方めちゃくちゃひやひやする。まるで俺が元暗殺者だって気づいてるような口振りだなー。てか多分気づいてんだろうな。気づいてないんだったら、昨日俺にあんな鎌かけるようなこと言わないだろうし。もしくは旦那様が執事長にだけ伝えてるっていう可能性もあるが、旦那様はみんなには秘密にするって言ってくれたんだ。あの旦那様が約束を破るとは思えないから、おそらく何らかの理由で気づいたんだろうなー。なんで俺の秘密って怖い人にばっかり握られてんだろ。
そういえば執事長って俺が軽い感じで話しても怒んないんだなー、とふと思った。他の使用人にはちゃんと叱ってるのに。俺は最初の方しか怒られたことない気がする。イリスはそもそも俺以外にはちゃんと敬語使ってるから当てになんないけど、おそらく怒られていないのは俺だけ……。
はっ、もしやこれは昔からの信頼関係が築かれているからでは? 仲がいいと上下関係も関係ない的な? やっほーい、執事長、俺のこと大好きじゃーん!とか思えるほど俺馬鹿じゃなかったわ。単純に諦められてるか、元暗殺者だからという理由でいつか切り捨てるつもりだからか? だとしたら許せねぇ。ここで挽回して絶対執事長が切り捨てられない人間になるぜ!
「よし、じゃあ優勝狙って、えいえいおー!」
「ご無事を祈ります、執事長、セザール」
「はい、倒れるにしても相手を道連れにするんですよ」
俺のかけ声は華麗にスルーされ、二人とも敵グループへと向かっていった。少しくらい乗ってくれてもいいだろ! エドガーはこういうの好きなんだけどな……あれ、俺もしかしてエドガーに毒されてる? これからは言うのやめよ。
さてさて、俺も向かおうかと思ったけど、やっぱり俺の思った通りだな。向こうからわざわざ向かってきてくれてんじゃん。
「わざわざ足を運んでいただき、ありがとよっ、と」
とりあえず素人では瞬時に認識できない程度の速さで近づき有象無象を蹴り飛ばす。蹴りと言えばイリス、兄妹どっちもすぐ蹴るところをやめてほしいって頭悩ませてたな。確かにあの二人は意外とすぐに蹴りをかましにくる。ルミア様は本気でやってること少ないし、いざとなっても避けれるけど、アンドレ様は本気かつ精密だから避けれないんだよなー。
……実は言ってないけど、ルミア様だけでなくアンドレ様にまでいい蹴り方教えたの、俺なんだ。エドガーも加えると三人に教えたことになる。エドガーはそんなに暴力好きじゃないから緊急時にしか使わないって言ってたんだけどなー、まさかあの二人があんなにすぐ足が出るとは思わないんじゃん? しかもアンドレ様の威力や精密さに拍車かけちゃったし。あー、多分俺のせいってことになんだよなー。言うとイリスに怒られるから、やっぱ言わないでおこう。
つまり俺は蹴り技とマット運動が大好きと言うわけだ。
うまくその二つを使いながら、次々と他のチームの奴を蹴散らしていく。あ、ちゃーんと手加減はしてるから大丈夫ですよ。俺は素人じゃないんで、痛みが長続きしない戦闘不能のさせ方くらい熟知してますから。いやー、暗殺者時代に学んだことが生きた瞬間ですね! 感謝です!
他の二人をちらちらと見る。執事長は安定してんなー。もう手の動きが早すぎてゆっくりに見えるもん。もはや気持ち悪いな! 戦ったら俺勝てるかどうかわかんねーわ。
さて、イリスはーっと、うん? 苦戦してるのか? 珍しいな。あいつ俺と互角くらいの強さがあったりすんだけど、あれ? ……ああ、そうか。そういう奴か。




