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伝わらない気持ち

「ふうん、オレにはひまわりなのか。オレの印象とは違うんじゃあないのか? 花言葉なんてものは知らないが、そもそもの見た目がオレに合っていないと思えるが。数多の花の集合体であるこの花をどうしてオレに渡すのかが理解できないな。ああ、もしかしてオレの出生のことでも皮肉っているのか? ははっ、出会ったときよりも随分嫌なことを考えるようになったなぁ」


 相変わらずっすねぇ、ルドヴィン様。人が話す前にまず先手を打つのは悪い癖っすよ。だけど他人から自分を守るために、生きるために習得した術だと知ってるっすから否定はできないんすよね。それにそういう性格にした生まれと育ちが悪いとわかっているっす。大人って自分に不都合なことに対しては無責任っすわ。


「いーや、全くそんなこと考えてなかったっすね。集合体って言うなら、まさしくおれの気持ちの集合体と言えるかもっすけど」


「お前の気持ちの集合体、か。それをオレに渡すなんて、まるで恋でもしているみたいだな?」


「そうっすね、してるかもしれないっす。まあ恋じゃなくて愛なんすけど」


 ルドヴィン様は面白そうに目を細める。……おれは約二、三年の間ただ黙って背中に隠されてたわけじゃないんすよ。だからその表情はほんの少し動揺してるんだってこと、知ってるんす。あんたは自分が思っているほど、感情を隠すのは得意じゃない。


「このひまわりはおれですよ、ルドヴィン様」


「これがお前か? ちっぽけなもんだなぁ、」


「ひまわりって太陽を追いかけるんすよ」


 ルドヴィン様が何かを言い出す前に話さなければ、まともなことも言えずに話が終わってしまうっす。ご主人様に無礼だって言われても別にいいっすから、おれはルドヴィン様と話がしたいんす。


「ひまわりの花言葉は憧れ。さらに言えば小輪のひまわりは光輝。ねえ、おれにとってあんたは太陽なんです。おれを拾ってくれたあの日から。気づいてましたか。あんた、おれと二人だけのときはいつも必要以上にしてる警戒、解いてるんすよ」


「それは」


「おれがただの恩だけであんたと一緒にいると思ってるんすか。おれがただの同情だけであんたに付き従ってると思ってるんすか。それなら大間違いっすね。おれはあんたが好きで一緒にいるんすよ。おれはあんたが思ってるよりもずっと冷たい人間っすから、そうじゃなきゃとっくに逃げてるっすよ。なので、おれの大事なルドヴィン様を卑下しないでもらえますか」


「……だが、お前もわかっているだろう?」


 ルドヴィン様の言いたいことはわかっているつもりっす。それでも、のけ者にされているあんたに一人じゃないって伝えたくて。本当は他人がいる場ではなく、二人だけで話した方がいいと思ってたんすけど、おれにはそんな勇気がなかったから、人に頼ることでしかあんたの心を溶かす方法が思いつかなかったから、こんな形になってしまったんですけど。


「あんた、自分に自信があるふりして、本当は一番自分のことこけにしてるって知ってるっすよ」


「だとしたらなんだ」


「だから自己の肯定のためにあの膨大な夢を叶えたいんすよね。誰から何と言われようと、諦めきれない自分のための夢っす。そんな夢を抱えているあんたが、おれは大好きです」


「……」


「どうしておれをあんたの夢の一員にしてくれないんすか。どうしておれを護ったまま、何にも触れないように仕舞っておくんすか。どうしておれだけきれいなままなんすか。どうしておれを、たよってくれないんすか」


 最後の方は知らない間に涙声になってしまっていようっす。あーあ。この状況、他の人は全くわかんないっすよねぇ。やっぱりみんなの前でする話じゃないっすよね。アンくんまでの場の空気が台無しっすわ。

 それでもルドヴィン様には伝えたいことがたくさんあって、どうしてもルドヴィン様だけは花に重ねられなくて。自分の気持ちを押しつけることしかできないんすよ。ああもう、どうして一番伝えたいことがある人には伝わらないんだろう。なんでおれの目からは涙が溢れてきているんだろう。


「ルドヴィンさま、」


 すがるような思いでルドヴィン様を見ても、ただ悲しそうな瞳でこちらを見ているだけで。ああ、やっぱりおれの気持ちを受け止めてくれてはいないんすね。どうして周りは誰もわかってくれないんすか。彼の母親も、王様も、兄弟も、世話係でさえも、みんなこの方を悪い子に仕立てあげる。本当は聡明で、懐に入ったものには誰よりも優しい人なのに。


 ダメ元でひまわりの花束を目の前に差し出した。そんな目で見ないでください、ルドヴィン様。わかってるっす、あんたがこの花束を受け取ってくれないことくらい。それでもあんたにこの花をもってもらいたかったんす。おれのことを対等にしてほしかったんす。


「エドガー。お前には悪いが、これは受け取れない」


 ルドヴィン様はうつむきながら首を振って、感情を押し殺したような声でそう言いました。そんなつらいこと言わせてしまってすみません。泣きたいのはあんたの方なんすよね。尾首にもださないけれど、おれのことを大切にしてくれているから、突き放すのは自分も傷つくし、それ以上に危険なことには関わらせたくないってことを、ちゃんと理解してるつもりっす。

 でも、あんたの孤独はおれが想像するよりもずっと深いだろうけど、おれなんかじゃその支えにも、なれないんすかね……。


 ルドヴィン様が踵を返しておれの前から足早に立ち去っていく光景を、ただ呆然と見ることしかできなくて、やっぱりおれじゃだめなんだな、と思ってしまった。だけど、


「ルミちゃん!」


「了解です、エドガーさん!」


 残念っすね。何度シミュレーションしたと思ってるんすか。このくらい予想の範疇っすよ、ルドヴィン様。

 おれじゃだめなら、他の人に任せるっす。それを付き合いの長いアンくんに任せるんじゃなく、ルミちゃんに任せる理由は、半分勘っすけど、もう半分はルドヴィン様のことをよく知らないルミちゃんになら、本心で言いやすいと思ったからっす。ルドヴィン様は元から他人とは距離を置く人っすけど、ルミちゃんとの境界線はあからさまに目に見えるように引いている。それは呼び方からもう明らかっす。だからこそ、ルミちゃんとの対話に意味がある……と思うっす。


 ルミちゃんがルドヴィン様を追いかけて、その姿が見えなくなると、全身から力が抜けて、床に座り込んでしまったっす。この展開を予想していたとはいえ、実際に起こると精神にくるっすねぇ。本番前の緊張も相まって、どっと疲れがでたっす。


「大丈夫ですか、エドガーさん。私のハンカチでよければお使いください」


「うおえ!? あ、ありがとうございますっす!」


 ひ、ひええ、フランさんのハンカチ……良い匂いがするっす。やっぱり花の妖精さんなんじゃないっすか! もう! そうでなかったら天使か女神か……。


「なに、今の展開。全っ然わかんなかった。二人の関係は意外と複雑ってことくらいしか」


「俺もある程度は知っているが、詳しくはな。すまないがエドガー、俺たちにもわかるように教えてくれないだろうか」


 あー、そうっすよね。みんなの前であんな話したら気になるっすよねぇ。ラフィーに至ってはルドヴィン様と会うのは本日二度目っすもんね。置いていかれて当然っすわ。


「はい、おれの知ってることなら全部お話ししてあげるっす。おれのちょっとした昔話みたいなもんすけどね」


 それはおれが、ルドヴィン様の傍にいたいと思った時の話っすから、疲れていてもきっと寸分違わず言えるはずっす。

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