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暴露式開幕

 はあ~、いよいよっすか。約十一年、あ、もうすぐ十二年っすね。その人生の中でこんなに緊張したことって、多分一度だってないんすもん。緊張して当然っすよね。知らない人たちに話すのも無理っすけど、知ってる人に話すのも正直無理っすわ。本当はこの場から逃げ出したいくらいなんすよね。

 ルミちゃんの場合はその場のなり行きっていうか、ルミちゃんの方から歩み寄ってきてくれたので、まだ気が楽だったすけど、今回はおれの方から行かなくちゃいけないっすから、気が重くてしょうがないっす。

 こんなに億劫なのに、それでもルミちゃんの提案に乗ったのは、他の三人はともかく、あの方とこのままの関係でいいはずがないという気持ちが、ずぅっと前から少なからずあったわけで。彼らとも仲良くなれたら万々歳っすけど、それは言わばサブミッション。フランさんともすっごくお近づきになりたい気持ちはありますが、真の目的はあの方との関係の構築っすからね。忘れてはいけないことっす。


 おれの部屋じゃごちゃごちゃしてて雰囲気の欠片もないと思ったんで、ここに来たんすけど……せっかくステージまであるのに使わないのはもったいないっよね。ここまで来たら死なばもろとも! 司会役もよろしく頼むっすよ、ルミちゃん。


「レディー アンド ジェントルメーン! これより、エドガーさんによる暴露式を始めます! ご来場の皆様はステージにお上がりくださーい!」


 さっきまでおれと舞台袖にいたルミちゃんは、大きな声でそう言ったっす。若干やけくそ気味っすね! ていうか暴露式ってなんすか! もうちょっといい名前つけてほしいっす! かっこ悪いじゃないっすか! まあ間違ってはないんすけどね。……よし、ルミちゃんも改めてこういうことをするのにちょびっとだけ照れがあると言うことで、よしとしてあげるっすよ。

 ルミちゃんが予想だにしないところから出て来て、みんな驚いた顔してるっすけど、やっぱり一人だけ全っ然表情変わってないっすね~。もう! いつもあの余裕そうな笑顔なんすから! ちょっとくらい表情にバリエーションがほしいっすよね!


「はーい、早く上がった上がった。時間は待ってくれないからね」


 すぐにステージに上がりにこないので、ルミちゃんがステージを下りて全員上げに行きました。もうこれは……例えるなら肉食動物の狩りのような……あ、でも一部の人は捕まえられて嬉しそうだし、結果オーライっすね。幸せそうで何よりっすわ。うん、そう思うことにしときましょう。

 そして無事狩りが終了したようっす。はー、いけるっすかね、おれ。心臓爆発しないかだけが心配っす。いや嘘っすね。他にも心配事たくさんあるっすよ。考えたくないだけで。


「はい、エドガーさん、入場~!」


 もはやキャラ変わってないすか、ルミちゃん。やけくそにもほどがあるっすよ。ああー、でもこんな状況でも発揮されるその元気さ、さすがメランポジウムっす。いい成長の仕方してるんすね。冬になったら枯れないか心配っす。

 まあ入場しろと言われたらしてあげるのが世の情けっす。ルミちゃんの行動見てたら何か緊張も収まってきましたし、入場してやろうじゃないっすか!


 ……と言っても足は震える~。みんなに見られてるせいか緊張も舞い戻ってきたんすけど。今すぐ逃げ出して植物に囲まれたい気持ちでいっぱいなんすけど! でもここで逃げたら、いよいよあの方に護られるのではなく、突き放されるかもしれない。よし、おれもできるってところ証明してやるっすよ!


「よーし、エドガーさん、お願いします!」


 さて、ま・ず・は、フランさんからっす。おれが目の前に立った瞬間に、フランさんは、じっと、おれを見てきています。そんなに見ないでくださいっす! 美少女の視線で殺される、どうか、どうか命だけは! と思ってたらさりげなくルミちゃんに花束を渡されてしまったっす。うん、ちゃんと合ってるっすね。造花とは言え花が手元にあると落ち着くっすねぇ。いけるような気がしてきたっすよ!


「あ、の、フランソワーズさん!」


「はい、何でしょうか」


 うわー! 美少女の上目遣いかわいっ! 本当に花の妖精さんじゃないんすか、もー!

 ってこんなこと考えてる場合じゃなかった、そう思い出せ、いつものおれを。いつもの花と戯れているときのおれを。……あ、気持ち的にはこんな感じっすね、いつも。何か落ち着いてきたっす。


「こ、これを……」


 ああん、おれの意気地無し! 普通に花束渡してるだけじゃないっすか!! こんなじゃ気持ちの気の字も伝わってないっすよ。ばーか、おれのばーか!


「この花、ゴデチアですか?」


 ………………わ、


「わかるっすか!? そうっす! ゴデチアなんすよ、その花! フランさんは一目見たときから可憐で清楚でかわいらしいと思ってたんすけど、この間の話を聞いてただ単にそういう見た目で同じような花言葉の花じゃダメだと思いまして、その時真っ先に思い浮かんだのがゴデチアなんす! ゴデチアは見た目は華やかな感じで一見フランさんのイメージとは違うように見えますが、その華やかさの中にはお上品な美しさがあるのでフランさんにぴったり! それにフランさんには可憐なだけでなく積極的なところもあるので、それがよりお上品な花に特化するよりも、多少の派手さがあった方がそれらしいと思ったっす! さらにさらに花言葉は変わらぬ愛。まさしくフランさんのルミちゃんへの熱烈な愛と当てはまると思うんすよ!」


 はっ、つい長々と語ってしまったっす。しかも一目見たときからかわいいと思ってたって、それだけじろじろ見てたって言ってるのと同じじゃないっすか! きもすぎるっす! うわあ、フランさんも驚いてしまっている~。これは引かれた、もう死ぬしかない。すみませんっす、ルミちゃん。せっかく協力してくれたのにここで終わりみたいっす。ああ……。


「……ええっと、つまりこのゴデチアを私のために選んでくださったのですね?」


「は、はい、そうっす。お近づきの印に、というか、フランさんとお、お友達になりたくて……」


「そう、ですか」


 ど、どうなってしまうんすか、おれ。ここで首切られるんすかね。それもフランさん相手なら本望! いや、まだ未練はあるんすけど、そうなっても仕方ないことを言ってしまったっすから、甘んじて受けるっすよ! さあ!


「あの、私、こういうことを言われ慣れてなくて」


「はい、すみません。引いたっすよね……」


「そ、んなことはありません。あの、私、家族以外の異性に可憐だとか、かわいらしいとか言われるのは初めてで、それに私のルミアちゃんへの愛まで理解してくださっていて」


 ふ、フランさん? 何やら思っていた反応と違うような……。


「えっと、と、とっても嬉しいです……! 私でよければぜひお友達にしてくださぁい!」


「へあっ!?」


 思わずルミちゃんの方を見てしまった。良い笑顔でおれに頷いてきた。えっ、本当に? まじ? フランさんが?


「ほ、本当ですか……?」


「は、はい。エドガーさんなら特別に、フランと呼ぶのも許可してあげます。あれ? でももう呼んでいたような……」


「あっ、す、すみませんっす! 素敵なお名前をお花にニックネーム付けるみたいに気軽に呼んでしまって本当に申し訳ないっす!」


「いえ、もう気軽に呼んでくださって結構ですよ。あなたなら」


 はわわわわわ、これ夢じゃないっすよね。現実? お、おれに許可してくれるなんて! ルミちゃん普通に呼んでるけど、それは仕方ないことですし。おれなんかより付き合いの長い人ばかりなのに、許可をもらえるなんて。


「しぬ……」


「うん、エドガーさん。とりあえず次行こうか。当初の目的忘れないで」


 おっと、そうだったっす。ちょっと幸せすぎて思考が飛んでたっすね。気を引き締め直さなければ。


「ありがとうございますっす、フランさん」


「こちらこそ、すてきなゴデチアをありがとうございます」


「激かわ……」


「よし、次行こうね、エドガーさん。ありがとう、フラン」


「ひょわ……」


 ルミちゃんに強引押されたおれは我にかえりましたが、ルミちゃんにカウンターをくらったフランさんは、今日もルミアちゃんの笑顔が尊い……と言いながら座り込んでしまったっす。そんな姿もかわいい……。

 じゃなかった。次っすよね。あと三人もいるんすから、頭溶かしてる場合じゃないっすよね。よーし、次は呆れ果てた目で見てた君っすよ、ラフィネくん!

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