表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/223

変人王子

「どうしたんだ? そんな聞きたくないものを聞いてしまったような顔をして。心配しなくても大丈夫だ。あいつとはせめて学園に入学するまでは会わせないようにするからな」


 兄様の言葉は嬉しいのだけれど、あいにくそれどころじゃない。


 ルドヴィン、ルドヴィンか……。存在してたのか……。当たり前だけどショックだ。そして王子だったのか。それは知らなかった。

 ルドヴィンという名前は何度も何度も、嫌になるくらい聞いた。そうだ、友人が一番好きだったのがルドヴィンだった。やっと思い出した。友人がこのゲームの話をしていたときの八割は彼の話だったはずだ。その四分の一も覚えてないと思うけれど。それでもさすがに名前は覚えていた。


 何を隠そう、パッケージ中央にでかでかと描かれている人である。今からスチルを描こうと思えば二、三枚は違うのが描けるかもしれない。それくらい友人はルドヴィンに熱中していた。

 もちろん全員好きだと言っていたし、好きなエンディングは確か……はーれむえんど、だったっけ。それが好きだと言っていた。ボクはそれがどういう結末なのかは知らないが、多分幸せそうなものなのだろう。大前提としてルミアは死んでしまっていると思うけど、それでも登場人物的には幸せな終わりだ。……それは断固として阻止しなければならないので、どういう結末なのか知っておけばよかった。こういうことは詳しくないからさっぱり見当がつかない。


 まあそれはその時期が近づいてきたら考えよう。わからないものはいくら考えてもわからないからね。とにかくボクが山場を越えさえすればこっちのものだ。舞台は学園だったのだから、卒業すれば死にはしないだろうと思っている。うーん、甘い考えだろうか。


「それで、そのルドヴィンさんと何があったの」


 ああそっか、本題はそれだったっけ。出てきた名前の衝撃ですっかり忘れていた。


「確か……ご令嬢に囲まれていたときに、ルドヴィンに声をかけられてな……」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「やけに女に囲まれてる色男がいると思えば……、よお、アンドレ。ずいぶん久しいな」


「ルドヴィン」


 この時の俺は相当気が立っていたから、久しぶりに会うルドヴィンに何の感慨も抱かなかった。ルドヴィンは他の貴族たちに比べて飄々としたやつだったから、なんとなく懐かしく感じなかったのも理由の一つかもしれない。とにかく、俺にはルドヴィンの相手をする余裕は微塵もなかった。


「風の噂によれば、母親にも取り巻きの女にも見限られ、父親を亡くした挙げ句に、一人娘がいるカルティエ侯爵の下に引き取られたそうだが。根っからの女嫌いに拍車をかけたお前のことだ、どうせその娘ともうまくやれていないんだろうな? いや、妹と言った方がいいか? お前に新しくできた妹なんだから、それはそれはかわいいだろうよ。なあ? アンドレ」


 ルドヴィンは何か言っていたようだが、あまりよく聞いていなかった。ただルミアとの不仲を断言されたことだけはわかって、さらに頭に血が上った。今思えばルドヴィンは人から情報を引き出すとき、いつも鼻につく話し方で相手の調子を乱すから、まんまと乗せられたわけだ。今度会ったら仕返してやろう。


「そうだな、かわいいぞ。俺はあの子の兄になるために生まれてきたと言っても過言ではないな」


「……ふうん、見ない間に変わったな。以前は誰の前だったとしても、思ってもいないことを口に出す人間じゃあなかったと記憶しているが。覚え違いだったか」


「いいや、それで合っている。変わったのは俺の価値観の方だな」


「ほう?」


 ほんの少しだけ表情を変えたルドヴィンに俺ははっきりと言ってやった。


「言わせてもらうが、俺の妹はこの世界で一番かわいい、太陽のような女性だ」


 意外そうなルドヴィンの表情に俺はしてやったりという気持ちになった。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「だが思えば、俺がそう言い切ってしまったことが、より面倒な方向へと、ルドヴィンをいざなってしまった。俺に本気でそこまで言わせるルミアの存在にルドヴィンは興味を持ってしまったんだ。はあ、悪いやつではないんだが、あいつは自分が面白いと思ったものを手中に収める癖があるからな。ルミアに出会ってしまったときのことを考えると……もう暗殺計画を企てるしか……」


「待って、兄様。早まらないで」


 ルドヴィンの性格がそこまでよくないことがわかったし、兄様が対応を失敗したこともわかったから、ちょっと待ってくれ。一度整理させてくれ。

 つまりルドヴィンの挑発に、元々調子を崩していた兄様が乗ってしまい、結果的にボクに興味を持ってしまったと。……なかなかヤバイ状態だね!? こっちが接触を避けても向こうから来てしまうというわけだ。ボクの人生的にかなり危ういのでは。


 でもここで兄様を責めることはできない。兄様も行きたくないパーティーに行った時点で精神は消耗していただろうし、さらに血が上ってしまっていたならこの状況も、うん、仕方ないことなんだろう。ボクが全力でルドヴィンに会わないようにすれば、それで大丈夫かもしれないし……あれ?


「学園に入学するまでは会わせないようにするって、学園では必ず会わなきゃいけないってこと?」


 ボクがそう聞くと、兄様は非常に苦い顔をした。おそらく肯定の表情である。わかりにくいけど。


「……そうだな。学園ではおそらく俺と行動を共にしているから、俺がルミアに会いに行ったらついてきてしまう」


 会いに来なければいいのでは、という言葉は飲み込んだ。さすがに兄様にそう言うのは酷だし、ボクも会えなかったら寂しい。折角三年制の学園で一年だけ被るのに、ずっと離れて過ごすのも嫌だ。


「学園で一緒にいるって、話だけ聞くと険悪そうなのに、結構仲いいんだね」


「ああ、仲がいいというか……話が合うのがあいつだけなんだ。基本貴族の子供の話って、関係ない話題から自分の自慢もしくは相手への侮蔑に繋げることばかりだから、あいつといると楽なんだ。まともな大人はそんなことはないけど、そんなに話す機会もないしな」


「うわっ、息苦しそうだね」


「他人事のように言ってるが、ラフィネも学園に入ったら嫌でも行かなきゃならないからな」


 兄様にそう言われると、ラフィネは嫌そうな顔をした。正直、ボクも嫌だ。今学んでいるとはいえ、他の子に比べてマナーもなっていないだろうし、何より兄様の件に関して何か言われそうな気がする。モテる人の妹というのも大変なんだな。今から対策を練るしかない。


「まあ学園という枠内でだけのパーティーだから、本来のものとは違って楽だろう。最初の一年だけは俺もサポートしてやれるしな」


「あー、じゃあお願いしようかな。ルミアじゃ経験あっても頼りなさそうだし」


「そ、そんなことないし。ボクだって経験を積めば、ラフィネよりはうまく立ち回れるようになると思うよ?」


 だからそんな慈愛に満ちた顔で見ないでくれ、兄様! 見栄張ってないから。ボクならできるって思ってるから、多分。


「そ、それより、今はルドヴィン様の話でしょ。ほら、どんな人なの?」


 話題を戻そうとすると、兄様は急に怖い顔をした。


「何だ? ルドヴィンのことが気になるのか? 絶対にあいつは認めないからな」


「気になってないよ! 今後パーティーとかで会ったとき、兄様の妹としてちゃんと挨拶したいからさ」


 嘘だ。本当は少しでも情報をもらって、出くわしたときの対処法を考えたいのだ。できるだけ関わらない方向に持っていきたい。兄様ならなにか有益な情報を持っているような気がするし、ここで聞かずに後で全く関係ないときに聞いたら、それこそ兄様が怪しむかもしれない。ルドヴィンの命がなくなるのは、ボクも本意ではないので、極力穏便にすませたい。


 兄様は少し訝しげな顔をしていたが、すぐに答え始めた。


「あいつは一言で表すなら変人だ」


「変人?」


 思いもよらない言葉を復唱すると、兄様はそうだ、と頷いて続けた。


「年相応ではない……というのは俺に言われたくないか。俺以上に達観していて底の知れないやつだ。あとは……兄弟が勉強している中一人抜け出して、自室のバルコニーで黙って空を見上げていたり、さっきまで違う場所にいたはずなのに知らない間に後ろにいたりする。他にも奇行が多いから完全に城では腫れ物扱いされている。世話係も何人か辞めているのはそのせいだろうな」


「超問題児じゃん」


 本当に兄様と気が合うのか、そいつ。それともタイプが違うから仲良くなったのだろうか。ボクもそういうことあったぞ。まさしく友人とはそんな感じだった。

 まあ、それはさておき。いい情報が聞けたんじゃないだろうか。ボクがルドヴィンを避けるためには、


 注意力と気配察知能力の向上、それしかない。


「ありがとう、兄様。いい対策が練れそうだよ」


「ああ……対策?」


 おっと、うっかり余計なことまで口に出してしまっていた。だが、あいつの一挙一動に集中する力、もしくは背後に回られた場合にいち早く察知できれば、接触を避けられるのではないだろうか。よし、そうと決まればお茶会が終わったら、すぐにイリスさんとセザールさんに伝えないと。


「あ、そういえば」


 ラフィネが思い出したように言った。


「いいことってなんだったの?」


 そういえばいいこともあったって言ってたっけ。兄様には悪いが、ルドヴィンの件ですっかり忘れていた。


「ああ、それか」


 兄様はいいことを思い出したのか、今日一いい笑顔で、なぜかボクを見た。


「あの場にいた誰よりもルミアがかわいかったということだ」


「……は」


「あー、しょうもないことだろうとは思ってたけど、それは考え付かなかった」


 ……ああ、ボクのせいで兄様の結婚条件も跳ね上がってたのか。ごめんなさい、今のボクよりもかわいい世の中のお嬢様たち。ボクにもどうしようもないので、命だけは取らないでください。

 そんなことを心の底から思ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ