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当日の打ち合わせ

 兄様の指示により全ての画材が片付けられ、ボクたちは無事、打ち合わせをすることになった。どうやらティチアーノさんとフェルツィウムさんも計画に参加するらしく、それぞれ撹乱班と出席班の話し合いに加わっていた。つまり、我らが潜入班に増員はないと言うことである。


 ちなみに、ただ証拠がほしいだけなら出席班は必要ないんじゃないか、とルドヴィンに聞いてみたところ、お前はアホかと一蹴された。今回のボクらの訪問は、パーティーの出席と言う名目になっているらしく、出席班がいないと不自然だと思われ、ボクたちを出席することが確定しているフェルツィウムさんに危害が及ぶ可能性があるらしい。フェルツィウムさんの家であるこの氷の城にボクたちを滞在させているからだろう。次期王様であるフェルツィウムさんにあまり手荒なことをするとは考えられないが、相手も力を持っている貴族だ。今後のフェルツィウムさんの立場にどんな影響が出るかわからない。……魔法使いであるティチアーノさんがいる限り、どんなに力を持っている家柄だろうと簡単に握りつぶせるらしいが、それは置いといて。

 それならせめて、エルメステラの王族であり、フェルツィウムさんの友人であるルドヴィンが出席班じゃないとダメなんじゃないか、と言うと、ルドヴィンはすごく良い笑顔で言った。オレはディゾルマジーアのパーティーに出席しても途中で抜けたり、相手の神経逆撫でするようなことを言ったりするから、王族主催のパーティー以外は出禁なんだ、と。それを聞いて、呆れよりも心配が勝った。本当に外交官としてやっていけてるんだろうか。というか大体のパーティーを出禁になる他国の王子ってやばいな。相当なことやったんだろうな。そう思うと、アホと呼ばれた怒りはどうでもよくなっていた。ただ自国の安寧を願うばかりである。


 まあルドヴィンのことはさておき。ボクたち潜入班は四人で集まり、当日のことについて話し合っていた。


「うーん、ルミア様を危険な目に合わせるわけにはいかないし、俺達がこっちのバレやすそうな方を、って言いたいところなんですけど、ステルス要員がいる分そっちが行ってくれた方が楽なんですよねぇ」


「ステルス要員?」


 聞き覚えのないセザールさんの言葉を復唱すると、エドガーさんは怒ったように、わざとらしく頬を膨らませた。


「もう! 酷いっすよルーちゃん! まるでおれのことを都合がいい影の薄さみたいな言い方して!」


「そこまでは言ってねえだろ空気」


「あーっ! 空気って言った! 今空気って言ったっすよね! おれ泣いちゃうっすよ!」


「お前が泣いたところで、俺の心は痛まないんだよなー」


「おにーっ!」


 ……とりあえず、ステルス要員というのはエドガーさんのこと、って解釈していいんだろうか。影が薄いとか空気とか言ってるし、そういう意味の言葉なんだと思う。

 言いにくいけれど、確かにエドガーさんは、口を開けばいつも元気だけど、黙っていると視認できなくなるというか、存在を忘れるというか……。とにかく、エドガーさんがそういう体質だから、ルドヴィンも潜入班にしたんだろうな。隠れて探し物をするにはうってつけの体質だ。


「ということは、ボクたちがこっちから行けばいいのかな?」


「大変心苦しいのですが、極力悟られないようにするとなると、そうしてくださると助かります。申し訳ございません、ルミア様」


 本当に申し訳なさそうにそう言うイリスさんに、ボクは安心させようと笑いかけた。


「ううん、大丈夫だよ。イリスさんやセザールさんが危険に陥る可能性を少しでもなくしたいし、二人に鍛えてもらって、ボクも強くなったからね! いざとなったらボクがエドガーさんを守れるくらいには!」


 自信満々にボクがそう言うと、セザールさんに怒っていたエドガーさんが、そのままの勢いでこっちに口を挟んできた。


「え!? おれ、ルミちゃんに守られるほど貧弱じゃないっすよ!? 舐めないでください!」


「さっすがルミア様! こんなよわっちい奴まで守れるほど強くなったとは、感動で涙が出てきそうですよ」


「嘘っすよ! 涙なんて一滴だって出さないくせに! この前おれのこと褒めてくれたじゃないっすかー!」


「うっわ、近寄らないでくれますー?」


 エドガーさんって、セザールさんを怖がってるわりには意外とぐいぐい行くよなあ。元々慣れた相手にはそういう関わり方をするんだろうけど、普通は怖いと思ってる相手に、あんなに近寄っていけないはずだ。

 つまるところ、仲は悪くないんだと思う。昔は仲がいいのか悪いのかよくわからなかったけど、今ならなんとなくわかる気がする。仲は悪くないが、いいとも言いきれないって感じだ、多分。


 計画の段取りを確認するために、イリスさんとお茶を啜りながら二人を眺めていた。しかし、数分待っても二人の会話は終わらないので、痺れを切らしたイリスさんがボクに提案してきた。


「さあ、あの二人のことは放っておいて、話を進めましょうか、ルミア様」


 いつも通りの何も動じていないような表情ではあるけれど、何も感じていないわけではない。ボクにはわかる。これはちょっと怒っているときの顔だ。なので、ボクはもうちょっと待とうとは言わず、肯定の言葉を口にした。


「うん、そうだね。じゃあまずボクたちはここから……」


「待ってください! 俺も仲間にいれてください!」


 イリスさんの怒りに気づけたのか、セザールさんが切羽詰まった様子でそう言ってきた。けれど、イリスさんはそちらに顔を向けないまま、セザールさんに言葉を返す。


「あら、話が弾んでいるなら結構だわ。わたくしとルミア様はあなたの相手をしてあげられるほど暇じゃないもの」


「終わったから! もうこいつの話なんて聞きたくもないから!」


「酷いっす! ルーちゃんには後で教えてあげるから、とりあえずおれを話に入れてほしいっす、スーちゃん!」


 イリスさんに二人が泣きついてる様、端から見てるとものすごく面白い光景である。いい歳してこんなことしてるのはどうかと思うが、それを差し引いて見ていると面白く感じる。なんか、こう、一瞬で力関係がわかってしまう的な意味で。


 って、楽しんでる場合じゃないよね。このままだと話は進まないわけだし、そろそろ許してあげた方がいいか。イリスさんもちょっと笑ってるし、問題ないだろう。


「よし。気を取り直して、四人で話し合いを再開しよっか。ね、イリスさん」


 そうイリスさんに話しかけると、イリスさんは柔らかく微笑んで、軽く頷いた。


「はい。ルミア様がそうおっしゃるのでしたら、わたくしも構いません」


「る、ルミちゃん……信じてたっす!」


「ルミア様、さすがは俺達の主ですね!」


 こういう時は調子のいいこと言うんだから。 まあいいんだけどさ。


 さてと、ボクらはかなり警備が厳しくなるであろう正門から、出席班と同じ馬車に乗って侵入しなければならない。出席班が降りるのと同時に馬車から降りて、さすがに出席者と一緒に、堂々と扉から入っていくことはできないので、庭にある複数の入口の一つからこっそりと入っていく予定だ。そこから怪しいと思われる部屋を北側から調べていく。

 逆に、イリスさんとセザールさんは、裏口から潜入して、南側から証拠を探っていくらしい。一つ一つの部屋であるかわからない探し物をするというのはかなりの時間を要するので、作業の分担をしなければならない、ということだ。パーティーの時間は長いけれど、誰にも見つからないことが大事だし、時間内までに終えられなければ脱出がより困難になるから、二手に別れる必要があるのだ。

 帰りは裏口で合流し、四人で脱出する。万が一、片方が時間になっても帰ってこない場合、もしくは緊急事態で急いで外に出なければならない場合は、合流せずに脱出してもいい。待っているとそちらも脱出が困難になる恐れがあるからだ。そんなことないといいけど……まあ、当日になってみなきゃわからないよね。


 他にも色々と確認しあい、できるだけ万全の状態にしておく。こうしていると身が引き締まってくる。そうだ、ボクたちは遊びに来たわけではない。ルドヴィンのためにも、この計画を成功に導かなければならないのだから。

 そう思いながらも、ボクは当日に、何事もないように祈るばかりだった。

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