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一件落着?

「このムニエルおいしいです」


「そうなんすよ! これもおいしいのでぜひ食べてみてくださいっす!」


「あ、これボク好き」


「それなら俺の分も食べるか?」


「そんなにルミアを甘やかさないでよ。あ、ルドヴィン、そっちの皿とって。届かない」


「お前ら……少しは人の話を聞く耳を持て」


 そう言いながらもとってあげるのか。優しさを感じる。

 どうして今こんな状況になっているかというと、それは約一時間前、ルドヴィンとの和解?直後に遡る。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ルドヴィンの手を引いて部屋に戻ってきたボクは、泣いた後で酷い顔をしていたエドガーさんの前に、ルドヴィンを突きだした。エドガーさんがルドヴィンの方を見ると、ルドヴィンは気まずそうに目を逸らしていたので、とりあえず叱咤激励することにした。


「ファイト! ルドヴィン! エドガーさん待ってるよ!」


「いや、まだ心の準備が」


「ルドヴィン様」


「……」


 エドガーさんに呼ばれてしまい、情けないことを言えなくなってしまったルドヴィンは、観念したかのようにエドガーさんの方に向き直った。


「……エドガー、今まで散々突き放してしまって済まなかった。もし、今からでも間に合うのなら、お前をその花束を受け取らせてくれ」


 ルドヴィンはすごく真剣な表情でそう言った。やったねエドガーさん!と思い、エドガーさんを見ると、その顔はなぜか俯いて見えなかった。


「……エドガー?」


 ルドヴィンも心配そうにエドガーさんの下へと近づいていった。どうしたんだろう。ボクも心配になって近づこうとしたが、後ろからそっと手を引かれたため、それは叶わなかった。振り向くと、人差し指を口元にあてたフランがいた。そして、フランはボクの耳元で小さく囁いた。


「大丈夫ですよ、見ててください」


 言われた通りに二人の様子を見ていると、ルドヴィンがエドガーさんの顔を覗きこもうとした瞬間に、エドガーさんの腕が動きだし、ルドヴィンを捕らえた。


「!?」


「あったりまえじゃないっすか! ルドヴィン様! 前言撤回はなしっすからね! いやっふーい!」


「離れろ、エドガー! おい! 聞いてるのか!」


「へっへへ、さすがルミちゃん! 大勝利っすね!」


 エドガーさんがこっちに向けてピースしてきたので、ボクも完全勝利の意味でピースした。ルドヴィンが照れくさいのか、何度もエドガーさんを引き剥がそうとしていたが、身長のせいかエドガーさんが剥がされることはなかった。

 あれだよね、ただでさえ皆の前で謝るのもちょっと照れるのに、さらに抱きつかれて、さすがのルドヴィンでも恥ずかしいんだよね。わかるよ。ボクにもよく抱きついてくる人がいるからね。主にこの手を引いている子なんだけども。嫌ではないから未だに突っぱねたことはないけどね。


「……とりあえずこれで一件落着ってことでいいの?」


「そうだな。これで暴露式も終わりだろう。ルミアも協力してくれていたんだな、偉いぞ」


 ……人前で頭を撫でられるのも恥ずかしいことに気がついてしまった。もっと小さい頃ならまだ純粋に喜べただろうけど、もう小学生だったら高学年に入ってる頃だし、そもそも精神年齢で言うならもっと上なので、素直には喜べない。でも兄様が撫でてくれることってありそうでそんなにないからなぁ。気持ち的には嬉しい。

 そんなことを思っていると、ルドヴィンが思い出したかのようにボクを見た。


「そういえばお前にも世話になったな。おい、ちょっと離せエドガー」


 礼を言いたいから、とルドヴィンがエドガーさんに伝えると、エドガーさんは渋々と言った様子でルドヴィンを解放した。この一瞬で一気に距離が縮まったな。本当にこの二年間、あまり仲良くできていなかったのか、疑わしくなってきた。まあ暴露式中の二人の様子は確実に演技じゃなかっただろうから、疑いようがないけれど。

 ルドヴィンはボクの目の前まで来て、フランが握っていない右手をとって、腕に口付けられた。……ん?


「此度は我が従者への助力に感謝しよう、ルミア・カルティエ。いや、オレの姫君」


 一瞬何をされたかがわからなかった。ただ気づいたときにはルドヴィンが目の前から消え、兄様がルドヴィンとの初対面時にも見せた怖い顔をして足を高く上げていた。おそらく蹴った後である。驚いて周囲を見渡すと、ルドヴィンはエドガーさんの後ろに隠れていたので、間一髪で避けれたんだな、とほっとした。食らったことはないけれど、おそらく兄様の蹴りは早くて重い。兄様の練習台にされていた木は、一蹴りで見事に折れていた。人間だったら骨の一本や二本、簡単に折れるんじゃないだろうか。やっぱり人間じゃないんじゃないか、この人。


「なんだ、アンドレ。ただ感謝の言葉を述べただけだろう?」


「感謝の言葉を述べるのに腕に口付けるのは間違っているな? 馬鹿ではないお前ならその意味くらいわかるだろう」


「さあ? 知らないなぁ」


「すみませんっす! ほんの出来心なんすよ、多分! だから命だけは! 命だけは!」


 怒っている兄様に対してなおも挑発するように言葉を発しているルドヴィンとは対照的に、二人に挟まれてしまっているエドガーさんはとても慌てていた。がんばれ、エドガーさん。


「それにオレの姫君とはどういう了見だ。誰に了承を得て言っている」


「気に入ったものを自分のものにするのに、誰かの了承がいるのか? そんなことを言ってると知らない内に取られるぜ」


「ルドヴィン様、待って! 死に急がないでほしいっす!」


 兄様は心配性だなぁ。あんなの痛くも痒くもなかったし、ルドヴィンもかっこつけただけで他意はないだろうに。きっとボクがよく知らないだけで、貴族間では挨拶のようなものなんだろう。


 こういう状況ってよくラフィネは面白そうに見てるよな、と思い、ラフィネを見てみると、想像とは裏腹に強張った表情をしていた。何か怒ってるんだろうか。

 何故かがわからなくて隣にいるフランに問いかけたが、フランは困ったような顔をしてしまった。


「うう……ルミアちゃんは罪な人ですねぇ」


「えっ!? 何で!?」


 ボクのどこが罪なんだろうか。犯罪と呼ばれるものは前世を含んでも、生まれてこのかたやった覚えがないんだが。いつの間にか法律に触れていたのか……? くっ、何がダメだったのかわからなくて自首すらできない。


「まあ、私は別にどうなってもいいんですけどね」


「いやよくないよ!?」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 その後ボクがフランにボクがやってしまった罪について聞こうとしている間に、エドガーさんが兄様に交渉し、ルドヴィンが全員分の昼食を作るという話で落ち着いたらしく、現在に至ると言うわけである。ちなみにフランは罪について教えてくれなかったが、罰せられるようなものではないとだけは教えてくれた。気にはなるけど一安心である。

 何はともあれ、おいしい料理が食べられて幸せである。まさかルドヴィンがこんなに料理上手いとは。頼んだら教えてくれるだろうか。


「本当にルドヴィン様って料理上手なんですね。私、やっと納得できました」


「ん? 納得って何に?」


「ええっと、私この前会ったとき、ルドヴィン様を過剰に怖がっていたでしょう?」


 自分で過剰にって言っちゃうのか。でもまあフランの言葉通りである。フランは初対面ではなさそうだったけれど、異常に怖がっていた。何があったかすごく気になった覚えがある。


「そうだね。あんなに怖がってるところはボクも初めて見たかな」


「はい、実は私、ルドヴィン様に初めて会ったのは大規模なお茶会のときだったんですけど。そのときに妹と一緒に作ったお菓子を持っていったら、ボロボロに言われたので、以来トラウマのようなものになっていたんです」


 そ、そうだったのか。状況をちゃんとは理解できていないけれど、初対面で作ったお菓子を酷く言われたら、そりゃあトラウマにもなるだろう。


「あ、でも大丈夫ですよ。さっきの恥ずかしい目にあってたルドヴィン様を見てチャラになりました!」


「わわわっ! フランさん優しすぎっす~! もう聖母の領域っすね!」


「ふふっ、安心してください。もうルミちゃんはとっくに聖母ですよ」


「楽しんでいるところ悪いが、その状態を見られたのはお前のせいだからな、エドガー。後で覚悟しとけよ」


 エドガーさんは死んでしまうかもしれない。次会ったときに五体満足であることを祈ろう。あとボクは聖母とか言われて何に安心すればいいんだ。全くわからない。

 ため息をつくとルドヴィンは、それはそれとして、と前置きをして、話し始めた。


「お前ら、飯を食ったら話を始めさせてもらうからな」


「は? 何の話?」


「とぼけるなよ、ラフィネ。お前らはとっくにエドガーから聞いてんだろ。こうなったらここにいる奴全員、オレの夢に巻き込んでやる」


 ……もしかしてボクはルドヴィンの夢に関して安請け合いしてしまったんだろうか、とちらりと思った。まあでも、後悔はないし……うん、いいよね?

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