仲良しの友達
ボクこと、ルミア・カルティエ、十五歳。もうすぐでこの世界の高校的なものである、スフェール学園に入学してしまうことになっている。それは同時にボクの恐れていたこともすぐそこまで来てしまっているということだ。
今さらだけど、ゲームの舞台が学園だったことくらいは、ボクにだってわかる。描かれた登場人物たちは全員制服を着ていたし、最近全く同じ制服を見たからだ。
ちなみに様々なデザインや色の種類がある中で、ボクの着る制服はボクの友達とメイドさんによって勝手に決められてしまったので、ボクの描いたルミアとは違う制服になっていた。まあボクに選ぶ権利があったとしても同じ制服は選びたくなかったから、そこはほっとしている部分である。それにシンプルでボク好みでもあるし、文句はない。
というかそれ以前に本来のルミアより身長が伸びていない。なぜ!? あまりの伸びなさに衝撃を受けて、登場人物紹介みたいなのをなんとか記憶から捻り出して、ルミアのプロフィールを書き出してみたが、身長の部分に百六十二センチと書いてあったのにも関わらず、百四十八センチしかないんだけど! これから? これからなの? プロフィールに第一学年って書いてあったけど、これからあと一ヶ月以内に伸びるの!? ボク前世もこれくらいだったんだけど!?
……とまあつまり、見た目が完全に違うということである。
だが見た目を変えたところで、ボクがルミアだということには変わりはない。少なからず主人公さんと攻略対象との恋愛の障害にされる可能性がある。主に兄様の場合において。主人公さんなら乗り越えてくれると思っているが、用心するに越したことはない。敵意がないことを主張しなければ。そして全力で後押ししよう。
しかし、元のルミアはラフィネやルドヴィンとはどういう間柄だったんだろうか。普通に考えればその二人とは何の関係もないし、恋のライバルになることもない。正直心配することもなさそうだが……どの相手のときでも友人はルミアに対して色々言っていた気がする。やはり何か関係はあったのだろうか。
でも最悪ルドヴィンとは面識があったとしても、ラフィネとはこれといって関わる理由もなくないか? ラフィネが貴族嫌いになった理由はルミアだったと言っていたけれど、ルミアがラフィネを気にする理由なんてないだろうし……。
それにフランやエドガーさんが物語に関係してくるのかもわからない。フランは仲良くなった理由が理由だし、完全に物語とは異なった人物だとは思っているのだけれど、エドガーさんはルドヴィンの従者だから何らかの役割が与えられている可能性がある。うーん、だとしたらなるべくイベント的なもの、というかスチルとやらが出てくる状況を避けるべく、エドガーさんともあまり二人で行動するのはよくないか?
「何考えてるの?」
突如かけられた声に、一度考えるのを止めると、すぐ目の前にラフィネの顔があった。
そういえば今日はラフィネだけ、家に来てたんだった。ここ最近はよく三人で遊んでいたんだが、珍しくフランの都合が合わなかったので、今日は二人だけである。驚きで声をあげながらのけぞると、ラフィネは呆れたような顔をしながらボクのすぐ隣に座った。
「さっきから呼んでたでしょ。もう、ルミアってたまに考え込むことあるよね」
「あはは、そろそろこの家とも一時的にお別れだからね。気がついたら色々考えちゃってて」
まあその考え事の中にはラフィネのことも含まれているのだが。
そうか、想像できないけどラフィネが主人公さんと恋をする可能性もあるんだよね。もちろん全力で応援するけど、もし二人が恋人になったり結婚とかしたりすると、もうラフィネはこうして一緒にいてくれなくなってしまうんだろうか。
……それは少し寂しい。主人公さんとも仲良くなれればいいかもしれないが、あまり主人公さんと関わることでルミア自身の人生が変化することがなかったら元も子もない。若くして人生終了するつもりはもうないからね。前よりは長く生きたい。
ううん、でも兄様と結婚するんだったら長い付き合いになるだろうし、少しくらいは試みてもいいだろうか。
そこまで考えた後、ふとラフィネを見て、思いついたことを口に出した。
「そういえばラフィネ、昔よりもかっこよくなったね」
先に自分が描いた絵で見てはいたものの、実物はもっとかっこよく見える。絵ではもう少しかわいかったような気がするけれど、今のラフィネは誰が見てもかっこいいと言うだろう。……それは言い過ぎかな? でも贔屓目なしにかっこいい。
それにラフィネは言いたいことはズバッと言うくせに、肝心なところは素直じゃないし、他人にも自分にも厳しいけど、実は友達思いで、困っている人を放っておけない性格だってことも知っている。うん、これは兄様にも引けをとらないぞ。
「急に何言い出してるの? 冗談ならやめてよ」
「いやいや、本当だって。外見もだけでなく中身も含めてすっごくかっこいいから。大丈夫、ボクが保証するよ」
「別に、ルミアに保証されても嬉しくないし」
そう言いながらも顔を背けて照れ隠しするところはやっぱりかわいいなぁ、と思ったが、よく考えたらラフィネはボクよりもずいぶん背が高くなってしまった。つまり敵である。全然かわいくない。
心の中で前言撤回していると、ラフィネはまだ赤い顔をしたまま、キッとボクを睨んだ。
「……それを言うならさ」
「うん、なに?」
「……ルミアも、かわいくなったね」
「うえ!?」
そ、そんな、ラフィネからかわいいなんて言葉が出てくるなんて。今まで一回もそんなこと言ったことなかったじゃないか! ラフィネが選んだ服を着たときでさえ、やっぱり似合うねくらいしか言われなかったのに。もしや正気ではないのか?
思わずラフィネのおでこに右手を当て、熱を測った。
「えっ」
ふむ、ボクよりもすごく熱い。やっぱり熱があるのかもしれない。心なしかさっきよりも顔が赤くなっているような気がする。あっ、耳までもが赤い。体調が悪いからこんなこと言ってしまったのか。それなら聞かなかったことにしてあげよう。
「よし、すぐに誰か呼んでくるから、少し待ってて!」
「ちょ、ちょっと! 何を勘違いしてるの」
「大丈夫だよ。いくらボクでも体調悪いときに言った言葉を掘り下げたりはしないからね!」
「体調悪いって、別に熱なんてないよ。今のは本心で……あー! もう! 今のなし! この話終わりね! 僕は大丈夫だからとりあえず座って! そして一旦黙って」
人を呼ぶために立ち上がったが、ラフィネに手を引っ張られ、また座り込んでしまった。本当に体調悪くないんだろうか。すごい熱だったんだけどな。もし倒れてしまったらボクが運んでいこう。体格差はあるけど……まあなんとかなるだろう。
しばらく沈黙が続いた後、ラフィネは背けていた顔をくるりとこちらに向けた。その顔はもう赤くはなかった。本当に熱じゃないのか。それなら一安心だ。
「学園、楽しみだね」
ラフィネはまっすぐボクの目を見てそう言った。ラフィネがこういうことを言うのは意外だったが、ボクも間髪いれずに、そうだね、と返した。ラフィネはこれからも、首席で卒業のために勉強しなければならないから大変だろうし、周りは貴族だらけで、ラフィネにとって嫌な空間のはずなのに、そう言ってくれることが嬉しかった。
「三年間で、たっくさん思い出作ろう。ラフィネ」
「うん、想い出たくさんできたらいいな」
そう言ってどちらからともなく笑い合った。




